SAPセミナー【SAP HR Connect 守りの人事から攻めの人事へ】レポート3


パネルディスカッション:日本の人事リーダーが語る! 「守りの人事から攻めの人事へ」グローバルへの挑戦

こんにちは、SAPジャパンの藤田園子です。SAP HR Connectレポート、シリーズ最終回は、モデレーターの一橋大学大学院教授の守島基博氏、パネリストのダイキン工業株式会社の佐治正規氏、TOTO株式会社の平野氏貞氏、SAPジャパン株式会社のアキレス美知子によるパネルディスカッション「日本の人事リーダーが語る!『守りの人事から攻めの人事へ』 グローバルへの挑戦」の模様を紹介します。

人事のスペシャリストとして経営に関与

日本企業のグローバル化のさらなる加速に伴って、グローバル経営を担う人材と組織を確保するための試みが進められています。しかし、「これまでの前例にとらわれた“守りの人事”から抜け出せなかったため、多くの企業が成功感を得られませんでした」とモデレーターを務めた一橋大学大学院教授の守島基博氏は指摘します。

その一方で世界市場での成長をサポートすべく“攻めの人事”への変革に成功した日本企業も存在します。その代表企業の人事責任者であるパネリストに守島氏は「なぜ“攻めの人事”ができたのでしょうか?」と質問をなげかけます。

 

この問いかけにダイキン工業の佐治正規氏は、「事業環境の影響が大きかったです」と回答しました。同社は事業規模を拡大するためにグローバル化を推進した結果、2016年3月末には当社の連結従業員の約6万人に達し、このうちの4万8000人が外国人従業員となりました。現地拠点など、グローバル戦略に欠かせない素地を整えたのです。

次のステップは、いかに業績に貢献できる人事を実行していくかです。国内の制度と共通化できそうなものは世界全体で取り入れ、共通化できないものは現地のカルチャーなどに合わせてアレンジするなど、「それぞれの課題を一つずつクリアしようとしていますが、まだまだ道半ばです」と佐治氏は明かします。

 

さらなる発展を目指してグローバル化を推し進めた点ではTOTOも同じです。TOTOの平野氏貞氏は、「人事に関してはあまり介入しない、『小さな政府』のスタンスをとっています。とくに海外に関しては宗教やカルチャーの違いもあるので、最近まで外国人従業員の人事は現地に委ねてきました」と説明します。

しかし、現地に一任するというスタンスを、コーポレート・ガバナンスの高まりによって見直しました。現地の人事状況を把握してなければ、ステークホルダーへの説明責任が果たせないからです。「その一方で、どこまで把握すべきなのか、という新たな問題が浮上しています。経営陣は情報を出してほしいと要望しますが、あまり情報量を多くすると見る側の経営陣も、提供する側の現地も負担が重くなってしまいます。人事のスペシャリストである我々が経営に関与し、バランスをはかることが攻めの人事のカギとなります」と平野氏は見立てを示します。

 

SAPでは、2010年に事業領域を2倍にし、クラウドカンパニーへと戦略のかじを切ったことをきっかけに、組織のあり方を見直しました。それまでは国ごとに管理していた組織体制を、効率よく運営できるグローバルに統一された体制へと移行しました。「その際にデータベースを活用した人材の見える化を進め、グローバル・グレーディング制度を導入したことが、攻めの人事の第一歩といえるかもしれません」とSAPジャパンのアキレス美知子は話します。

同制度では、人材の成長スピードによって3段階のグレードに分類しています。成長スピードが最も速く、チャレンジングな役割を担える層、加速度的な成長が見込める層、そして普通の速さで着実に成長が期待できる層です。「それぞれ成長スピードに差はあるものの、我が社の発展に貢献してくれる人材です。社員一人ひとりをタレントと捉え、強みを活かし事業を成功に導くためのサポートを続けています」(アキレス)。

  

事業部門トップとフラットに話し、真のニーズをくみ取る

続いて守島氏は「みなさんが思い描くビジネスパートナー像とは?」とたずねました。

 

ダイキンの佐治氏は、従来の考え方ではビジネスパートナーというと、空調部門や化学部門、油圧機器部門などに人事担当者を置くことになりますが、「それでは事業部門の本当のニーズをくみ取ることができず、御用聞きのような存在になってしまいます」と話します。

ビジネスパートナーは事業部門の利益代表者であるとともに、何が課題なのかを理解していることが必要です。そのうえで人事の専門性を活かし、課題の解決策を示す力が求められますが、「当社では、このようなビジネスパートナーといえる人材がこれからますます必要になっていくと思います」と佐治氏は見ています。

ビジネスの三要素には「ヒト・モノ・カネ」があります。事業部門のトップが事業戦略を展開するうえで最初に考えるのは“カネ”です。利益を増やすための設備投資にはどれだけの資金を要するのか、検討しないとならないからです。その次に来るのが、実際に投資する設備や工場などの“モノ”で、最後が“ヒト”になります。

「しかし、事業戦略を実行するには最初に“ヒト”がいなければ始まりません。“カネ”“モノ”の後に“ヒト”に着手したのでは100%間に合わないのです。ビジネスパートナーは、そうした事業の課題と人事の課題を結び付けなければなりません。そのためには、さまざまな課題について事業部門のトップとフラットに話せなければなりません。事業部門に籍を置き、課題をともに考えられる人でなければ期待には応えられないでしょう」(佐治氏)。

 

TOTOでは人事部門の人員が少ないこともあり、各事業部にある企画課の人たちとのコミュニケーションを重視しています。「事業計画と要員計画はセット」という理解も深まり、「グローバルで中長期の要員計画を立てる仕組みができ始めています。こうした経験から事業部門のキーパーソン、当社でいえば企画部長や企画課長との意思疎通が図れる人材であることがビジネスパートナーには求められるでしょう」と平野氏は分析します。

 

「ビジネスパートナーのポイントは、いかに事業に関与していくか」と答えるのはアキレスです。アキレスは四半期毎に開催される各事業部のクォータリー・ビジネス・レビュー(QBR)に出席し、人事担当者の立場で率直な意見を共有していると言います。また、人事の課題に対してより深い議論をするために、タレント・オーガニゼーション・ストラテジー・セッション(TOSS)という話し合いの機会も設けていると明かします。「このような議論の場に参加することで、外からは見えなかった課題が見えてきます。単に事業部のリクエストを聞くのではなく、組織の課題を察知し、根本原因や、『ここをこう改善すれば組織力が上がるのでは?』など、深い議論をするのもビジネスパートナーの重要な役割だと思います」(アキレス)

 

定量情報に定性的な判断を加味して人材を選ぶ

海外拠点の次世代幹部の育成も海外戦略には欠かせません。ダイキンも次世代を担う幹部の発掘に力を入れており、現地の経営トップや人事担当者にヒアリングし、推薦してきた人材に直接会うように努めています。

ときには意外な人物が推薦されますが、名前が挙がった人は2、3年後にはコアポジションに就いており、佐治氏は「成果を出しているケースがいくつもあります。こうした結果を踏まえて、現場の判断の重要性を再認識しています」と力を込めます。

 

守島氏が「グローバル・グレーディングは人材の可視化という点では有効ですか?」と聞くと、アキレスは「人材を可視化するのはもちろん、評価や給与体系など共通の基盤を持つことができます」と答えました。ただし、日本の企業のなかにも興味を持っているところはあるものの、グローバル・グレーディングを本格運用するまでに、いくつか越えなければならないハードルがあるため、導入を見送るところもあると説明します。

人材データベースの構築によって最適な人材が検索しやすくなります。これまでの人事は勘や経験頼みで人材を評価してきましたが、グローバル企業のように事業規模が大きくなると、このような判断では効率が悪くなります。「まずはデータベースを通じて効率的に人材を絞り込み、そのうえで上司やまわりの評価などの定性判断を加味することで、より最適な人材を選ぶことができます」(アキレス)

 

ダイキンは何度かグレーディングにトライしてきました。しかし、会社の規模や職務の大きさに連動してグレードを決めるのは難しく、個々人の能力の高さという意味で納得性に欠けるため、「日本の職務資格をベースに設計できないか考えているところです」と佐治氏は実情を打ち明けます。

 

TOTOはグローバル・グレーティングにはまだ取り組めておらず、「いま進めているのは海外拠点の経営幹部クラスを対象とした『海外リージョン経営幹部研修』です。取締役クラスは一通り受講が完了し、現在は部長級に取り掛かっているところです」と平野氏は語ります。

国内では、管理職の人事・給与体系のアプローチとして、2つの方法を導入しているそうです。1つはジョブサイズと職能社員資格です。実際に同社では10数年前より、ジョブサイズと職能社員資格に応じた人事・給与制度を導入していると言います。もう1つは役員自らの目で将来の経営層や幹部候補者を選抜する方法で、TOTOでは「NEXT制度」と呼んでいます。「まだ人事評価に活用する段階ではないので、まずは見える化をしていくことを優先しています。今後、このような国内のアプローチを海外の幹部クラスに検討導入していくことで、グローバルの人材の見える化を進めていく必要があると考えています」(平野氏)。

 

グローバル化を進めるうえでの課題の一つが企業理念を浸透、定着です。ダイキン工業では、「人を基軸に置く経営」という考え方を浸透させるため、まずは現地のマネージャー以上の研修のなかで、日本の人事担当者などが解説する時間を設けています。さらに経営幹部候補者の教育プログラムのなかにも盛り込んでおり、来日の際に人事担当者が説明する時もあれば、経営トップ自らが伝える時もあります。

 

また、「人を基軸に置く経営」を実践するうえでの議論を推奨していますが、佐治氏は「いくつかの海外拠点では自発的にコミッティーが生まれ、考え方を具体化する動きも出ています」と語ります。

 

SAPは、2015年にグローバルの行動指針をつくりましたが、アキレスにとって印象深かったのは、「行動指針をつくって終わりではなかったことです。世界130カ国に拠点があるので、それぞれの国の文化や考え方にどう適合するのかなどを議論し、意見があれば本社に提言する、こういう自由な意見が言える環境が整っているのはすごく大切なことだと思います」とのコメントでパネルディスカッションは幕を下ろしました。

 

いかがでしたか?

「攻めの人事」への変革は、一足飛びにはいかないようですが、日本の人事リーダーによる各社の取り組みや課題など、守りの体制から脱却する大きな一歩に繋がるお話し、大変参考になりました。

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