SAP S/4HANA1610のロジスティクス領域における進化
作成者:小野山 忍 投稿日:2016年11月25日
ブログ“SAP S/4HANAの最新版がリリース”にてご紹介した通り、SAP S/4HANAの最新版としてSAP S/4HANA 1610がリリースされました。ロジスティクス領域における最大の特徴は、いままで拡張ソリューションとしてご提供していたサプライチェーン機能をSAP S/4HANAに統合した点です。拡張ソリューションが単一システムに統合されたことで、シンプルに扱えるだけでなく、開発・運用に伴う費用も抑えることが可能です。
SAP S/4HANA 1610リリースにて拡張ソリューションから統合した代表的な機能は以下の通りです。
1) Production Planning and Detailed Scheduling(PPDS)による高度な生産計画
2) Advanced ATP(Available to Promise)による高度な納期回答
3) Extended Warehouse Management(EWM)による高度な倉庫管理
今回のブログでは1)から3)の機能についてもう少し触れていきます。
1) Production Planning and Detailed Scheduling(PPDS)による高度な生産計画
ビジネス・スイートで提供されていたSCM機能の生産計画/詳細計画ソリューションであるSAP Advanced Planning & Optimization(APO) PP/DSをSAP S/4HANAコアに統合したことで、有限と無限生産計画の両方の生産計画が使用可能になりました。生産順序計画機能も含まれているので、別途スケジューラ等の周辺システムを用いなくても、現場の生産最適化を反映した計画立案が可能です。また統合に伴い品目、部品表等のマスタ情報も1つに統一したことで、マスタ管理もシンプルになりました。
SAP S/4HANAにSAP APO PP/DSをS/4HANAコアに統合することで以下の3つのイノベーションが期待できます。
1.生産計画調整のスピードアップ
2.ユーザビリティーの向上
3.インフラ統合による導入・運用保守コストの低減
1.生産計画調整のスピードアップ
SAP S/4HANA 1511までの生産計画エンジンはMRPによる無限生産計画が実行可能でしたが、生産能力や資材調達に制約を設け有限生産計画を実行する場合は、拡張SCMソリューションであるSAP APOの機能を用いて実現可能でした。ただし複数のシステムを用いて計画立案することで、計画変更の状況に応じて計画エンジンの使い分けを判断し、複数システム間でのマスタやデータの連携を意識して計画実行を行う必要があり、ユーザに高度な管理が要求されました。またシステム間で情報を連携する時間がかかるため、バッチでの実行にせざるを得ませんでした。
SAP S/4HANA 1610リリースではSAP APOで実装していた有限生産計画の機能がそのままコアに取り込まれております。単一システムであるからこそ現場のリアルタイムでのデータを活用して、現場が考慮して欲しい生産能力や資材制約を考慮しながら、需要変動や作業・納品遅延等に伴う突発的な見直し案をシミュレーションし迅速に問題解消に向けた現場指示の改善策を提示することが可能となりました。計画実行も単一システムだからこそシンプルに扱えます。
2.ユーザビリティーの向上
生産担当者用の計画ダッシュボード等計画担当者が頻繁に活用する画面に関しては、SAP S/4HANA 1610リリースで旧来のインタフェース技術(Dynpro)で作られたアプリケーション画面からSAP Fioriによる画面に刷新しております。
3.インフラ統合による運用保守コストの低減
SAP APO PP/DSをSAP S/4HANAコアに統合したことで、別インスタンスの場合に必要だったマスタデータやトランザクションデータのコピーが不要になり、データの冗長性や連携のための設定作業などが大幅に削減されています。運用時のアップグレードや運用保守における管理工数も削減可能です。
2) Advanced ATP(Available to Promise)による高度な納期回答
SAP S/4HANA 1511までの引当は受注オーダーの登録順で引当チェックを確認し総数として引当可能かの判断をするベーシックなもので、再引当も納期等の日付で並べ替えて引き当てなおすシンプルなものでした。そのため、受注先の優先度を考慮して引き当てを行いたいなどの高度な要件がある場合、別途マニュアルで引当調整を行う必要があり、正確な納期回答を管理するために手間と時間がかかりました。より高度な引当を実現したい場合はこれまではSAP APOのGlobal ATPでより高度な引当・納期回答を実現していましたが、SAP S/4HANAでは、より柔軟でハイパフォーマンスの引当を実現するべく、”Advanced ATP”として新たなデザインでSAP S/4HANAネイティブの機能を新規に開発し、今後数年で拡張していく計画です。
SAP S/4HANA 1610リリースではAdvanced ATPとしてバックオーダー、製品割当において機能強化が図られています。バックオーダーでは下図のような5段階の引当の優先順位をユーザが定義した様々な基準に割り当てることにより、得意先の優先度や納期、その他様々な基準の組み合わせに基づいた引当を実現することが可能です。バックオーダー処理を日々実行することで、重要な顧客のオーダーに対して確実に在庫を引当て、希望通りの納期を回答することが可能になります。
3) Extended Warehouse Management(EWM)による高度な倉庫管理
SAPではもともとSAP ERPの倉庫管理(WM)モジュールで基本的な倉庫管理機能を実現していました。しかし、一般に倉庫管理システムでは単純な入出庫や棚別在庫管理に加え、最適な保管棚や梱包の提案、効率的な出荷作業のための作業タスクのグルーピングと作業員への割当、クロスドッキングや流通加工といった様々なプロセスに対応することやRF(無線)端末による倉庫オペレーションや自動倉庫・マテハン機器との連動など様々な要件が求められます。これらに応える高度な倉庫管理ソリューションとしてSAPは拡張倉庫管理(SAP Extended Warehouse Management)を開発し、機能強化を続けてきました。SAP S/4HANAではこのように同じ領域に複数ソリューションがある場合、新しい高度な機能をSAP S/4HANAの標準機能と決めて一本化する方針を採用しました。これに基づき、SAP S/4HANAの倉庫管理機能としては拡張倉庫管理(EWM)を今後の標準機能としました。
SAP S/4HANA 1610リリースでは、これまで外付けでの利用のみが可能だったEWMがSAP S/4HANAコアに統合されました。このことにより、SAP S/4HANAだけで論理的な在庫管理から実倉庫のオペレーションまでが管理可能になります。例えば、工場倉庫等で生産管理から倉庫の部品供給までがシームレスに連携されたプロセスをSAP S/4HANAで実現することが可能になります。また、中小規模の企業が基幹ERPとしてのSAP S/4HANAだけで倉庫オペレーションの管理までを実現するといったニーズにも応えることができるようになります。もちろん、大規模倉庫や拠点ごとの倉庫管理のためにSAP S/4HANAとは異なるインスタンスでEWMを利用することも引き続き可能です。SAP S/4HANAに統合されたEWMでは、別インスタンスの場合に必要だったマスタデータやトランザクションデータのコピーが不要になり、データの冗長性や連携のための設定作業などが大幅に削減されています。
今回はSAP S/4HANA 1610のロジスティクス領域でリリースされた代表的なものをご紹介させていただきました。イベントやポータルサイト等を通じて継続的に情報発信していく予定です。
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