儲かるサプライチェーンに向けた統制システムの在り方とは ~SAP S/4HANAと統合したSCMソリューション~

作成者:福田 勝美 投稿日:2016年10月3日

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こんにちは SAPジャパンの福田勝美です。
本稿では、儲かるサプライチェーンに必要な要素とそれを実現する統制システムについてご紹介します。
儲かるサプライチェーンとはどんなサプライチェーンでしょうか?

一般的にサプライチェーンとは、原材料・部品等の調達から製造、販売、配送まで消費者に製品やサービスを届けるまでの一連のプロセスを指し、この供給連鎖を通して顧客へ価値を提供していくものです。営利企業の場合、事業継続のためにサプライチェーンを通して市場や顧客への価値提供だけでなく利益を上げていく“儲かるサプライチェーン”である必要があります。
しかし、昨今の移り変わりの激しい市場においてサプライチェーンには、これまで以上に柔軟な変化対応力が求められています。ここではまず、サプライチェーンを取り巻く環境から儲かるサプライチェーンで考慮すべき主なポイントを見ていきます。

変化しやすい市場

顧客のニーズが多様化し、製品ライフサイクルが短縮化する中、顧客の期待や要求の変化への迅速な対応や、グローバルに拡大する市場へ追随する必要があります。また、そのような市場環境の中、安定した売上・収益を上げていくためには、顧客ロイヤリティを獲得して高いレベルで維持することが求められています。顧客ニーズやグローバル市場への対応の遅れ、また顧客ロイヤリティの低下は、企業の市場競争力を落とし、競合他社に顧客を奪われ、市場シェアと売上・利益の低下を招くことになります。

サプライチェーンの複雑性

市場のグローバル化に伴う販社、生産拠点の海外展開によりサプライチェーンは、ますます複雑性を増し、サプライチェーンの状況や問題が見えづらくなってきています。しかし、そのような複雑性の中、サプライチェーン上の問題を敏感に察知して迅速に対応を行い、製品の品質を担保しながらスピーディに納期通りに顧客へ製品を届けることが求められています。サプライチェーンの可視性の欠如や問題への対応の遅れは、過剰在庫や欠品、物流コストの増加、納期遵守率の低下などを招き、売上・利益の低下につながります。

新たなイノベーション

さらに、最近ではビッグデータやIoTの活用により、新たな市場、製品・サービス提供の機会が創出され、シェア・売上拡大のための製品・サービスの市場への迅速な投入、あるいは競合他社にシェア・顧客を奪われないために新たに台頭する競合への対策が必要になってきています。
これらは昨今サプライチェーン上でリスクを発生させる主な要因となるものです。これらリスクをコントロールすることで、顧客へ価値を提供し利益を上げていく“儲かるサプライチェーン”が実現します。

儲かるサプライチェーンに必要な要素と統制システム

では、儲かるサプライチェーンに向けてリスクをコントロールするサプライチェーンマネジメントとして必要な要素を考察していきます。
最初に、変化しやすい市場に迅速かつ柔軟に対応していくには、市場や顧客の“需要”をベースにサプライチェーン上の供給をアジャイル(俊敏)に調整して需要と同期させていく必要があります。サプライチェーンの”(1)需要ネットワークへの転換です。需要をベースにした迅速な供給同期は、販社や物流センター、工場およびサプライヤーの在庫を適正化してサプライチェーン上のコスト低減と機会損失の最小化を図り、顧客の要求・納期を遵守することで顧客サービスレベルの維持・向上、ひいては顧客ロイヤリティ獲得につながっていきます。
次に、現在のサプライチェーンは儲かるサプライチェーンになっているでしょうか?数量ベースの需給調整だけでは、収益が上がっているのか否か判断出来ません。数量・金額両面でサプライチェーンの成果を見ながら、目標利益を達成しているのか否か、達成しそうなのか否かを判断して計画を見直していく必要があります。また、複雑化したサプライチェーンとその問題・リスクを可視化し、関係者と迅速に状況を共有・対応することが求められます。“(2)数量・金額両面にフォーカスしたサプライチェーン横断での計画・実績管理と可視化が必要です。
ただし、これらの実現には“(3)スピードへの対応が必要です。需要情報のサプライチェーンへの早い伝播とサプライチェーンの供給調整、市場・顧客への製品・サービスのタイムリーな提供により、受注~売上までのサイクルが早く回り、キャッシュフロー増大を図ることができます。逆に需要情報の伝播が遅いと、市場・顧客が欲するタイミングや量に供給が追い付かず、機会損失や過剰在庫を発生させ、キャッシュフローの減少につながります。
また、顧客の期待や要求の変化への迅速な対応や新たなイノベーションによる新市場・新製品の早い立ち上げは、グローバルで市場が拡大する中、顧客ロイヤリティを獲得し、競合他社に対する優位性を確保することにつながります。
つまり、“儲かるサプライチェーン”とは、市場の変化に迅速に対応して需要と供給が同期し、顧客へのサービスレベルを維持・向上させながら、数量だけでなく金額面にもフォーカスして利益をあげていくサプライチェーンの仕組みなのです。 (図1参照)

図1:統制システム

図1:統制システム

SAPでは、SAP S/4HANAとSAP Integrated Business Planning(以下SAP IBPと略称)の統合により、これら3点に対応可能な仕組みを提供しています。SAP S/4HANAは「デジタル化」時代に対応した基幹業務として必要な業務機能を統合的に兼ね備えたSAPのデジタルコアです。SAP S/4HANAに関する詳しい内容はこちらのブログを参照ください。
SAP S/4HANAはSAP IBPをはじめ各SCMソリューションとネイティブに連携しています。
SAP IBPは、需要予測・販売計画、在庫最適化、供給計画・生産計画およびサプライチェーンの可視化・監視等の機能で構成され、SAP HANAプラットフォームの高速処理とSAP Cloudによる短期導入が特徴であるサプライチェーン計画ソリューションです。SAP S/4HANAと統合することで、マーケティング・販売・調達・生産・物流からリアルタイムに市場・顧客および現場の各種実績情報を入手し、需要をサプライチェーンに迅速に伝播させてネットワークにおける制約を考慮しながら、需給バランスをとることができます。
数量・金額両面での計画・実績評価により、経営視点でサプライチェーンの舵取りを支援して、事業のPDCAを高速に回し、収益目標を実現していくことが可能です。(図2参照)

図2:SAPのSCMソリューション

図2:SAPのSCMソリューション

SAP IBPは、5つの機能から構成されます。 (図3参照)
SAP IBPの概要は、こちらのビデオをご覧ください。

図3:SAP IBPモジュール構成

図3:SAP IBPモジュール構成

 では、儲かるサプライチェーンに必要な要素に対するSAPが提供する特長的なSCMソリューションを見ていきましょう。

(1)需要ネットワークへの転換

SAP S/4HANAからの鮮度、精度の高いマーケティング・販売・調達・生産・物流などの実績情報が適切なタイミングでSAP IBPに反映することで、市場の変動にアジャイルに対応する需要ネットワークへの対応が実現します。例えば、市場や顧客の需要変化を伝えるデマンドシグナルマネジメント機能やフォーキャスト・受注・出荷情報から短期フォーキャストを計算するデマンドセンシング(需要感知)機能が活用できます。(図4参照)

図4:短期需要の計画への反映

図4:短期需要の計画への反映

今回は、デマンドセンシング機能をご紹介します。デマンドセンシングは、感知された需要情報をベースに需要パターンを認識して需要情報に重みづけを行い、最適な需要予測パターンをアルゴリズムで算出する機能です。図6の「デマンドセンシングによる短期間の需要パターンの感知」を参照ください。例えば、セントラルDCから拠点DCへ製品供給を行うケースで考えてみます。週次フォーキャスト計算では、セントラルDCから東部DCと西部DCに毎日5個の製品供給を行う結果になりますが、デマンドセンシング機能を利用するとSAP S/4HANAからの直近オーダや過去データをベースに需要パターンを分析、日次ベースのフォーキャストに再計算して東部DC、西部DCの日別の供給数に変更することが可能です。顧客サービスレベルを向上させながら、供給量の最適化を支援することができます。
その他、SAP IBPの統計処理を利用した精度の高い需要計画立案(IBP for demand)、サプライチェーン横断での在庫最適化計算(IBP for inventory)、制約を加味した供給計画立案や高速シミュレーション(IBP for response & supply)等により、変動する需要を在庫計画、供給計画に速やかに同期させながら、顧客サービスレベルを維持、収益最大化を図ることが可能です。さらに、”需要ネットワークへの変換”の実現を支援するものに”オムニチャネル”の考え方がありますが、これについては、こちらのブログを参照ください。

図5:デマンドプランニング vs デマンドセンシング

図5:デマンドプランニング vs デマンドセンシング

図6:デマンドセンシングによる短期需要の感知

図6:デマンドセンシングによる短期間の需要パターンの感知

(2)数量・金額両面にフォーカスしたサプライチェーン横断での計画・実績管理と可視化

SAP S/4HANAからのロジスティクス上のリアルタイムな実績情報をSAP IBPに反映していくことで経営・財務と現場業務が統合され、差異が数量・金額両面で明確になり、現実の市場や自社の状況に即した経営判断が可能になります。  IBP for sales & operationsを活用することで、数量・金額両面にフォーカスした意思決定が可能です。需要計画、供給計画を営業、マーケティング、需給、生産、購買など関係部門で数量・金額両面でレビューを実施後、経営層レビューにて事業計画との調整を図って計画を確定していくことができます。(図7、8参照)

図7:IBP S&OPによる関係者間での需給計画レビューと合意プロセス

図7:IBP S&OPによる関係者間での需給計画レビューと合意プロセス

図8:IBP S&OPの主要機能

図8:IBP S&OPの主要機能

また、SAP Supply Chain Control Towerによりサプライチェーンをコントロールするために必要な情報を集約してサプライチェーン横断で状況を可視化することができます。Webダッシュボードによる計画レビューや収益性分析、複数シナリオを想定してのWhat-if分析、およびアラート機能等を活用することで、サプライチェーン上のリスクを可視化・予測し、問題解決を早めて対応コストを低減、顧客サービスレベルを維持していくことが可能となります。(図9参照)

図9:SAP Supply Chain Control Tower

図9:SAP Supply Chain Control Tower

(3)スピードへの対応

SAP IBPは、クラウドでのサービス提供によりクイックな利用環境立上が可能です。新たな市場拡大や製品サービスの立上げに迅速に対応することができます。
SAP S/4HANAおよびSAP IBPはインメモリプラットフォームであるSAP HANA上で稼働します。インメモリ技術により実績・計画情報を高速に処理・分析し、市場変化に対応可能なスピードを提供します。また、オープン技術であるHTML5ベースの標準インタフェースSAP Fioriにより様々なデバイスでの業務処理が可能であり、ユーザ毎のロールベースの画面によりユーザの生産性向上、業務処理のスピードアップに貢献します。(図10参照)
“スピード”が儲かるサプライチェーンに向けた統制システムを支えます。
SAP HANAの技術的な内容については、こちらのブログを参照ください。

図10:SAP IBPの特徴

図10:SAP IBPの特徴

まとめ

本稿では、昨今のサプライチェーンを取り巻く環境の中、“儲かるサプライチェーン”を考える上で“(1)需要ネットワークへの変換“(2)数量・金額両面にフォーカスしたサプライチェーン横断での計画・実績管理と可視化、および“(3)スピードへの対応の要素が重要であり、それを支える“統制システム”が基幹システムのSAP S/4HANAと計画系のSAP IBPの統合により実現できることを、ご理解頂けたと思います。
サプライチェーンの課題は企業により様々です。少しでも今回の寄稿が貴社サプライチェーンマネジメントの改善に参考になれば幸いです。

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