デジタルビジネス環境に対応する経理/財務オペレーションの高度化その②(決算業務)

作成者:市瀬 優子 投稿日:2016年9月8日

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前回のブログではデジタルビジネス環境下でどのように債権管理を高度化するかについて書きましたが、今回のテーマは「決算業務」です。
決算とデジタルビジネス、一見関連が薄いようにも思えますが、そんなことはありません。ビジネスの拡大やグローバル化により企業規模が拡大すると、必然的に業務トランザクションも多くなり、月末・期末決算業務もますます複雑化します。日々、複雑化していく企業経営下においても「決算早期化」に対する需要は依然として高く、その手段の一つとしての「決算効率化」も重要性が増してきます。
一方、決算早期化に対する経済効果は年間2,600億円との試算も出ており、案外金額的なメリットの大きい分野であることも既知の通りです。今後より一層の過熱が予測されるデジタルビジネス、その過渡期である今は、決算業務のあり方について考えるとてもいい機会ではないでしょうか?

当ブログでは、決算早期化(決算効率化)に対しSAP S/4HANAをどう活用できるか掘り下げていきます。

ソフトクローズとハードクローズ

決算業務といっても、会計業務においては日次業務と連続性・一貫性を持つものということはご存知の通りです。
そのような性質上、決算期になったのでいざ決算業務を始めよう、というのではなく、

  • 決算時に行っていた作業を決算の「前」から徐々に行っていき(ソフトクローズ)、
  • 本決算期に行う決算業務(ハードクローズ)をシンプル化する

という方向性で決算効率化を目指すことができるのではないかと考えています。
この「ソフトクローズ」「ハードクローズ」を軸として、それぞれの段階における決算効率化施策を考えていきます。

WS000000ソフトクローズに関する施策

ソフトクローズに関しては、従来決算時に行っていた作業を「リアルタイム」に行う、もしくは「前倒し」で行うという2通りのアプローチが考えられます。

決算処理で行っていたことを「リアルタイム」に行う

既に当ブログでもお伝えしていますが、SAP S/4HANAにおいてデータモデルはシンプル化され、会計データは一元的に管理されます(ユニバーサルジャーナル)。これにより各帳簿間の照合作業や、分析のために各帳簿やシステムからデータをマージしてレポートを作る、という作業は不要となっており、締めのタイミングを待たなければ把握できなかった情報を必要なタイミングですぐに把握することを実現しています。
下記は収益性分析の例です。SAP S/4HANAにおいては、一次転記の段階で関連する収益特性への転記が行われ、それらをユニバーサルジャーナル内に帳簿(財務会計と管理会計と収益分析)の整合性がとれた状態でただちに格納することが可能になります。レポートはそのテーブルをもとに出力されるため、最新のデータの詳細レベルでの分析がいつでも可能です。

WS000001また、レポートはそのテーブルをもとに出力されるため、複数帳簿に跨った最新のデータを詳細レベルでいつでも分析することができます。

WS000002

 

決算処理で行っていたことを「前倒し」で行う

決算処理を待たなければできない業務を、日次処理の延長線上に前倒しして行い、決算時の作業を減らすという策も考えられます。
ターゲットとなりえる業務として、内部取引照合について考えてみましょう。内部取引照合が決算時のボトルネックになっている、という話を非常によく聞きます。原因は様々ですが、締め間際にならないと内部取引に必要な情報が揃ってこないということが特に大きいのではないでしょうか。
この解決策として役立つのが、セントラルファイナンスです。

WS000003

従来の会計システムでは、内部取引データ収集のため各システムからのバッチ処理が必要であり、結果としてタイムラグが生じ作業の遅延の原因となっていました。また、外部システムとERPシステムでのデータ粒度が揃わず、照合作業に手間がかかるという課題もありました。
セントラルファイナンスを使用することにより、外部システムからのデータ連携はリアルタイムになり、データを待つ必要はなくなります。また、同じテーブルにデータが格納されるため、データの粒度も明細レベルまで揃った状態であり、照合対象の特定も行いやすくなります。
このような施策のもと、従来決算作業として行っていた内部取引照合業務を日次業務として前倒しで行い、決算全体のプロセスを簡略化することも得策です。

なお、SAP ERPでは、内部取引照合機能をご利用いただけます。

WS000004当機能は、内部取引照合作業そのものの省力化、効率化がコンセプトになっています。関係会社データを照合ルールに基づいて自動化し、自動照合を行います。照合できなかった明細に関しては元会計伝票を参照しつつ、個別照合処理を行うことができます。関係会社への連絡等のコラボレーションも明細に関連付け可能です。

 

ハードクローズに関する施策

ソフトクローズによって決算時に行う処理は減りましたが、ハードクローズにおける処理そのものもシンプル化し、決算プロセス全体としての効率化を目指すことも有効です。

決算処理プログラムの最適化

SAP S/4HANAにおいては、アーキテクチャが変更したことにより、従来必要であった処理が不要となっていたり、処理が高速化したりしたものも多くあります。例えば、固定資産領域では、いくつかの期末処理関連プログラムが不要になっています(資産定期記帳:資産残高はリアルタイム更新されるため不要、償却領域記帳での計画転記:計画転記はマスタ更新やトランザクションにより自動的に更新されるため不要)。
また、いくつかのプログラムではアーキテクチャが変更し、従来アプリケーション層で行っていた処理をSAP HANAのデータベース層で実行する(コードプッシュダウン)ように最適化されています。これにより、従来のプログラムより10~60%の高速化に成功しています。WS000005

決算処理タスクの効率化

最後に、本決算で行われる各種決算処理タスクの効率化を考えます。本決算業務でやるべきタスクは実にたくさんあります。各タスクを滞りなく行い、またきちんと実行されているかを管理しながら進めなければ効率化は成し得ません。
その用途でご活用いただけるのがSAP決算処理コックピットです。グループの決算作業を可視化し、迅速に決算処理が行われているかどうかを管理することができます。各処理やプログラムの状態やエラーの可否、また関係者に関するコラボレーション等もひとつの画面から行うことが出来ます。

WS000006

—–

以上、SAP S/4HANAで決算効率化を実現するための施策について、ソフトクローズ/ハードクローズの2フェーズに分けて考察しました。

ご存知の通り、決算早期化や決算効率化は経理/財務業務における永遠の課題ともいうべきものです。既に既定の日数以内での開示を達成していたとしても、トランザクションが増え、業務の幅も広がっていくデジタルビジネス時代においては、従来のやり方では追いつかなくなってしまう危険性も秘めています。そのような事態を未然に防ぐべく、確実な決算効率化、ひいては決算早期化を実現する足掛かりとしてSAP S/4HANAをお役立ていただければ幸いです。

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