IoTで新たなビジネス創造を目指すイノベーターが集結-Business Innovators’ Network キックオフ(後編)


日本におけるIoT活用の促進に向け、さまざまな分野にわたるイノベーターのネットワークづくりの場として2016年10月に開催されたSAP IoT Executive Summit 2016 Tokyo。前編では国内のIoTの取り組みの中でも、ひときわ注目すべきパイオニアを紹介した。

後編ではさらにスコープを広げ、すでに実用化の段階に進んでいる事例や、「IoT的な発想」から生まれる画期的なイノベーション/ソリューションに注目する。前編はこちら

各分野で動き出しているIoT~イノベーションのプロジェクト

ものづくりの民主化へ。誰でも世界を変えられるデジタルテクノロジーを追求:

株式会社カブクphoto_inada

10年くらい前から、デジタルの民主化の流れが起きていると株式会社カブクの代表取締役 稲田 雅彦氏は指摘する。「長い歴史を通じてものづくりが抱えてきた課題は、今も本質的にあまり変わっていません。代表的なのが、大きな開発コスト、長い開発期間、在庫リスクの3つです。これに対して当社は、ものづくりを民主化するプラットフォーム『Rinkak(リンカク)』を提供しています」

Rinkakが従来のオンデマンド製造と大きく違うのは、法人や個人の顧客向けの3Dプリント技術の利用環境で、遠隔地の工場や施設をネットワークで結ぶだけでなく、サプライチェーン全体をデジタル化=IoT化している点だ。カブクではすでに30カ国以上にわたる分散型工場ネットワークを構築しており、3Dデータ自動生成エンジンやデジタル製造基幹業務クラウドなど、発注から製造、販売までを一気通貫でサポートできるデジタルサプライチェーンを実現しているという。2016年には本田技研工業株式会社と、このプラットフォームを利用して小型ビークルを共同製作し、「CEATEC JAPAN 2016」に発表するといった成果も挙がっている。

kabuku
工程間をデジタルで最適化することで効率の良いサプライチェーンを実現

 

公共交通の安全運行ソリューションを開発:

NTTコミュニケーションズ株式会社photo_oka

NTTコミュニケーションズは現在、SAPジャパンと共同で、公共交通機関の安全運行のためのソリューションを共同開発している。これは、路線バスの運転手の心拍数など身体コンディションとバスの運行状況や位置情報、車体の情報などを、ネットワーク経由でリアルタイムに収集し、異常がないかを常に把握できる仕組みだ。

経営企画部 IoT推進室長の岡 敦子氏は「両社でブレインストーミングをくり返す内に、SAPとならコンセプトを共有して一緒に新しいものを創れると確信しました。またプロジェクト開始後も、双方の開発チームが実際に行き来をして、フェイスツーフェイスのコミュニケーションを深めたことが、スムーズな進行につながりました」と振り返る。2016年秋に、実際の路線バスで実証実験を行い、2017年早々に商用提供を予定している。公共交通の安全運行という重要な社会インフラでの成果に、ぜひ期待したい。

NTTとSAPが取り組むバス安全システムの実証実験(京福バス様)

 

電車のブレーキの交換時期や製品履歴をIoTの応用で個別に管理:

日本電気株式会社(NEC)x SAPphoto_francesco

SAPのBusiness Innovation Internet of Things部門でバイスプレジデントを務めるフランチェスコ・マリは、「重要な多くの意思決定は、推測や標準的な情報に基づいて行われていることが多いが、たとえば電車のブレーキパッドの交換などは決められた走行距離ではなく、実際のブレーキパッドの減り具合に即して行われるべきだ」と語り、そこにIoTが有効だと指摘する。実際にSAPとNECは、海外の鉄道会社でブレーキパッドの消耗をセンサーで把握し、適切なタイミングで交換することで保守コストを抑える、CBM(Condition-Based Maintenance、状態基準保全)に取り組んでいる。photo_mochizuki

NEC 執行役員 〔ビジネスイノベーション統括ユニット副担当〕 IoT戦略室長 望月 康則氏は、「金属加工品には表面に固有のパターンがあり、これをデータベースに登録しておけば、出荷後でもそのパターンをタブレットのカメラで撮るだけで個体を特定することができ、したがって出荷時期その他の履歴を知ることができる」と説明する。このFingerprint of Things という技術は、従来の二次元バーコードなどが適さなかった小さなボルトのような部品まで含めてトレーサビリティを確保することに役立つ。NECならではの技術が大きなイノベーションをもたらす好例といえるだろう。

 

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両社はトレニタリア(旧イタリア国鉄)でブレーキパッドのCBM(状態基準保全)に取り組む

 

建物ごとの震度データを収集し、より精密な震度計測を実現:

白山工業株式会社photo_yoshida

地震計のトップメーカー白山工業株式会社では、スマートフォンアプリを使った簡易型の地震センサーをビルや住宅などに設置し、ふだんから起きている小さな地震のデータを収集・解析することで、大地震の際の建物の揺れ方を把握・予測するシステム「my震度」を、SAPジャパンと共同で無償提供している。同社代表取締役の吉田 稔氏は「アプリは開発したものの、個人の住宅や建物に取り付けて実証実験するには持ち主の許可が必要であり、社会実装が広がらないという障壁がありました」と語る。

そこにSAPジャパンから協力の申し出があり、SAP HANA Cloud Platform(HCP)上にシステムを構築。SAPを中心に広報活動を進め、協力を得た各住宅や建物からのデータはリアルタイムでSAP HANAデータベースに送られ、解析され、その結果はユーザーのスマートフォンにフィードバックされる。「my震度」は、スマートフォン、ネットワーク、クラウド、そしてHCPという最先端のテクノロジーを、防災という視点からのデザインシンキングによって昇華させた、イノベーティブかつ社会貢献度の高いソリューションと言えるだろう。

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ふだんの小さな揺れをすべて解析して、いざ大地震が来たときの揺れ方を予測

 

さらなるビジネスの展開と社会への貢献へ

最後に、社会のさまざまな方面から寄せられる期待や要望に応えるための「デザインシンキング的な発想」について見ていきたい。

理屈で分かることと、腑に落ちることは違う:

特定非営利活動法人 日本ブラインドサッカー協会photo_matsuzaki

「サッカーを通じて視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会を実現すること」を掲げる日本ブラインドサッカー協会は、障がい者スポーツの振興が、社会の変革につながると考えている。

例えば小学校を訪問すると、子どもたちはブラインドサッカーに取り組む障がい者の生き生きとした姿を目の当たりにし、さらに一緒にプレーすることで、障がい者への見方=マインドセットが変わっていくという。この変化は多様性の理解そのものであり、「多様性の理解は自分の未来への投資」と語る事務局長の松崎 英吾氏は、企業のダイバーシティ推進にもつながると確信している。「皆さんのイノベーションのためにも、ぜひ私たちの活動を見て、新しい気づきに向かってください」

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障がい者支援をビジネスとして成り立たせることで、より持続的・発展的な社会インパクトを目指す

 

地域とのコミュニケーションをベースに地域システムの開発効率をアップ:

一般社団法人 コード・フォー・ジャパンphoto_seki

東日本大震災の時にボランティアとして震災情報Webサイトの立ち上げに参画し、以来、地域システムの改善に関わってきたコード・フォー・ジャパン 代表理事の関 治之氏は、「これからの地域システムは、自治体・事業者・市民がともに考え、つくる関係から生まれる」と語る。地域の人々とのコミュニケーションをベースに本当に必要なものを開発し、それを自治体間で公開・共有することで、開発費用や時間の大幅な節約が実現するという。では、企業はそこにどう関わっていけるのだろうか。

「そのために、企業と自治体がともにつくる『コーポレート・フェローシップ』を行っています。企業の方に3カ月間、週1~2日、自治体に出向してもらいます。そうして現地の行政の現場に触れる経験を通じて、自社が提供できるリソースなどを見つけていただきます」

IoTを具体的なソリューションに結びつける取り組みとして、企業にとっても重要なヒントの1つといえるだろう。

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自治体への出向を通じて、企業としての貢献の可能性を探る

 

システムデザインとプロセスデザイン:デザインシンキングが社会システムを変えていくphoto_furusawa

SAPジャパン株式会社 Automotive Competency Center バリューエンジニア 古澤 昌宏は、ロンドンの交通システムのUIを例に挙げ、「利用者目線」で考えることの重要性を指摘した。イノベーションを起こす上で重要なのは、システムデザイン/プロセスデザインという視点だ。顧客(最終消費者)への共感を持つという考え方は、SAPが提唱する「デザインシンキング」でも強調される点だ。

さらに古澤は、今後日本が置かれていく状況を克服する上でも、システムデザイン/プロセスデザインは不可欠だと指摘する。例えば、業務プロセスのデジタル化を進め、すべての情報や連絡をネット経由で行うなどの仕組みを構築することだ。「自動車業界を例に挙げると、2015年には7,000万台あった自動車の生産量は、高齢化やカーシェアリングの普及により、2025年までには25%の需要減になると予想されています。こうした目前に迫る困難を乗り越えるためにも、コスト(特に人的コスト)を最小化できるシステム/プロセスをどう作るかを考えていくことが、生き残りのカギとなるでしょう」

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よいデザイン、悪いデザインは至るところにある

 

 大企業病克服には、まずメインストリームの外側で改革をphoto_baba

一方、デジタルビジネス時代を迎えてから、ものづくりを中心に成長してきた日本企業の停滞感について語られることが増えている。SAPジャパンのチーフイノベーションオフィサーで、Jリーグの特任理事テクノロジー担当も務める馬場渉は、企業のパフォーマンスの悪化は、21世紀のデジタルエコノミーにおける最大のコストである「時代とのギャップを埋める」マネジメントができていない点が原因だと指摘する。

またその解決策として、SAPジャパンと、FC今治(元日本代表監督である岡田武史氏がオーナー)やSVホルン(現役日本代表選手である本田圭佑氏が実質オーナー)との取り組みを例に挙げた。「大きな組織をいきなり変えるのは難しいので、メインストリームの外側でまずチャレンジをする。次に適度なタイミングで、保守本流の真ん中にそれを取り込み、最終的にメインストリームと新しい傍流を主従逆転する。この3段階のプロセスが改革には有効」

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メインストリームの外側でまずイノベーションを起こす-SVホルン本田氏、FC今治岡田氏と

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SAP IoT Executive Summitに登壇したイノベーターたちに共通するのは、さまざまな分野で従来の枠を打ち破る「発想と行動力」だ。日本のあちこちで、IoTをキーワードにデジタルトランスフォーメーションの力強い胎動が始まっている。今回のサミットが多くの日本企業にとって、新たな一歩を踏み出すきっかけになることを願っている。

(了)