No Rating は日本においても「攻めの人事」の武器となりえるのか 第1回
作成者:籔本 レオ 投稿日:2017年6月26日
こんにちは。SAPジャパンの籔本レオです。「守りの人事から攻めの人事へ」というテーマで人事領域に関連するトレンドや考え方を紹介しています。今回のテーマは「No Rating(ノーレイティング)」です。
No Ratingというキーワードは最近人事関連のさまざまなメディアでよく見るようになりました。定義はさまざまありますが、たいていは、好業績企業の導入成功事例とともにパフォーマンスマネジメントのあるべき姿のような形で肯定的に紹介されており、なかには、「今までの人事評価はとにかくダメなものでNo Ratingを導入すべき」、「No Ratingを導入すると従業員のエンゲージメントが高まり会社の業績が向上する」とまで結論づけているものもあり、人事担当者の方からNo Ratingというものをはじめなければいけないものかといった相談を受けることもあります。
No Ratingはパフォーマンスマネジメントのあるべき姿として、どの会社にも、特に日本の会社にも適用できるものなのでしょうか。このような検討をするためのインプットとして、No Ratingの考えが生まれた背景、及び、No Ratingの導入を検討する場合の考慮点について紹介します。
No Ratingの考えが生まれた背景、今までの評価制度に対する課題
No Ratingの考えが生まれた背景には、現行の評価制度及びプロセスについての以下のような課題感がありました。
- 48%の経営者は、自社の評価プロセスは人材育成及び業績向上の点で不十分と感じている(Deloitte調査より)
- 66%の従業員は、評価プロセスは自身の生産性向上につながっておらず煩わしいと感じている(CEB調査より)
- 71%の組織は、評価プロセスは改善、さらには改革が必要であると感じている(Brandon Hall調査より)
人事領域が単なる人員管理の位置づけから、ここ数十年で戦略的な意味をもちはじめ、評価の領域においても、MBO(目標管理)、従業員別パフォーマンス評価、コンピテンシー評価、レーティング(評価記号)による定量評価、評価結果と連動した処遇制度等、といった制度・プロセスが、多くの会社で人事・人材戦略として導入されてきたのですが、ここ数年の考えとしてはこのような制度自体が人材育成、生産性向上のボトルネックになっているというのです。
なぜこのようなことになってしまったのでしょうか。そもそも今までの制度の考え方は間違っていたのでしょうか。
評価制度がうまく機能していない理由
評価制度自体が人材育成、生産性向上のボトルネックとなっている場合、うまく機能していない理由として以下のようなことがあります。
1) 形骸化した評価プロセスのための作業をすることによる生産性低下
”「年度はじめに目標を立てる、半年後、1年後にその達成度を評価する。」という人事が決めたイベントのためだけの目標なので適当にすませたい。
しかし、この目標の達成度が報酬決定のインプットになるので、それっぽいことを書かなくてはならない。。。
良い評価をもらうには1年後にそれなりの達成度になるものがよいだろう。。。
ただし、内容が簡単過ぎてもいけないので、達成できそうな範囲でぎりぎり高めの目標にするとチャレンジングな感じがして良い評価がつきそう。。。
評価のためだけにこんなことを考えて書くのは結構大変だな。しかも5つも。
めんどうだなあ。単なる生産性低下としか思えない。。。”
2) 相対評価、不透明な評価調整によるエンゲージメント低下
”今年は良くがんばった。
数字で見える結果もしっかり出した。
さらに、普段からチームを大切にした行動をこころがけていたことで、上司からは今期の業績だけでなく、行動もすばらしいと絶賛された。
・・・
なのになぜA評価でなくB評価なんだ。
上司は「A評価は1人しか出せず、僅差でB評価になってしまった」と言う。。。
そのよくわからない“僅差”というもので、昇給率に5%も差がでるらしい。
評価結果は今後のプロモーション、人材選抜にも影響するだろう。。。
一気にやる気がなくなってしまった。。。”
3) 口だけのペイ・フォー・パフォーマンス
”A評価だと10%昇給、E評価だと-5%昇給らしい。
これがパフォーマンスに応じて報酬にメリハリをつける「ペイ・フォー・パフォーマンス」という考えか。
ただ、実際は9割以上の人がB評価からD評価の間にいるらしい。A評価は滅多に出ない。
とてもがんばり成果も出してもB評価で3%昇給、何もがんばらずにあまり成果が出なくてもD評価で1%昇給。。。
あまり変わらない。むしろがんばらない方が良いかもしれない。。。
成果を出したらもう少し報われたいな。。。”
4) 思い出せない成果、気分により決まる評価
”1年間を振り返る評価であるのに上司は直近のことしか覚えていない。
といいながら自分でも過去の小さな達成は思い出せない。
もっとうまくできたことあったと思うのになあ。。。
お互い記憶もあいまいなので、直近の成果だけで評価されたり、年功的な要素や上司のその時の気分で評価されていると思われる。。。”
5) パフォーマンス向上につながらないパフォーマンスマネジメント
”目標設定や評価って報酬を決めるためのプロセスでしょ。
上司は年次評価のフィードバックをくれるが、なぜこの評価をつけたのか納得させるための理由づけにしか聞こえない。”
”年次評価時に改善のためのフィードバックはもらえるのはうれしいんだけど、その時々にフィードバックをもらえていればもっと成果を出せていたはず。。。
パフォーマンスを向上させるにはタイミングが遅いよね。。。”
評価制度を作り、運用する人事としてはこのようなことを狙っていたわけではありません。
制度の考え方が間違っているわけではないのですが、考え方が現場に十分伝わっていなかったり、上司・従業員がうまく活用できていなかったことから形骸化していき、制度が機能していないのです。
No Ratingの登場
このような状況を打開すべく、各課題に対して新たな考えがではじめました。
1)形骸化した評価プロセスのための作業をすることによる生産性低下
”目標管理は報酬決定のためだけのイベントではなく、現実的なパフォーマンス向上につながるべきだ。
年次での大きい目標しか立てないから実業務に活用されないのだ。
目標をブレイクダウンして、実業務に紐づくものとすべき。”
2)相対評価、不透明な評価調整によるエンゲージメント低下
”ベルカーブにもとづく評価分布にしたがうと上司も部下も不本意な評価となることがある。
同じくらいのパフォーマンスなのにどちらかにしか良い評価をつけなければいけない場合、理由が不透明な評価調整が行われる場合もある。
部下想いの上司は評価調整会議を見越して、あえて上振れした評価で調整会議に臨んでくるかもしれない。
相対評価をやめて絶対評価の要素を強くすれば部下の納得感も得られるはず。”
3)口だけのペイ・フォー・パフォーマンス
”パフォーマンスに差があるのであれば、ハイパフォーマーに多くの報酬を分配したい。
従業員のパフォーマンスの発揮度を最も知っているのはその上司であるから、上司にそのチームの報酬配分権限を与えてペイ・フォー・パフォーマンスを実践してもらおう。”
4)思い出せない成果、気分により決まる評価
”評価すべき実績は実績を出したその時にしっかり記録が残るようにしよう。
そして、それらを上司・部下でしっかり共有しておこう。
そうすることで、ふりかえりの時に上司・部下共通認識のもとで偏りのないふりかえりをすることができる。”
5)パフォーマンス向上につながらないパフォーマンスマネジメント
”パフォーマンスを高めるために上司がフィードバックしてくれるのであれば、年次で過去の終わったことをふりかえるより、その業務・プロジェクトに取り組んでいる時に、より良い成果を出すためのフィードバックがあるべき。
さらに、終わったことに対するできたことや改善点のフィードバックだけではなく、今取り組んでいることがより良い結果となるようなことにも焦点をあてて対話すべき。”
上記のような考え方を集めてできたものがいわゆる「No Rating」です。取り組んでいる会社によって、課題認識、考え方に多少の違いはありますが、大きい考え方としては、
- 目標設定の粒度を小さくし、業務との整合性をとりやすくする
- 上司・部下の対話の機会を頻繁につくり、その中でフィードバック、コーチングを行う(対話ログもとる)
- 年次評価でのベルカーブにもとづくレーティングを廃止する
- ボーナス、昇給、昇格等の処遇についてマネージャによる裁量を拡大する
といったような内容です。
第1回では「No Rating」の考えが生まれた背景について紹介させていただきました。
次回は「No Rating」の導入を検討する場合の考慮点について紹介予定です。
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