第4次産業革命で求められるビジネスの再創造: デジタル化が紡ぎだす顧客中心型ビジネスの姿
作成者:SAP編集部 投稿日:2016年10月26日
第4次産業革命を迎えた今、顧客中心型のビジネスモデルが重視されるようになりました。SAP自身も率先してテクノロジーの進化を取り込みながら、いち早くビジネスモデル、ビジネスプロセス、ワーク(ワークスタイル)の再創造に取り組んでいます。7月28日に東京・品川のグランドプリンスホテル新高輪で開催されたビジネスエグゼクティブイベント「SAP SELECT」では、SAPのエグゼクティブボードメンバー兼最高財務責任者(CFO)ルカ・ムチッチ(Luka Mucic)が、SAPのデジタルトランスフォーメーション戦略と自社における実践について紹介しました。
顧客志向に対応するためにはデータマネジメントが重要になる
第4次産業革命と言われる現在、ビジネスをデジタルの世界に再現し、モニタリング、分析、自動化する時代が到来しています。ルカは「今やものづくりは、個人ごとにカスタマイズした形での生産が可能になりました。デジタル化された社会では顧客(エンドユーザー)が大きな力を持つようになり、いとも簡単にサービスを乗り換えてしまいます。そのため企業においては顧客のニーズを常に捉え、先手を打つ必要があります。これを実現するためには、顧客情報を深く広く知ることが必要であり、データのマネジメントが今以上に重要な意味合いを持つようになります。」と指摘しました。
現在、約30億人以上がインターネットにつながり、SNS利用者は130億人を突破。ビジネスでもインターネットは必須となり、コンピュータの性能向上とともに、誰でも高い情報処理能力を手に入れられるようになりました。クラウドコンピューティングはビジネスにスピードをもたらし、AIやロボットなどの登場でスマートな世界が実現しようとしています。一方で、大量のデータを扱うようになると、情報を保護するサイバーセキュリティも欠かせません。
このような時代にビジネスで成功を収めるには、「ビジネスモデルの再創造」「ビジネスプロセスの再創造」「ワークの再創造」の3つが求められます。ルカはこの3つはお互いに連携しあうことが大切です。しかも社内からだけでなく、外側からも考え、管理する必要があります。デジタル化によってビジネスが顧客中心型になると、プロセスや意思決定の中心も、個人のニーズや体験にシフトしていく必要があります」と語ります。
顧客中心にビジネスを再創造するということ
続けてルカは、「ビジネスの再創造」の好例として、3つの事例を取り上げました。
イタリアの鉄道会社のトレニタリアでは、車両に何千ものセンサーを付けてデータを取得しています。そして走行時間と故障発生の頻度を予測し、効率的な保守のタイミングを分析しています。また、生産データの分析をSAP HANAで実行してプロアクティブな保守に改めた結果、メンテナンスコストを8%~10%削減するとともに、安定的な運行を実現し顧客からの信頼の獲得にもつなげています。
アルゼンチンのブエノスアイレス市では、月に約3万件寄せられる市民からのクレーム情報をSAP HANAでリアルタイムに分析。合わせて9万1,000カ所の街灯照明をSAP HANAに接続。停電や修理の発生場所をリアルタイムに把握できるようにしました。そしてSAP CRMでメンテナンス業者を管理し、修理時のスピード改善を実現しています。その他にも水道の配水管管理などにセンサー情報やSNSの情報を活用しながらリスク管理を行っています。
オートバイ専業メーカーのハーレーダビッドソンは、SAP Connected Manufacturingによって1,300以上の構成オプションに対応するオーダーメイドの生産環境を構築し、従来カスタムメイドバイクの生産開始まで21日かかっていたリードタイムを6時間まで短縮しました。
「これらの事例はすべて顧客中心型にビジネスを再創造した事例です。すべてのデータをリアルタイムに取得して統合し、実際のビジネスに組み込むことで成功を収めています」(ルカ)
続いて顧客の体験にデータを活用する例として、「家族がいてスキーが趣味の男性」というペルソナ(想定顧客像)を例にデモを実施。自動車リースの会社が、リース満期日の近くになると顧客にDMを送り、さらにFacebookで取得した情報から趣味や家族構成を分析し、チャイルドシートやスキーラックの追加オプションを薦めるといったシーンを実演して見せました。
このデモを踏まえてルカは、デジタル化はゴールを見据えて考えることが重要であると指摘し「データ、テクノロジー、プラットフォームをエンドツーエンドで活用し、顧客との距離を近づけ、ニーズを探りながら長期的な関係を構築することがポイントになります」と語ります。
ビジネスの再創造は実現するための手段が重要
「ビジネスの再創造」においては「HOW」の部分が重要になります。どのようにエンドツーエンドのデジタル化を推進していくかです。そのためには、社内外のあらゆるデータを載せるプラットフォームを用意し、複雑な情報を可視化し、接続性を確保する必要があります。SAPではSAP S/4HANAをデジタルコアに、サプライヤー&ネットワーク、顧客エクスペリエンス、IoT&ビッグデータ、人財エンゲージメントの4つの領域をつないだビジネスフレームワークによってデジタル化戦略を推進してきました。
「SAPではテクノロジーレイヤーの複雑さを解消し、シームレスなユーザー体験ができるようにアジリティとセキュリティを提供しています。そして、このプラットフォームをお客様のビジネスと一緒に拡張していきたいと思います」(ルカ)
SAP自身が取り組むビジネスの再創造
ビジネスモデルの再創造
SAPでは自社のデジタル変革と並行して組織の変革も行ってきました。1990年代から積極的なM&Aを推進し、オンプレミスのERPパッケージ販売から、トランザクションモデルの販売、パブリッククラウドやSaaSの提供と、ビジネスモデルの多角化を進めてきたため、財務やオペレーションも含めた組織の変革と、透明性の確保が求められていました。
ビジネスプロセスの再創造
そこでビジネスプロセスを再創造しました。人材育成に力を入れ、財務をシェアードサービス化し、自らを顧客志向へと切り替え、さらにR&Dの組織に対してもソフトウェアによるスピード化を促進。そして、2014年には基幹システムをSAP S/4HANAに全面的に移行し、グローバルシステムを統合しています。「全社共通のデータが使えるようになり、柔軟性も大きく向上しました。トランザクションもアナリティクスとプロセスの両方が処理できるようになった結果、シンプル化が進んでいます」とルカは語ります。
ワークの再創造
SAPはワークの再創造にも着手しました。その1つが、データを使って予測やシミュレーションをリアルタイムに実行することで意思決定を強化することです。その仕組みを会議に取り入れたのがSAP Digital Boardroomです。
SAP Digital Boardroomによって、リアルタイムな情報をすべてのレベルに対してドリルダウンで分析することができます。シミュレーションを実行して将来を予測したり、予測をもとにシミュレーションして具体的な計画に落とし込んだりすることも可能です。SAP社内では2015年からこのソリューションをエグゼクティブボードミーティングで活用しています。
SAP Digital Boardroomは、SAP HANAプラットフォーム上に構築されたSAP S/4HANAを活用し、SAP BusinessObjectsを使って可視化しています。SAPソリューションのすべてからアクセスが可能で、データの活用、シミュレーション、予測などをすべてカバーします。デモでは3つの大画面ディスプレイを用いて、概要情報、詳細情報を表示するほか、気になる財務情報についてはドリルダウンで深く掘り下げて分析ができること、各地域の営業実績を見ながら分析ができること、画面へのタッチ操作で見たい画面を拡大できること、事前設定によってアラートを出したり、モバイルにも対応してiPadやiPhoneで利用できることなどを実演しました。
最後にルカは、「デジタル化は待っていても進展しません。破壊的な変化がすでに起きている状況を認識し、まずは行動を起こし、変革を進めていくことから始めてみてください。そして、新しいビジネスを考え、デジタルの可能性を追求し、リスクを取ってチャレンジしていくことが大切です。SAPはソリューションパートナーとして皆様からいただいている長年の信頼に応え、デジタル化と再創造を支援していきたいと思います」と述べてスピーチを終えました。