デジタル社会で変わる大学の在り方(2)
作成者:新村 肇 投稿日:2016年12月14日
皆さん、こんにちは。SAPジャパンで大学業界(Higher Education and Research) のプリセールスを担当している新村と申します。今回は、大学とデジタル化というテーマで、昨今のデジタル革命が高等教育の業界に与える影響や変化、そしてSAPが、この業界のお客様に対して、変化に対応していくためにどのようなソリューションをご提供しているのかをお話したいと思います。
1. オーストラリア ラ・トローブ大学の事例
概念的な話が続きましたので、少し私どもの最近の事例からご紹介したいと思います。
オーストラリアのラ・トローブ大学は、学生数35,000名、職員数3,000名規模の大学です。この大学では、デジタル・トランスフォーメーション(デジタル化による大学の業務改革)を目標に掲げて、実際の導入に成功しました。以下のリンクにお客様の声がビデオになっていますので、ぜひ一度ご覧ください。
この大学での事例は、次の様な点がポイントとなります。
(1) 管理業務のオペレーションをシンプル化することで業務効率を20%向上し、間接コストを削減した点 ・履修証書の発行プロセスの作業時間短縮 ・モバイルを活用し、学生が時間と場所を選ばずに手続きができるようにした点
(2) 個々の学生の学習状況に関するデータをリアルタイムに教職員が把握できるようにした点
(3) 学生に対するデータに基づく適切なでタイムリーなサポート ・これによる中退率の低下、収入減の抑止
他に、過去の私のブログでも、アメリカのケンタッキー大学によるエンロール・マネジメント、学生情報の分析の事例やオランダのアムステルダム自由大学の学生ライフサイクル情報管理の事例を公開しておりますので、ぜひこちらも併せてご覧下さい。
2 . 変化を求められる大学運営を推進する方向性
幾つかの事例にみるように、変化する大学運営への要請に対して、デジタル技術を活用し従来の考え方や管理方法を再考していく上での方向性を、私どもは次のような表現でとらえています。
(1) Run Simple(よりシンプルに運営する) 長年の慣習で複雑化する一方の業務のやり方を、より標準化されたシンプルな仕組みに変革していく
(2) Run with data(データに基づき運営する) データ(エビデンス)に基づいて、組織横断的なコンセンサスを図り、経営層から部門レベルまでの各階層での意思決定を行う
(3) Run in real time(リアルタイムな情報を元に運営する)
より鮮度の高いデータに基づき、迅速にタイムリーな判断とアクションを可能にする (年度単位でのPlan Do Check Actionのサイクルから、ケースに応じて月次・週次・日時へ短期化)
3. 大学のデジタル・トランスフォーメーションをサポートするSAPソリューション
SAPでは、デジタル変革を目指す大学・高等教育機関のお客様に対して、Digital Core を中核とした4つの業務領域につながる概観イメージを元に、私どもが提供するソリューションをご案内しています。
Digital Coreを具現化するのは、会計・人事等の基幹業務領域の次世代ソリューションであるSAP S/4HANAであり、国内外のメジャー企業において、大学ではMIT, ボストン大学、デューク大学、ジョンズ・ホプキンス大学などの著名校において、長年お使い頂いているSAP ERPの後継です。SAP S/4HANAは、組織運営の中核業務を、最新のインメモリープラットフォーム上で、シンプルかつ超高速に処理することを可能とするソリューションです。
Digital Core へと情報を流し込んでいく4つの業務領域として、学生と係る業務の管理(Student Engagement)、教職員等の人材管理(Workforce Management)、サプライヤーとの調達購買管理(Supplier Network)、そして最近良く話題となるBig Data活用やIoT(Internet of Things)があります。Big Data や IoTは、大学の研究テーマや教育成果・学生情報の分析という観点からも語られますし、大学運営と接点では、広大なキャンパスに多数の施設を保有する大学にとっては、施設の設備管理やメンテナンスの効率化に、建物や機械に取り付けたセンターからの情報を活用する等の利用シナリオが考えられます。
SAPがご提供するソリューションの強みは、これらの領域を幅広くカバーするビジネスアプリケーションをご提供していることであり、業務・部門ごとの仕事や手続きをそれぞれで電子化するという旧来のシステムとは異なる思想で、デザインされているという点です。
今起こっているデジタル化とは、大学全体のEnd to End の業務やプロセスに幅広く影響を及ぼすものとなります。特に大学にとって重要なのは、顧客である学生との関係や関わり方、接し方が、デジタル技術を取り入れることにより、大きく変わる可能性を秘めているという点では無いかと思います。
4.最後に ~ 学生にとっての成功のために ~
技術的な点で言えば、普及が進むモバイル端末等を通じて、個々の学生とのやり取りや情報の収集・把握することは、一昔前と比べると格段に進めやすくなりました。弊社の高等教育業界のグローバル責任者であるMalcolm Woodfield が、世界中の大学の経営者と会話をしている中で、今最も感じていることは、「世界の大学はデジタル・テクノロジーを『学生の成功』のために活用しようとしている」ということだと語っています。そして、その「学生の成功」の定義さえも、昔とは変わってきていると考える大学の経営層が増えてきている様です。
学生の学業成績だけに注視する様な時代は過去のものになっており、学生の個々人の成長に対していかに大学が寄与していくのか重要であり、学生個々人にとっても成功を自己評価する基準が多様化しているという現象が見られます。学生をより深く理解すること、どのような将来に向けて彼らを後押ししていくことが、本当に学生にとっての充足感とその後の人生の成功に効果的につながっていくのかを、大学側もより考えなければならない時代の入り口にあるという認識に基づいて、具体的な施策の中でデジタル技術をそこに活用しようとしているのだと理解しています。
そして「『学生の成功』と『大学の成功』を結び付けて考えようとすると、それは両者が目指すもののマッチング度合が正しかったかという点の検証にたどりつくようだ」と、Malcolm は言います。そして、その検証の結果として、募集方法や合否判定基準、カリキュラムの編成等にもフィードバックされるとともに、卒業後も学生と大学とのエンゲージメントが持続しやすいような取組へと展開されていきます。
ケンタッキー大学では、大学が学生にモバイルアプリケーションを配布して、定期的に単純な心理アンケートの様な質問を配信し、そこから得られた分析結果を元にして、リテンション・リスクを早期発見するという取り組みもされています。
デジタル化がもたらす大学のこれからの在り方に関して、私どもなりの視点で、弊社のグローバルの知見も交えてご紹介させて頂きました。このブログが、少しでも皆様の経営改革の取り組みに参考になりましたら幸いです。
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