最大、最後の好機到来
第4次産業革命と持続的成長に向けた成長戦略

作成者:SAP編集部 投稿日:2016年10月18日

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7月28日に東京の高輪グランドプリンスホテルで開催されたエグゼクティブ向けイベントSAP SELECTのスタートを飾った基調講演には、日産自動車株式会社 取締役副会長で株式会社産業革新機構 代表取締役会長(CEO)を務める志賀俊之氏、モデレーターを務めた一橋大学イノベーション研究センター教授の米倉誠一郎氏とともに、SAPジャパン株式会社 代表取締役会長の内田士郎が登壇しました。

「日本だけ取り残されている」という米倉氏の警鐘で始まった講演は、参加者に大きな問題意識を投げかけながらも、新規参入を迎え撃つ日産の取り組みが自動車業界の明るい未来を予感させ、大きな盛り上がりを見せました。さらに、SAP内田からは成功を収めつつあるさまざまな海外事例を紹介。第4次産業革命に直面する日本のポジションを把握し、現状を「最大・最後の好機」と捉える上で多くの洞察が得られる場となりました。

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第4次産業革命に乗り遅れるな

「取り残された日本」という衝撃的なタイトルで米倉氏が示したのは、1994年と2014年を比較したGDPの伸びでした。米国、ドイツがGDPを伸ばす中、日本の実態が4.9から4.6というマイナス成長であったことを米倉氏は指摘し、問題の本質は「生産性の低さ」にあると話します。これを裏付けるように、OECD内での労働生産性のランキングでも日本は22位(2013年実績)という低いポジションになっています。

この現状を打ち破る方法は、民間主体のイノベーション以外にあり得ないと米倉氏は断言します。特にハード主体に進んできた日本の産業の行き詰まり打開には、ソフトウェア時代への対応が必須となります。そのヒントとなるのが、ドイツにおけるインダストリー4.0、つまり第4次産業革命への取り組みです。背景にあるのは単なる最適生産ではなく究極のエコ社会へのシフトであり、日本もこれから注力すべきは「メリットが見えない」リニアモーターカーなどではなく、世界を変えるパラダイムチェンジとも言えるIoTとビッグデータへの取り組みであると力説しました。

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日産自動車における自動運転の取り組み

続いて日産自動車の志賀氏は、車社会が抱える永遠の課題とも言える交通事故やそれに伴う死者を減らす日産の取り組みを紹介。「Vision ZERO」と命名されたこの取り組みは、2020年までに、日産車に関わる死亡・重症者数を1995年比で1/4に低減し、最終的にはゼロを目指すというものです。事故の9割以上は人為ミスが原因であることから、Vision ZERO実現に向けた大きな施策が「自動運転」です。

運転においては「認知」「判断」「操作」が必要となりますが、これを車の機能に置き変えた自動車の知能化が既に開始されています。人間の約100倍の能力を有する車にこの3つを任せ、ドライバーの能力を補完する一例として、「急な飛び出し」があった場合の検知例がビデオで紹介されました。前述の100倍の能力(ここでは認知)により、肉眼では把握して停止することがほぼ困難な飛び出しにも、十分対応できることが分かります。これら3つの能力を併せ持つ知能化された自動運転技術は、既に段階的な実用化が開始されています。今年2016年には高速道路上での単一レーンの自動運転に対応、2018年には高速道路上で複数レーンの追い越しなどに対応、そして2020年には一般道での自動運転を可能にする予定です。ゼロエミッション(電気自動車)の仕組みや、カーシェアリングといった運用形態の登場など車は変化を続けていますが、この段階では、「車はその仕組みや利用形態などに劇的な変化が起こる」と志賀氏は話します。

今後の可能性について志賀氏は、車においてもハードからソフト(IoT)への移行が顕著になることを明言。現在「ハード9割/ソフト1割」と言われる車の構成比率が、2020年には「ハード4割/ソフト6割」になり、「自動車の価値はソフトウェアで創り出されるようになる」と話します。これにより自動車産業の構図も変化し、ソフトウェア会社がハードウェア(車体)メーカーを買収したり、逆にハードウェアメーカーがソフトウェア会社を買収したりするような動きが活発化することが考えられます。既にシリコンバレーを中心に、AppleやGoogle、テスラといった新たなプレイヤーが続々と登場しています。

このような新しい競合相手がしのぎを削る世界において、現在ハードウェアとしての強みに立脚する日本の自動車産業が生き残るには、Googleなどのソフトウェア企業との連携、協業によるオープンイノベーションが不可欠であると強調。志賀氏は、既に「やるか、やらないか」ではなく「やるか、やられるか」という状況になっていると語りました。

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すべての業種で起こっている第4次産業革命

次にSAPジャパンの内田は「第4次産業革命は、すべての業種で起こっている」と語り、デジタル革新のグローバル事例について紹介しました。デジタルビジネス変革には、「ビジネスモデル」の再構築、「ビジネスプロセス」の再構築、「ワーク(ワークスタイル)」の再構築という3つのシナリオがあることを示す導入事例は、それぞれが示唆に富んだものでした。また、デジタルによって従来の業態を変化させる企業も出てきており、これまでは競合になりえなかった企業同士による戦い、異業種間競争がすでに始まっていると語りました。

アンダーアーマー

スポーツアパレルメーカーだったアンダーアーマーは、デジタル変革により「ビジネスモデル」を再構築し、この10年間で売上高を約10倍に拡大しました。顧客(エンドユーザー)が求める本当の価値は「健康でいつづけること」にあると考えた同社は、顧客を深く知るために、ワークアウトやカロリー計算など3つのモバイルアプリ企業を買収し、顧客接点とそこから得られる膨大なデータを活用するヘルスケアプラットフォームを構築。ウェアラブルの仕組みを使い1億6,000万人におよぶ顧客の体の状態をより深く把握できるようになりました。顧客の健康状態を踏まえた最適な提案を行うとともに、今後は、膨大な顧客のヘルスケア情報を元に、異変やその兆候を捉えて告知するヘルスケアビジネスや生命保険を販売する保険ビジネスなどへの展開も想定されます。

UPS

貨物運送業のリーディング企業であるUPSでは、3Dプリンターとデータ通信機能を連携させることで製造業としての機能も提供できるようになりました。デジタルを活用した新たな仕組みによって「実際にモノを運ぶのではなく、特定の拠点で3Dプリンターによる製造案件を受託し、このデータをデジタルで送信。配送コストを大幅に圧縮しながら受け取り先の最寄りとなる拠点で生成する」というオペレーションが可能となりました。同社の運送業としての強みを活かしつつ「ビジネスモデル」の再構築を実現しています。

スティル

フォークリフトやトラック、トラクターなどを製造販売するSTILL(スティル)は、デジタルによって「ビジネスプロセス」を大きく変革しました。倉庫内をあたかもロボットのように自在に動き回る「自律型」フォークリフトを開発することで、倉庫におけるビジネスプロセス、具体的には荷物の出し入れ作業を自動化しました。さらに、このような倉庫内でのオペレーションを作業量に比例した従量課金形式のサービスとして提供し、多くの顧客の倉庫プロセスを変革しています。さらに今後同社はこうした倉庫プロセスのノウハウを強みに、倉庫業への業態転換も進めています。

ロシュ・ダイアグノスティックス

医療用測定器の販売を行うRoche Diagnostics(ロシュ・ダイアグノスティックス)は、以前、血糖値を図る糖尿病の自己測定器を病院に提供していましたが、デジタルを活用して糖尿病の関係者をつなげる「ロシュコネクテッドヘルスケア」と呼ばれるプラットフォームとモバイルデバイスにより、従来の患者と医師の「ワーク」を再構築しました。今では患者は通院する必要がなく、自宅で検査したデータをモバイルデバイス経由でロシュコネクテッドヘルスケアに送信します。このデータを医師が常時確認できることで、遠隔で患者をモニタリングできるようになりました。これにより患者は毎日の医師からのサポートだけでなく、家族ともつながることができるようになりました。さらに、これらの膨大な蓄積データを医薬の研究開発に活用することも可能となりました。

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オープンイノベーションを推進し、企業力を拡大

自動車業界の最新動向、そしてその他のデジタル革新に触れてきた本講演は、非常に示唆に富む内容を参加者に示すものとなりました。最後に、デジタル時代の持続的成長に向けたポイントについて、登壇者それぞれから提言が行われました。

志賀氏は、自社の強みに加え、世界の英知をどれだけ集めてくることができるかが鍵となると語ります。「全部自社でやろうとするのではなく、領域に応じて強い会社と組むことが不可欠になります。たとえば、日本ではベンチャーは新規上場(IPO)を目指すケースが多いですが、海外ではベンチャーごと新技術を買ってしまうというアプローチが多く見られます。このような形も、ある意味で『強い企業』と組むためのスピーディーなアプローチの1つと言えます」

内田も、自前主義を捨てて、日本も欧米企業にキャッチアップして「いいとこ取り」をしていくべきだと述べました。「ERPからスタートしたSAPも、過去5年で約100社以上を買収し、さまざまな領域を強化しています。重要なのは企業が『こうなりたい』という思いを持つことであり、目的に近づくためのソリューションや会社を取り込んでいくことで、自社の強みを拡大していけます。そのためにも人の流動性と共同イノベーションが重要です」

米倉氏は、「全分野で勝つためには、オープンイノベーションが重要です。未だ日本はスピードがのろいと感じますが、オープンイノベーションとは、他社を選ぶ、または他社に選ばれることでもあります。日本企業に強みがあるうちに世界のスピードに対応し、 『日本だけ取り残されている』状況から脱却して、日本でしかできないイノベーションを実現しましょう」と締めくくりました。

SAP Select/Forum 2016に関する記事はこちらから御覧いただけます
https://www.sapjp.com/blog/archives/m_tag/sap-selectforum-2016

 

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