SAPが推進する「デジタル=Live Business」戦略


デジタル化(Digitalization)は、第4次産業革命の重要キーワードの1つであり、そこにはビジネスの変化と技術のトレンドが大きく影響しています。7月29日にグランドプリンスホテル新高輪で開催されたSAP Forumの基調講演「デジタルエコノミーにおけるビジネスの再創造」では、SAPでデータベース&データマネージメントグローバル統括責任者を務めるイルファン・カーン(Irfan Khan)が、デジタル化の背景にあるトレンドを紹介するとともに、SAPが推進するLive Business戦略について語りました。

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デジタルトレンドを活用して新たなビジネスを構築する

イルファンはまず、デジタルの最新トレンドとして「ハイパーコネクティビティ」「スーパーコンピューティング」「クラウドコンピューティング」「モノのインターネット(IoT)」「サイバーセキュリティ」の5つを挙げました。

モバイルデバイスの普及により、世界中どこにいてもネットワークにつながるようになりました。そして、スーパーコンピュータの普及やモバイルデバイスの性能強化によって、どこでも大規模なコンピューティングリソースを使うことができます。またSaaS、PaaS、IaaSが強化され、あらゆるものがクラウドで提供されるようになりました。Googleなどの大手クラウドベンダーの投資額は、5年前と比べて約4倍に増加し、クラウドのコンピューティング性能も年々強化されています。イルファンは「現在はオンプレミスとクラウドのハイブリッド戦略を取る企業が大半です。SAPでもアプリケーションのほとんどをクラウド対応としてクラウド・ファーストの戦略を取っています」と語ります。

一方、冷蔵庫、洗濯機、電子レンジなどの電子機器もネットワークにつながり、家の中でもデジタルの恩恵が受けられる時代が来ています。エッジとなるIoTデバイスの力も高まり、新たなイノベーションが生まれようとしています。SAPでもいち早く自動車、製造、ヘルスケアなどさまざまな分野のIoTアプリケーションを構築中です。ただし、IoT化でセキュリティリスクも一層高まることが予想されます。イルファンは「サイバーセキュリティの強化はさらに重要度を増していきます。CEOやCIO同様にCSO(最高セキュリティ責任者)が経営の意思決定に影響を与える役割を担うはずです」と指摘します。

これからの企業には、こうした新たなデジタル技術やトレンドを積極的に活用していく新たなビジネスの構築が求められています。その実現に必要なのが顧客体験、ワーク、リソースのデジタル化です。イルファンは世界のトップ企業400社に実施した調査結果からも、デジタル化のメリットを強調しました。「デジタル化を推進する企業は、他の企業を12%上回る利益を上げ、企業全体が生み出す株主価値も6~10%高まります。デジタル化は新規市場開拓にもつながり、新たなチャンスを捉えることが可能になります」 

Live Businessの成功事例も続々登場

SAPが提唱しているのがリアルタイムのデジタルデータを活用する「Live Business」です。デジタルビジネスの代表的な例といえるスポーツアパレルのアンダーアーマーは、IoTを使って各顧客の運動量や健康状態のデータを取得し、それらをSAP HANAプラットフォームに集約することで、パーソナライズされたアドバイスを顧客に提供しています。これにより顧客満足度を向上させるとともに、最適なタイミングで商品を提供できるようになりました。

こうした取り組みは海外だけではありません。日本でも日産自動車は、ビッグデータ、クラウドなどのテクノロジーを利用してデジタルイノベーションプラットフォームを構築し、調達の最適化や、高度な分析環境の導入、コネクテッドカーの具現化などを進めています。

ここでデモ担当のイアン・キンブル(Ian Kimbell)が登場し、Live Businessの例を紹介しました。ある自動車リース会社では、自社でリースしている自動車から走行速度、エンジンの回転数、燃費、急加速、温度などのデータを取得し、SAP Vehicle Insight経由でSAP HANAにデータをアップロード。そのデータから修理時期を予測し、ドライバーに通知しています。さらに、このデータを自動車保険会社に提供して優良ドライバーの判別に活用したり、FacebookなどのSNS情報と連動して、優良顧客に好みの音楽イベントのチケットをプレゼントしています。

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SAP S/4HANAをコアとするSAPのLive Business戦略

ここからイルファンが再び登壇し、こうした事例を実現しているSAPのLive Business戦略に話を移しました。SAPは積極的なM&A戦略を通じて「サプライヤー&ネットワーク」「顧客エクスペリエンス」「人財エンゲージメント」「IoT&ビッグデータ」の4つの領域でテクノロジーの強化を進めています。その中心となるのが「SAP S/4HANA」です。

SAP S/4HANAのベースとなるSAP HANAは2012年に登場以来、さまざまな顧客のデジタル化の基盤となってきました。「SAP HANAはLive Businessを支えるデジタルコンピューティングのプラットフォームとして、データ、アプリケーション、サービスなどを内包しています」(イルファン)

また、2015年にはビッグデータ解析を効率化するソフトウェア「SAP HANA Vora」をリリース。オープンソースの分散処理技術であるHadoopやSparkを用いた分析環境が構築できるようになりました。これによってSAP HANAの上位にHadoopやSparkによるコンピューティングのクラスターを構成したり、さまざまなデータをSAP S/4HANA上で統合したりすることが可能になっています。

アプリケーション主導型ビジネスには、開発環境の整備も欠かせません。SAPでは、SAP HANAやSAP HANA Vora上でのアプリケーション開発を効率化するためのプラットフォームとして「SAP HANA Cloud Platform」を用意し、迅速なアプリケーション開発を支援しています。イルファンはまたApple社との提携について語り、iOSネイティブのアプリケーションを開発するためのSDK(ソフトウェア開発キット)がSAP HANA上で利用できる「HCP SDK for iOS」を紹介。「AppleとSAPのパートナーシップは、数百万といわれるアプリケーション開発者に新たな扉を開くものであり、非常に有効な手段になるはずです」

Live Businessを推進するうえでは、プラットフォームを提供するだけでは不十分です。そこでSAPはエンドツーエンドの強力な分析機能によって組織全体のデータの可視化を目指しています。その核として、分析ソリューションSAP BusinessObjectsをクラウド上のSAP HANA Cloud Platformに実装することで強力な分析機能を提供し、広範な解析の実現を支援しています。

満を持して2015年に登場したSAP S/4HANAは、第4世代のERPとして23年ぶりにアーキテクチャーが刷新されました。イルファンは「SAP S/4HANAはSAPが変わるきっかけであり、デジタルエコノミーの推進力です」と語ります。

クラウド基盤をベースにさまざまなプラットフォームやアプリケーションを取り込んできたSAP のLive Business戦略。現在は、企業間取引のSAP Ariba、経費精算のConcur、外注管理のSAP Fieldglass、タレントマネジメントのSAP SuccessFactors、eコマースのSAP HybrisとSaaS型のビジネスネットワークを取り込みながらデジタル化の拡張を続けています。

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イルファンは最後に、「より重要なことは、企業それぞれがビジネスで何を達成したいか、そしてテクノロジートレンドをどのようにビジネスに活かしていくかです。皆様ご自身がビジネスのゲームを変える機会を持っていると考えていただきたいと思います」と語って講演を終えました。