デジタル革新が描くビジネスの未来を具体化する


これまでのハードウェアが中心となって牽引してきたビジネスが大きな変貌を遂げ、現在はソフトウェアが主導する世界になりつつあります。このデジタル革新の時代においては、これまでの発想を180度切り換え、真にデジタルを活用したビジネスを具体化する必要があります。ここでは、7月29日に実施されたSAP ForumにおけるSAPジャパンのインダストリークラウド事業統括本部 シニアディレクター、大我猛による「デジタル革新が描くビジネスの未来を具体化する」の講演内容をご紹介します。

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主従が逆転。デジタルは「ソフト主導のハード」を売る時代

デジタル化とは、すでに存在している多くのものが、ソフトウェア制御になっていくことです。換言すれば「ソフトウェア主導のハードウェア」を売る世界へのシフトと言えます。中身がソフトウェアによって作り変えられていくことで、技術的または経済的な課題がクリアされる場合もあります。講演冒頭で大我は「自動車、航空機、ホテル業界に目を向けると、ハードウェア主導からソフトウェア主導への変革が見られます」と切り出しました。

たとえば自動車について言えば、過去9:1と言われていたハードとソフトの構成比率が、2020年までには4:6になると言われています。また、航空機業界では、これまでは飛行機エンジンのコンピュータ制御機能の一部を提供していたGE社が、蓄積したノウハウをベースに飛行方法や最短ルートなどのナビゲーションサービスを提供するようになってきている例があります。また、昨今話題になっている民泊も、ホテル/旅館というハードウェア主体から、「泊まる」という目的を叶えることにフォーカスしたビジネスへという潮流を象徴しています。このようにハード/ソフトの主従が逆転する時代には、発想も技術も制度も、あらゆるものの主従が逆転していきます。

ソフト主導のハードが可能になる背景には、実際に人やモノが動く物理世界と、それらのデータをリアルタイムに再現し、デジタル側で把握しているデジタル世界の連携があります。データの見える化だけではなく、デジタル側で行った分析・予測の結果を物理世界に最大限フィードバックすることで、実際のビジネス活動を柔軟に変えていかなくてはなりません。

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SAPのデジタルビジネスフレームワーク

ビジネスの推進におけるシステムの位置づけについても、発想の転換が必須となっています。過去の企業システムは、正確に行う(記録する)ことに重きが置かれていました。しかし、ソフト主導のハード時代では、エンゲージメントのためのシステム、正しいことを行うためのシステムという位置付けが強まります。

従来のシステムにおける動きでは、購買、入庫から発注に至る物理的な流れと、デジタル上で管理される情報の流れの間に「バッチ処理」というタイムラグが存在するため、欠品などのリスクを低減するために過剰在庫や、勘による判断のずれに起因した納期遅れなどが発生していました。SAPが考えるデジタルビジネスフレームワークの最初のステップでは、デジタルコアとしてSAP S/4HANAを使用したプラットフォームを使用することで、これらを解消します。講演では、自転車メーカーを例にSAP S/4HANAを使用したデモが紹介されました。

たとえば、営業担当者が自転車50台のオーダーを受けた時点で、20台しか在庫がなかったとします。「在庫引き当てができない」というアラートが生産担当者に向け発信されます。担当者が部材の有無を確認すると、ホイールが足りないことが分かります。他のプラントの在庫を移動するか、調達発注をすべきかの比較用情報が画面に表示され、これを見て購買依頼を行うことを決定。その場ですぐ発注処理を行います。依頼を見た購買担当は、サプライヤーの評価を参照し(緊急に対応できるか/実績を持っているか)妥当なサプライヤーに発注を行います。納品検品の担当者は、必要な部材が届いたので生産指図を行い、その後、オーダーを受けた営業担当者は、生産完了の状況を確認し、実際に納期を記入して一連の作業を完結します。

この例で分かる通り、これまで電話などで実施していた例外作業を「正しく機能する」システムが代行することで人手による手間が解消され、作業の精度が向上し、さらにお金と流れと実際の業務の流れが一致されたことが分かります。

SAPデジタルビジネスフレームワークの2番目のステップでは、さらにモノや人、外部のパートナーとの連携が強化されます。講演では建設機械の例を使ってこの流れがデモで紹介されました。建設機械に付けられたセンサーからアラートが発信されます。そこで関連データを使って予測分析を行うことで「どのぐらい先に故障するか」という予測を行い、足りない部品の交換や修理を行います。このため、社内でサービス部品の引き当てができるか判断し、これが十分でなければ外部のサービスを使うかを判断します。結果として社内だけでなく、社外までを含めた連携を行いイレギュラーな状況に確実に対応していることが分かります。

消費者はこれまで以上に高い要求を提示するようになり、スピード、嗜好などについても細かな要件が発生していますが、B2Bにおいてもこれが現実のものとなっています。そのため単なる記録を行うシステムでは追いつかなくなり、エンゲージメントを可能にするためのリアルタイム処理が不可欠となってきます。

SAP S/4HANAのシンプル化によるスループットの劇的な向上

このような要求を満たすためのコアとなるSAP S/4HANAは、内部で使用するテーブル数を極力少なくしシンプル化することで高速化を図っています。以前のERPシステムでは、複数のテーブルが存在するため、テーブル更新時にロックをかける必要があり、この排他処理によってスピードが出ない状況が発生していました。SAP S/4HANAの場合には、シンプル化されたテーブルによって並行プロセスにおける遅延が発生しません。

これをビジネスに適用すると、リアルタイムの処理が実現されたことによって、リスクを排除するための過剰在庫が不要となり、またより俊敏なビジネスプロセスの実行が可能となるなど、多くのメリットが発生します。昨年(2015年)11月にSAP S/4HANAの新バージョンが公開されましたが、2016年中にも新しいバージョンで生産関連の機能、拡張倉庫管理などの機能が追加されることになっています。

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大我は、「これまでのハードウェア主導の世界から、ソフトウェアが主導する世界への変化が加速します。これに伴い、ITから新しいプロセスが生まれ、ビジネスモデルが変わっていく可能性が大きく広がります。私たちも発想自体を切り替える必要があり、その発想を具体化するプラットフォームとしてSAP S/4HANAを中心に据えたデジタルコアが有効となります」と強調し、講演は幕を閉じました。