SAPの最新技術動向を90分で俯瞰 – SAPPHIRE NOW 2017基調講演レポート


2017年5月16~18日、米国フロリダ州オーランドでSAPPHIRE NOW 2017が開催されました。ここでは2日目に登壇した、SAPの共同創設者で監査役会会長を務めるハッソ・プラットナーによる基調講演の概要をお伝えします。本講演は、SAP Cloud Platform、SAP Leonardo、デジタルダッシュボード(SAP Digital Boardroom)、ナレッジワークスペースを中心に構成されました。エキスパートによるデモ以外、スライドやビデオ映像を交えてハッソが語るシンプルな形で進められた内容は、技術的な示唆に富むものとなりました。

進化を遂げるSAP Cloud Platform

最初に言及された「SAP Cloud Platform」は、SAP HANA Cloud Platformとして2013年に発表され、現在も開発が集中的に行われています。

ハッソはSAP Cloud Platformについて、インフラやデータモデルの設計を始めたのは約10年前だが、直近のシステムモデルはよりシンプル化されたデータモデルを持つSAP HANAをベースにしていると語ります。基本的にはこれまでのモデルを再構築するというアプローチで、SAP S/4HANAなどとのギャップは未だ存在しますが、開発スピードは急加速しています。

従来モデルの再構築とはいえ、多くの革新的な拡張が見られます。
「データエントリー速度の向上や、Material Number(部品番号)に関する18桁から40桁への拡張、データモデルのシンプル化、UIのエクスペリエンス向上、メモリを中心とした処理の高速化、Hadoopやアナリティクスソリューションとの連携などを行っています。部品番号を拡張すると画面やレポーティングまでさまざまな変更が必要になりますが、それでも踏み切ったのは、自動車業界をはじめ多くのお客様からの声があったからです。SAPでは、お客様固有の機能を製品に取り込むことで、お客様企業がプロセスをシンプル化できるよう支援します」

また、特筆すべき内容として、既存SAPシステムコードへのアクセス手段の提供などを挙げました。これにより、提供されるインターフェース経由でSAPのコードに直接アクセスできるようになります。インターフェースのタッチポイント/インテグレーションポイントは5,000にも上り、研究開発作業の10~15%をこのようなSAP製品間のインターフェース開発に費やしている状況です。

SAP Cloud Platformの開発プロジェクトは、外部のパートナーを含めたオープンな体制です。「20年前にSAPがNetWeaverをリリースした際、開発した機能のほとんどはSAP内部に取り込まれ、外部に提供されることはありませんでした。しかし、SAP Cloud Platformには既に600ものパートナーが存在します。SASアプリケーションとの連携やGoogle Mapからのデータ取り込みなど、最新の外部アプリケーションとの連携が図られ、さらに拡大しています」

SAP Cloud Platformの説明の最後には、他社とSAPの違いについて言及しました。
「今やCPUの性能はかつてないほど向上し、コア数は無限といってもよいほど拡張が可能です。しかしSAPの最大の強みは、詳細かつ膨大なビジネストランザクションデータのすべてがSAPデータベースに入っていることです。これらのデータをどのように簡単、高速、柔軟に活用できるかがポイントとなります」

今後のシステム開発とSAP Leonardo

今後のシステム開発では、これまで以上に開発環境の充実が図られ、それによってアプリケーションの開発スピードや品質が向上します。具体的にはRapid Application Prototypingを使って、基本設計からアプリケーション設計、開発、システム導入に至るまでをスピード化します。その過程では、ユーザーが直観的に状況を把握できるUIが重要となります。

UIの充実によって、設計やプロトタイプの段階からユーザーが参画できるようになり、設計の方向性がユーザーにとって正しいかどうかを議論することができるようになるといいます。例えば、ユーザーがアプリケーションのどの部分に興味を持っているのかをヒートマップで確認して、開発に携わる全メンバーが同じ視点を共有しながらプロジェクトを進められます。インテリジェントでインタラクティブなアプローチにより、アプリケーション開発に必要となるコストを抑え、開発やトレーニングを大幅に迅速化できます。

インテリジェンスを活用したアプローチはこれまでにも実施されており、その結果UIやDBのデザインも見直されてきました。今後はアプリケーションのアルゴリズムに関するインテリジェント化が必要とハッソは語ります。「今後のシステム開発における指針として、すべてのアプリケーションのインテリジェント化を図っていきます。SAPは全世界の76%のトランザクションを扱い、世界最大のビジネスネットワークを持ち、25の業界をカバーしています。このような既存の資産と機械学習機能を組み合わせ、”Intelligent Self-driving Business”を構築していきます」

そして、このIntelligent Self-driving Businessを支える仕組みが「SAP Leonardo」です。
「SAP Leonardoは新しいスタイルのアプリケーション開発や関連サービスに向けたツールセットで、機械学習機能を最大限に活用しています。SAPの強みとも言える『すべてをアプリケーションの内部で処理できる』特性を活かして、機械学習やAI機能についても内部で実行できます。内部ですべてが完結すると、外部にデータを移す必要がなく、セキュリティも確保できます。得られた学習結果は、トランザクションシステムのランタイムソリューションという形で反映されますが、これが別システムではなく同一システム内で完結している点が重要なのです」

SAPでは各種のインテリジェンスをシステム内に実装し、既に内部に保有しているデータに適用しています。SAP Leonardoは、このようなインテリジェンスを利用するアプリケーションのための基盤とも言えます。
「現在、約20の機械学習アプリケーションの開発が進行中ですが、今後は50に増やし、さらにお客様も数百ものアプリケーションを開発していくと思われます。機械学習を有効化するには数多くのケース(学習のためのソース)が必要ですが、SAPは既に膨大な量のケースを保有しています。例えば、お客様からの膨大な量の発注がこれに該当します。人力では不可能なほど大量の分析も、機械学習を活用すると実現可能となります」

トランザクションデータからその性向や規則を学び、アルゴリズムにフィードバック。さらに、その結果をUI上に表し、どのようなパターンが効果的なのかを最後に人に委ねる—このような流れの中で結果を導き出せるのは、データや関連するナレッジをみずから所有するSAPユーザーに他なりません。現在SAPが注力するのは、トランザクションをベースにAIを活用して新しいパターンを学び、ソフトウェアロジックを更新し続けることです。キーとなる要素は、「インテリジェント・トランザクション」、「アナリティクス」、「コラボレーション」、「デジタルアシスタント」で、具体的な仕組みも登場しています。

新しいコラボレーションのためのツールとして開発している“Collective Intelligence”により、テキスト、スクリーン、画像などの情報を遠隔地にいるメンバー間で共有しながら仕事を進められるため、ユーザー同士が持つインテリジェンスで相乗効果を発揮できます。また、管理業務タスクも自動化されていきます。例えば、SAP Accounts Payableで数分かかっていた請求書発行が数秒に短縮され、コンプライアンスの自動チェックなどにも応用されます。さらに、リアルタイム画像から企業のロゴを自動判別し集計するBrand Recognition機能(SAP Brand Impact)など、AI技術を応用した仕組みが実用化されていきます。

「今」の全体像を俯瞰できるデジタルダッシュボード:SAP Digital Boardroom

SAP Digital Boardroomでは、複数画面を使った構成で各種の分析機能を利用できます。この仕組みにより、インタラクティブ/リアルタイムにデータを更新しながら、質問に対応したり、その場で自由に画面をカスタマイズすることが可能です。活用シーンは数多く、製造工程や製品配送状況のモニタリングにも活用できます。製品のリニューアル率が上がっているのか落ちているのか?その理由は何か?ブラジルと中国における状況の違いは?といった質問にその場で対応できます。分析に何日も何週間もかけることなく、数秒でダッシュボードに回答を表示できる、リアルタイムでシンプルな点が重要です。

ここでハッソは、アナリティクスから得られる洞察についての説明を、SAP Leonardo部門のトップを務めるマーラ・アナンドに委ねました。「従来のVOIPやビデオ、コラボレーションツールによるつながりに加え、企業のさまざまな部門がつながるデータバリューチェーンによって、優れたコンテキストやエクスペリエンスを提供できるようになります」とアナンドは強調します。

このような潮流の中では、データこそが企業における戦略的な資産となる反面、瞬時にデータから価値を得るため、リアルタイムな判断が重要となるとアナンドは語ります。
「そのため、サービスモデルが重要性を増します。データからインテリジェンスを獲得することが、いつでも、どこでも、誰でもできるようになる必要があるからです。求められるのは、ビジネスインテリジェンス、予測分析、計画機能を合わせ、リアルタイムな意思決定を支援するアプリケーションと考えられます。今この瞬間の判断に必要な洞察をリアルタイムに提供するだけでなく、機械学習を活用した予測機能(predictable forecast)を提供するというものです」

誰もが利用するGoogle AppsなどのアプリケーションとSAPの最大の違いは、既にトランザクションデータがSAPシステムに入っているという点です。また、他のアプリケーションをSAP Cloud Platformに持ち込むことができる点も優位性になっています。
「コラボレーティブな形でSAP Digital Boardroomに分析機能を組み込み、企業や個人でダッシュボードを作成して利用することができます。重要なのは、結果を単純にダッシュボードに張り付けるのではなく、インタラクティブに確認し、質問に答えることができる点です。データベースからデータを取り出し、結果を表示するまではわずか3秒程度です」(ハッソ)

コラボレーションの促進に貢献するナレッジワークスペース

90分にわたるハッソの講演は、リアルタイムなデータをベースにしたコラボレーションの進化にも及びました。企業活動においては、社内のさまざまな部門に居る「誰が」、「どんなナレッジを持っているか」を把握できることが重要です。例えばテクニカルサポート部門にとっては、問題を解決するナレッジを持つ担当者を見つけて対処することが不可欠です。さらに、リアルタイムなデータに基づいて複数のメンバーが状況を把握し「ここを修正すべきだ」といった判断を行うことが必要で、その答えとなるのが「ナレッジワークスペース」という考え方です。

ナレッジワークスペースの説明では、SAPイノベーションセンターのジム・ラップが「機械学習を活用して、顧客との良好な関係維持」について、SAP Customer Retentionのデモを紹介。さらに、SAP最高イノベーション責任者のユルゲン・ミューラーがSAP Service Ticketingについて解説しました。

ハッソは、コラボレーションについて、「SAPはインテリジェンスを最大限に活用したツールによって、コラボレーションのレベルをこれまでとは大きく変え、”Intelligent Enterprise”の実現に貢献します」と総括しました。このようにSAPは、既に保持している膨大なビジネスデータやノウハウ、ナレッジに新たなコラボレーションツールを加え、お客様企業のワークスタイルやビジネスイノベーションを支援していきます。