デジタル化社会に向けた協業が電力と自動車の新たな未来を描く


ユーティリティ分野におけるデジタルトランスフォーメーションの可能性を探るセッションが、7月29日のSAP SELECT内、公益事業向けトラックで行われました。東京電力と日産自動車のコラボレーションにより進められている電力事業のデジタル化とEV(電気自動車)の活用を取り上げた、「業界連携によるデジタル化社会~充電インフラの設備とデジタル化の未来」のパネルディスカッションをご紹介します。

電力需要の減少に対応する需給の柔軟性

デジタルトランスフォーメーションでは、単一の業界や業種だけでなく、さまざまな領域や分野がデジタルを媒介に連携するところから新たな可能性が生まれてきます。本セッションでは電力会社である東京電力ホールディングス株式会社と、ゼロ・エミッション・ビークルの開発・普及を強力に進めてきた日産自動車株式会社との協業による、EVをキープロダクトとした事例が紹介されました。

冒頭、「電気事業の変革と運輸部門の電化」と題してプレゼンテーションに立った東京電力ホールディングス株式会社 常務執行役 経営技術戦略研究所長の岡本浩氏は、日本の人口減少が電力企業にもたらすインパクトについて触れました。

「2050年には今の50%以下の人口になることが、国土交通省の資料によってわかっています。当社の事業エリアである関東地方だけでも相当な減少が見込まれ、地域によってはコミュニティが成り立たなくなる可能性もあります」

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岡本氏は、こうした事業環境の変化に対応するために、「規制緩和・自由化」、「分散化」、「脱炭素化」、「デジタル化」の4つのメガトレンドを掲げます。この中の「脱炭素化」に今回のテーマである「運輸部門の電化」が関わってきます。同氏はEVを「動く分散電源」、すなわち各家庭や個人で利用できる蓄電池ととらえており、その意味では「分散化」や管理・制御のためのインフラとしてデジタル化も大きく関わってくると指摘します。

こうした脱炭素化や分散化が進んでいくと、従来の発電所だけでなく、太陽光などさまざまな再生可能エネルギーを電力源として用いることが期待されます。しかし従来の発電と異なり、再生可能エネルギーは天候などで発電量が大きく変動します。岡本氏は、こうした多種多様な電源やお客様の設備をつなぐ柔軟なプラットフォームとして“インテグレーテッド グリッド(Integrated Grid)”の必要性を指摘しました。「さまざまな設備がつながるフレキシビリティをバリューチェーン全体に拡大していくことが、新しい時代の電力供給・利用のカギとなります。その点でEVは、フレキシビリティの非常に重要な解の1つとなります」

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EVをキーとした新しい電気需給の可能性

再生可能エネルギーに求められる需給のフレキシビリティについて岡本氏は、「(スマートハウスの)発電力が多いときには(車を)充電し、(スマートハウスの発電力が)少ないときは(車を)蓄電池として利用する」といった形でEVが担うことができれば、発電事業者と利用者にwin-winの関係が実現すると語ります。この発言を受けて登壇した日産自動車株式会社EV・HEV技術開発本部 アライアンス グローバルダイレクターの矢島和男氏は、「EVは走る蓄電池~電気自動車の更なる価値」と題してプレゼンテーションを行いました。

 

矢島氏は「動く電源=蓄電池」としてのEVのポテンシャルを、「一般家庭の2~3日分の容量があります。現在開発中の新型車では1週間分くらいに増えています。これまでも電気のない場所で電源として利用している例があり、災害時の緊急電源としても大きな可能性を持っています」と紹介します。%e7%9f%a2%e5%b3%b6%e3%81%95%e3%82%93

すでに日産自動車では「Leaf to Homeシステム」と呼ばれる、電気自動車「リーフ」と直流・交流コンバーターを組み合わせたシステムを国内で販売し、約3,700台の実績を持っています。電力供給に余裕のある夜間に自動車の蓄電池に充電しておき、昼間の需要ピーク時には車からの電気を利用することで、利用者は電気料金を大幅に節約できます。一方、電気事業者もEVを需給変動のバッファとして利用できるため、柔軟で最適化された電力供給が実現します。

「Leaf to Homeシステムは、まさに岡本さんが言われた『再生可能エネルギーのフレキシビリティ』に合致しており、これによってwin-winの関係が効率的に構築できないかと考えています」%e6%97%a5%e7%94%a3

さらに矢島氏は、EVの蓄電池としての圧倒的なコスト競争力を強調します。現在の家庭用蓄電池は200~300万円ですが、日産の電気自動車はほぼ同じ価格帯で、もちろん自動車として利用が可能という点でも、大きな付加価値を備えています。また調査の結果、「Leaf to Homeシステム」に太陽光発電を加えた場合、通常のガソリン車に比べてCO2の排出量がおよそ半減することもわかっており、「いろいろな分野の方々と協力しながら、将来的にはスマート化社会の一翼を担うインフラの一部としてEVを位置付けていきたいと願っています」と矢島氏は語ります。

 

スマート化社会の実現に向けたデータ活用インフラとは

セッション後半は、「業界連携によるデジタル化社会~充電インフラの設備とデジタル化の未来」のタイトルによるパネルディスカッションが行われました。モデレーターを務めるSAPジャパン ユーティリティデジタルトランスフォーメーションオフィス シニアディレクター 田積まどかは、SAPと傘下のエネルギー供給会社EnBWによる、ドイツ・カールスルーエの街灯を利用したスマートシティ実験プロジェクト「SMIGHT」をビデオで紹介します。これは街中にある街灯をセンサー設置ポイントにして、気温や大気汚染度測定、Wi-Fiスポットなどのサービスを実現しようというものです。このサービスのバックエンドでは、SAP HANA Cloud Platformによるデータ収集・分析のシステムが稼動しています。
ビデオはこちらから:https://youtu.be/_YSp9spJo7A%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%82%a4%e3%83%84

岡本氏は、「私たちも現在、SMIGHTのような構想を持っています。無電柱化地域にある路上設備をラッピングしてデジタルサイネージに利用するとか、Wi-Fiシャワーのポイントに使うといった具体的なアイデアも出ています」と語り、センサーを面で配置してさまざまなデータを掛け算的に活用していくような仕組みが構築できれば、そこからいろいろなサービスが生まれていくのではないかと示唆します。

 

これに対して矢島氏は、「自動車というグローバルなビジネスは、展開先の国によって法規も異なります。このため局所的に取り組んで、部分最適のものが出てくるとかえって動きにくい。その点、東京電力のようなパワーのある企業と組むことで、お互いのシナジーで開発の効率化が図れます。良いアイデアをスピード感をもって、国内はもちろん海外にも展開していきたいと考えています」と協業の意義を語ります。

データ共有などの協業を深めて新たな価値創造を追求

東京電力ホールディングスと日産自動車のコラボレーションに、SAPがどのような形で今後貢献していけるのか、田積は「具体的にはどんなデータがあれば、ビジネスが進めやすいと思われますか」と問いかけました。岡本氏は目的別のデータ、とりわけ「顧客情報」、「ハードウェア=設備」、そして「社員や協力会社の動き」に着目していると言います。

「この3つを可能な限り収集/分析して最適化を図ることで、そこから新たな価値を生み出せるようにしたい。また自分たちのデータだけでなく他の事業者や国のデータと重ねていくことで、新しい価値は見つけられると考えています」

 

一方、矢島氏は、東京電力との協業におけるデータ活用に期待を抱きます。

「現在も日産では、EVがどう充電され、どのように使われているかの詳細なデータを収集して開発に活かしています。今後は東京電力のオール電化を自動車にまで拡大していただき、ここから得られる電気利用のデータを共有していくことで、EV開発の協調領域における具体的な道が開けてくるはずだと確信しています」

 

パネルディスカッション終了後は、SAPジャパン株式会社でユーティリティ領域を担当するバイスプレジデント公共・公益・通信統括本部統括本部長 佐藤知成が挨拶に登壇。「SAPジャパンでは2年半前に公益事業専門チームを立ち上げ、SAP ERPやSAP HANAといったIoT基盤を提供してまいりました。本日のセッションを伺って、今後ますますSAPがお役に立てる領域が増えてくると確信しています」と語り、積極的な提案・支援への抱負を述べてセッションを締めくくりました。

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