No Rating は日本においても「攻めの人事」の武器となりえるのか 第2回


こんにちは。SAPジャパンの籔本レオです。「守りの人事から攻めの人事へ」というテーマで人事領域に関連するトレンドや考え方を紹介しています。今回のテーマは「No Rating(ノーレイティング)」です。
第1回ではNo Ratingの考えが生まれた背景について紹介させていただきました。第2回ではNo Ratingの導入を検討する場合の考慮点について紹介します。

(第1回はこちら)

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「いきなりNo Rating」の前に・・

”攻めている”人事はタレントマネジメントに対する関心が強く、人事トレンド、他社事例等の情報収集をしっかりしている半面、理論的なあるべき姿から現場の課題や従業員の想いをつくりあげてしまうこともあります。現状にとらわれずに理想的な姿を描くことは重要ですが、そのあるべき姿に向かうためには、”人事による想定”ではなく”事実”としての現状を見てギャップを把握することも重要です。
以下ではNo Ratingの考え方の特徴ごとに導入検討時の考慮点を紹介します。

 

業務と整合のとれた目標設定

目標の粒度を小さくして業務と整合性をとるということは、日々の業務をただ並べるということではありません。会社の戦略、方向性と整合がとれている前提で、組織及び個人がすべきことを日々の業務目標におとす必要があります。短期的なタスクが重視される場合もあれば、中長期を見据える必要があるかもしれません。
日本では職務定義(ジョブディスクリプション)が明確に存在しない会社が多いため、「日々従事していること=自身の職務の役割」という意識となり、本来自身がすべき・自身に求められる役割が何なのかということに意識が向いていない方も多いと思います。本取組において必ずしも職務定義が必要ではありませんが、その場合は上司が組織のあるべき姿を理解した上で、適切な目標設定のサポートをしてあげることが重要です。

 

頻度の高い上司・部下の対話

”部下は目の前に座っている。毎日会っているし話もしている。”
 ”頻度高いコミュニケーションが良いということは、現在月報を出してもらっているものを日報にすれば良いのかな。”

単なる報告、指示、会話はNo Ratingの考え方における「対話」とは異なります。部下は自身の担当業務の状況をただ報告するだけでなく、その中で達成できていること、上司のサポート・アドバイスがほしいことなどを共有・相談します。上司は報告を受け、一方的な指示を出すだけでなく、対話を通じて達成していることを認め、また、改善すべきこと、さらにパフォーマンスを高められることをフィードバックします。必要に応じて目標を見直します。さらに、対話のログを残しておくことで後からふりかえることもできます。
月報や日報も上記のような目的で運用されていれば問題ありませんが、業務における責任・権限は上司にあり、部下は上司からの指示を忠実に遂行し報告しさえすればよい、というマネジメントスタイルでは、単なる指示・報告ツールとなってしまっているかもしれません。

このような「上司・部下の高頻度の対話により継続的に成果を出し、パフォーマンスを高めていく」というプロセスを「Continuous Performance Management(継続的パフォーマンス管理)」という呼び方で、No Ratingから切り出して導入するケースもあります。

 

CPM concept

Continuous Performance Management (継続的パフォーマンス管理)のコンセプト

 

CPM annual

継続的パフォーマンス管理と組み合わせた年間スケジュールイメージ

 

上司・部下の対話はどこまで強制すべきか

上記のような考え方が社内に伝わり自然に対話される文化が醸成されることが望ましいですが、現場で根付かせるのは簡単ではありません。そのため、「最低四半期に1回」、「月に1回」のように対話の頻度をガイドし、特定のツール、フォーム等で対応の記録を残すようなルール化をすることで、定着化を促進させることもできます。
一方、上司・部下の自主的な対話が望ましい取組に対してルール化することは「やらされ感」につながるという考えもあります。性善説であるべきか性悪説であるべきか、どのくらい強制力を働かせるべきかという判断は難しいのですが、従業員の自発的な取組意識の高さに合わせてバランスを取ったものにすることが望ましいです。例えば、従業員が自立的にパフォーマンスを高める文化が根付いていないようであれば、ある程度ルール化しておくことをおすすめします。そして、形骸化させないために、本取組の考え方のマネージャ・従業員教育や、制度に合わせた運用をすることによる従業員にとってのプラス効果をわかりやすくしておくことも重要です。
また、ある程度強制力をもって始めた取組みであってもだんだん定着が進み、ルールがなくなっても自然に運用が回るのが望ましい姿ではありますが、定着化した姿が単なるイベント化してしまうと、今までの目標管理・評価制度、月報、日報がうまくいっていない状態と変わりません。このような状態とならないために、制度導入後も定着状況、従業員の意識、パフォーマンスの変化等をモニタリングし導入効果を確認することが重要です。

 

相対評価、レーティングの廃止

ベルカーブにもとづく相対評価、評価調整会議での順位づけと複数段階にグループ分けしたレーティングは、評価者による評価の偏りを抑え、組織横断でのハイパフォーマーの見極めや、ボーナス、昇給原資の適性配分に役立ちます。相対評価、レーティングを廃止するということは上記の仕組みがなくなり、レーティングのようなグループ分けをしない、より細かいパフォーマンスの差異を絶対評価で表現するということになります。
自社のすべてのマネージャは部下の人材マネジメントができており適切な評価をする十分なスキルがあるといえるでしょうか。また、仮にマネージャが自身の部下を全員ハイパフォーマー、全員ローパフォーマーといった極端な評価をした場合に、マネージャが適切に評価したものとして、その結果を信じ認めることができますでしょうか。レーティング廃止の検討においては、マネージャの人材マネジメントスキルの高さ、会社・人事がどのくらい現場マネージャに判断をまかせられるのかということもポイントとなってきます。

また、ピープルアナリティクスという言葉がトレンドになってきていますが、ハイパフォーマー分析をする時に使いやすいデータの1つが評価のレーティングです。管理組織の業績、プロモーションの速さ、関係者によるノミネート等、その他にもハイパフォーマーを識別する要素はありますが、データ分析視点で定量的な指標の要否の検討も必要です。

 

報酬制度とのつながり

パフォーマンスマネジメントはパフォーマンスを高めるための取組といっても、現実的に評価制度、報酬制度と切り離すことは困難です。報酬制度とつながる以上、何かしらの評価にもとづき報酬決定をしていく必要があります。一方、報酬は人件費であることから無制限に配分できるものではなく、予算化された報酬原資をもとに配分されます。仮に全員がハイパフォーマーとしての評価をされた場合、全員に最高の処遇ができるような報酬原資をもてますでしょうか。報酬原資に対して評価が上振れすると、評価に対する処遇が、相対評価による高評価に比べ低くなり、衛生要因である報酬にネガティブな印象を与えるリスクがあります。
従業員を会社の財産であるとして「人財」という当て字が使われることも多いですが、すべての従業員は「人財」であっても、そのすべてがハイパフォーマーとはかぎりません。全従業員が同一パフォーマンス、または、会社・組織として見るため個人のパフォーマンスは(良い意味で)一切考慮しないということであれば、個人評価の要素を完全に廃止して、全員一律昇給、同一職務同一賃金のような考えを導入してもよいかもしれません。ただし、多くの会社では「すべての人財はハイパフォーマー」とまでは言えず、従業員としても「成果を出した分良い評価をされたい」という意識はありますので、評価に差をつける、バランスをとるということは簡単に捨てることはできません。

 

マネージャの裁量

No Ratingが有効だとする前提の1つに、マネージャが部下に対する人事管理権限をもっているということがあります。一方、多くの日本企業では、マネージャの部下に対する人事管理権限は強くありません。自身の組織のヘッドカウント(要員数)に空きがあるからといって、独断で外部採用を進めることは困難であったり、「定期異動」というイベントがあるように、自身の組織のメンバをマネージャの思いどおりに出し入れすることが許されていない場合が多いと思います。そのような状況で、相対評価やレーティングのようなガイドのない報酬決定権限を与えることはできますでしょうか。
また、権限委譲したとして、レーティングのようなガイドがない状態で評価内容や報酬決定理由をマネージャは適切に説明できるでしょうか。部下は上司の説明にすんなり納得するでしょうか。場合によっては、上司による部下へのフィードバックの難易度を高くし、部下の評価結果の妥当性を低下させるという逆効果のリスクもあります。

 

評価制度を見直すべきか

人事トレンドの安易な導入は失敗リスクがあることから上記のような考慮点を紹介させていただきましたが、No Ratingのような新しいトレンドの導入を踏みとどめさせようとしているわけではありません。むしろ、このようなトレンドは、現在の自社の人材について、現在の制度の有効性について改めて考える良い機会になると考えています。そして、自社に必要な部分、不要な部分を見極め施策におとしていくことで有効に機能していくはずです。
例えば、報酬制度見直しやマネージャへの人事管理権限の移譲が困難、または実行するにしても数年かかってしまう場合は、レーティング廃止だけをしてしまうとただ従業員を混乱させるだけになるリスクがありますので、日々のパフォーマンスマネジメントと報酬管理につながる年次評価(レーティング)と切り離して、比較的導入障壁の低い対話の考え方のみ導入し、上司による部下のパフォーマンス向上を促進させる取組をはじめてみるということができます。また、従業員による自発的な対話の文化は浸透しているけれども、上司が忙しく1on1の時間がほとんどとれないということが課題なのであれば、日々の活動ログの蓄積やモバイル端末でのコミュニケーション対応といったツール提供による取組活性化もできます。

 

以上、2回にわたってNo Ratingの考えが生まれた背景、及び、No Ratingの導入を検討する場合の考慮点について紹介させていただきました。いかがでしょうか。「守りの人事から攻めの人事へ」変わる参考となれば幸いです。

 

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