人がいて、コミュニティがあり、そしてテクノロジーがある – SAPPHIRE NOW 2017基調講演レポート


2017年5月16日~18日、米国フロリダ州オーランドで米国SAPユーザー会による「ASUG ANNUAL CONFERENCE」がSAPPHIRE NOW 2017と同時開催されました。初日に実施された基調講演は、ASUGのジェフ・スコットCEOとコメディ女優との寸劇から始まり、ジェフとASUGチェアマンであるキース・スターギルとの対談、さらにメイン登壇者であるジェイコブス兄弟(Tシャツメーカー「Life is Good」の創業者)による講演へと展開。寸劇には笑いが生まれ、ジェイコブス兄弟のパートは来場者との間でフリスビーが飛び交うなど、終始リラックスしたムードで進行しました。

ASUG CEOとチェアマンの対談:より高まる「人とコミュニティ」の重要性とそれを支えるテクノロジー

Geoff Scott and Keith Sturgill

冒頭にジェフは、「IoTをはじめ、デジタル化が進行し企業改革がより加速する中、今回のように20カ国にも及ぶ国々からコミュニティメンバーが集まって最新の情報や考え方を共有できることが、ASUGの大きな強みとなっています」と切り出しました。彼とコメディ女優レイチェル・ドラッチの寸劇が会場の笑いを誘った後、ASUGチェアマンであるキース・スターギルが登壇。企業における業務生産性や意思決定に関する変化について、ジェフとキースが意見を交わしました。
「組織が生産性を高めていくことは大事ですが、さらに重要なのは、日々の業務を通じてより深く、幅広くお客様を理解することです。また、ビジネスでは常にさまざまな意思決定が発生しますが、そのスピードと品質を劇的に向上させることが『トランスフォーメーション』であり、主体となるのはテクノロジーやプロセスではなく判断・意思決定です」とキースは話します。一方、ジェフはカスタマーエクスペリエンスの重要性に言及。「デジタル化は間違いなく私たちに大きな影響を与えています。より優れた直接的なエンゲージメントをお客様との間で構築するには、テクノロジーの活用が重要となります」
両者の意見は、テクノロジーがビジネスにおける意思決定のスピード化や品質向上に不可欠としながら、顧客を理解して優れたエクスペリエンスを提供することや、そのエンゲージメントを推進することが主体となるべきだという点で一致しています。また、B2Bの世界においても、予想以上に早く「コンシューマーレベルのエクスペリエンス」への要請が高まっており、これに応えていくことが重要とキースはつけ加えました。

このような潮流の中、ユーザー会の存在意義も高まるとジェフは考えています。「ASUGはSAPと緊密に連携しながら、企業における課題がどこに存在するか、どのように皆と対話すべきか、コミュニティすべての人に有効となるソリューションをどうやって構築すべきか、など議論を重ねています。このようなソリューションの実現は決して容易ではありませんが、SAPは非常にオープンで、開発のフィードバックやユーザーが望む方向へと取り組んでくれています」

また、企業におけるIT部門の位置付けも変化しています。「ITはあくまでもビジネス部門の一部であり、よりイノベーションにフォーカスしたものでなければなりません。テクノロジーのプロ達は、ITよりもビジネスの組織に位置すべき」と語るジェフに対し、キースは、「イノベーションにフォーカスするには、常に実行力を高め、不確実性やリスクが存在する中でも最善の意思決定を素早く行えることが必要です。つまり常に新しいビジネスチャンス、予期しなかったチャンスに対応できることが重要です。大きな課題にこそ大きなチャンスが存在し、それに取り組むことで企業としての変革が可能となります」と応えました。
2人が強調するのは、ビジネスチャンスが目の前にあるということです。「テクノロジーが大きな変革(Hyper Technological Change)を遂げる中、すべてがモバイル化、デジタル化に向かっています。これは全てのテクノロジーリーダーにとって大きなビジネスチャンスです」(ジェフ)

次に話題に上った「シンプル化」では、車(乗用車)の進化を例に、エクスペリエンスの違いが指摘されました。
「現在のデジタル化された車は非常に複雑化する一方、エクスペリエンスは大きく変わり、洗練化されシンプルなものになっています」とキースが語ったように、現在のビジネス環境においても、テクノロジーの進化によって、よりシンプルで洗練されたエクスペリエンスが創造されています。

これらを踏まえて、ジェフはユーザー会の向かうべき姿を語りました。「ASUGは世界最大のテクノロジーコミュニティとして、急速に進化を遂げるデジタル社会について、協力して理解を深めていくべきです。“courageous(勇気をもつこと)”に、リスクを取り、得た知識をコミュニティに持ち寄り、成功も失敗も共有していきましょう」

そしてキースは、次のように締めくくりました。
「イノベーションを起こすための新しいアプローチには、必ずリスクが伴います。リスクなしのイノベーションはあり得ないため、ASUGのようなコミュニティでお互いの成功/失敗経験をシェアしていくことが大切なのです。デジタル化のスピードに追い付くには、優れた意思決定を迅速に行う必要があり、そこには必ず問題やリスクが潜んでいますが、優れた企業には、問題を解決できる社員や組織が存在します。人材の育成にあたっても、組織の中で互いの経験を共有し、助け合うことが大切となります。経験を共有し、そこから利益を得るという、正にASUGの強みが発揮できます」

コメディ女優という仕事:
一見突拍子もないやり取りから、新たな発想や変革が生まれる

講演の冒頭で笑いを誘った女優のレイチェルが再登場し、今度は真剣に語りました。7年間Saturday Night Liveという番組に出演していた当時の過密なスケジュールについて尋ねると、レイチェルは大きなプレッシャーがあったことを明かし、「本番は土曜日でも、毎日俳優やスタッフと深夜までコミュニケーションしながら、1週間かけて準備を進めていた」と振り返ります。エンターテインメントにおいても、一般のビジネスと同様、課題や変化があるのではと尋ねたジェフに対し、レイチェルは次のように述べました。「新たな発想や変革は、一見無意味とも思えるような、仲間やコミュニティ内での突拍子もないやり取りから生まれてきます。重要なのはプロセスであり、仲間との信頼関係です」

Life is Good:
企業とコミュニティは一体。それを守り続けることが成長につながる

Bert and John Jacobs

後半にはジェイコブス兄弟が登場。マサチューセッツ州でTシャツメーカー「Life is Good」を創業し、成功者という立場にある2人ですが、子供時代から始まった話は、決して順風満帆ではありませんでした。
「我々が小学生のとき、両親が大きな交通事故に遭いました。幸い両親は回復し、それをきっかけに考え方や生きる姿勢を変えたのです。毎日、夕食の際には、必ず『今日あった良いこと』を話すように言われました。不思議なことに、それだけで家庭の雰囲気が前向きで素晴らしいものになったのです。ビジネスにおいても、人や時間など限られたリソースの中で、何が悪かったか、何が問題であるのかよりも、何が正しかったのか、良かったのかという点を見つけ、それを成長させることを考える方が賢明です」(バート)
日々のニュースでは明るい話題よりも、事件や問題が報道されがちですが、バートは異なる視点の重要性を指摘します。
「現実的な統計値に目を向けると、世界の貧困状態や子供の死亡率は過去最低に低下する一方、識字率は過去最高を記録するなど、人々がかつてないほど良い環境に暮らしていることが分かります。正に『Life is Good』な状況と言えるでしょう」
大学を卒業した2人は、ボストンで起業しました。最初はビジネスの進め方さえ知らず、あらゆる失敗を経験しましたが、創業から5年で300万ドルのビジネスへと成長します。紆余曲折を経て、2人は物事の見方について1つのポリシーを持つようになりました。「“have to(~しなければならない)”ではなく、“get to(~しよう)”と言います。このようなポジティブな意識を持って物事に向かうことが大切です」(ジョン)

一方、同社の子供達を支援する取り組みが、ブランド力を高め、コミュニティの強化につながっています。
「根本には、『収益の10%を必要な子供達に』という考え方があります。これに賛同するお客様やパートナー、コミュニティが参画してくれます」と語るジョンに続き、「今日のビジネスは、コミュニティを確立することで成り立つと言っても過言ではありません。社員はそれぞれの専門性、例えばグラフィックアートや財務、IT、販売といった専門性を発揮してLife is Goodという企業に貢献することが、子供の命を救うことに直結するという意識を持っています。一度このような考えが根付くと、会社は常に良い方向に向かっていけます」とバートは強調します。

「Life is Good」にとってコミュニティとはどんな存在なのかという点について、バートは次のように語りました。「お客様のコミュニティは、当社と別の組織ではなく、会社の一部として切り離せない存在だと考えています。そして、当社がスマートであるか、競争力のある会社であるかは、お客様にとって重要ではありません。企業のブランディングとは、“Know who you are. Act like it(お客様は我々が何者かを知っている。だからその通りに行動すればよい)”ということだと思います。この考え方を一貫して守り続けることでお客様は企業を信頼するようになります。お客様こそが当社のビジネスを作ってくれる存在なのです」
業績が落ち込んだ時期にはシステムやオペレーション、スタッフを再編したこともありましたが、会社が提供する価値を変えたことはなく、再び成長モードを取り返しています。創立時の1994年に100万ドルだった売上も、2015年には1億ドルに達しました。同社のモットーは「optimism(楽観主義)」となっています。

最後にバートが、「我々はビジネスのために生まれてきたわけではありません。それはあくまでツールであり、我々は自分自身のために生まれてきたことを忘れてはならないのです。そして、今我々が掲げるスローガンは、“Takers eat well, But givers sleep well(与えられた者は食に満足し、与えたものはよい眠りにつくことができる)”です」と、講演を締めくくりました。