なぜSAP S/4HANA ? ~SAPの最新インメモリー技術が支える新世代ERPの秘密~
作成者:新井 智 投稿日:2017年8月28日
「常にデータベースのレスポンスタイムがゼロだと仮定したら、ERPシステムはどのようになるだろうか?」

ハッソが私費を投じたHasso Plattner Instituteでは多くの学生が最新テクノロジーを学んでいる
これは、今から11年前の2006年にSAPの創業者で現在ポツダム大学教授のハッソ・プラットナーが、自らの研究室のPhD候補生たちに与えた研究課題です。まさにSAP HANAが誕生するきっかけは、このシンプルかつ不可解な問いかけから始まりました。
その後、この研究に対してSAPが全面的なサポートを行い、マルチコア・テクノロジーによる飛躍を考えていたIntel社の強力な支援も受け本格的な研究が始まりました。この恵まれた環境の中、まったくの白紙からデザイン・シンキングを繰り返した結果、最新のIT技術を前提とした「まったく新しいデータベース・アーキテクチャ」が考え出されました。
(主要な研究成果は技術論文として2009年のSIGMODカンファレンスでハッソ自身から発表されています)
そのアーキテクチャにはITの未来が描かれていましたが、膨大な投資が伴うビジネス化には多くの難題がありました。しかし、SAPは多くの議論の末にこのまったく新しいデータベースの開発を決めHANAと命名します。そして2010年、待望のSAP HANA V1.0 SPS00 が正式リリースされたのです。
この時、新たなSAPの成長の歴史が始まりました。そして7年目となった現在、幸いにもSAP HANAをご採用いただいた企業数は10,000社を超えており、業務変革を実現するエンタープライズ基盤としてご好評をいただいています。
それでは、SAP HANAは何が革新的で、何を変えたのでしょうか?
今一度、その革新的な特徴をおさらいしてみましょう。
◇年々進化するマルチコアCPUのパワーを使い尽くす柔軟性の高い超並列処理技術の採用
◇64Bitアドレスによって実現された広大な(テラバイト以上)メモリー空間にすべての実データを格納するインメモリー処理技術の開発
◇超高速なCPUキャッシュメモリーを最大限活用し、メモリーアクセス以上の超高速処理を実現
◇研究成果から確信したカラム(行)型のデータ格納方式の採用と、それによって実現した高効率データ圧縮技術の採用
◇データの2重持ちや事前集計処理、データマートを排除し、必要な時に最新データの即時分析を可能とする超高速OLAPエンジンを開発
これらのテクノロジーを組み合わせたSAP HANAによって、従来型ディスクベースのデータベースとは段違いの処理性能を発揮することができ、業務的観点からみると「バッチ業務の大幅な短縮や削減」、「高負荷な検索、分析処理の高速化」といった利点から業務プロセスの見直しなど、ビジネスの自由度を広げることができるのです。
一方で、SAP HANAの製品化に関しては、SAPの開発チームはもう一つの大きな決断をしています。それは、顧客の利便性と移行性を約束するための旧来標準技術の採用です。
◆標準SQL、R言語対応等で過去の情報資産継承と技術者への利便性を実現
◆Java、.NET開発基盤やODBC、JDBC、HTML5という接続技術を採用することで、開発者やツール提供者に配慮
内部的にはこれまでの基盤技術とは全く違うアーキテクチャを持ちながら、過去のデータ資産との継承性を十分に確保することで、既存ERPシステムからSAP S/4HANAへの確実なマイグレーションや他社データベースシステムからの安全な移行性を確保したのです。
また、開発生産性を高めシンプルなシステム構成が取れるように、様々なデータ処理機能をSAP HANA内部に実装することを決めました。これまでのITシステムのように機能ごとにサーバーが増えてしまうような事態を避け、シンプルなシステム構成がとれるようにしています。データを中心としたAll in Oneの思想です。
(現在、SAP HANAはその内部機能の豊富さから、HANA Databaseではなく広義にHANA Platformと呼ばれることが多くなっています)
さて、この革新性と継続性をバランスよく実装したSAP HANA Platformをデータ基盤のエンジンとして開発された新世代ERPのSAP S/4HANA (以下S/4HANA)は業務をどう変えて、どのようにお客様のビジネスに貢献できるのでしょうか?
まずは、SAP HANAによる恩恵についてわかりやすい2つの事例を示します。
①ERPアプリケーションのシンプル化
こちらの事例をご説明すると多くのお客様から「本当にこんなシンプルなテーブル設計でこれまでの機能が実現できるのか?」とご質問を頂きます。
もちろん、実際にS/4HANAはこの通りのテーブル設計で実装されていますので、答えはYESです。これでお分かりのように、これまではデータベース基盤のパフォーマンス制約から本来であればいつ使うかわからない分析用途のテーブルを作成し、事前の集計作業をしていました。しかし、SAP HANAを前提とすれば「最新データの即時分析を可能とする超高速OLAPエンジン」が利用可能となり瞬時に集計が可能なため、ここまでシンプル(実テーブルが3つ)になるのです。この例は在庫管理の事例ですがS/4HANAではすべての機能について同様の再設計が行われています。この再設計によって、ERPの内部ロジックも驚くほどシンプルに実装可能となり開発品質、スピードともに向上させることが可能となりました。
②ERP運用管理コストの低減、TCOの低減
もう一つ、重要な側面として運用管理コストの低減があげられます。ビジネスの要となるERPシステムのTCO削減はIT業務の中でも注目されがちですが、従来は複雑なシステム間連携やシステム自体の大きさから、なかなか難しい課題でもありました。
S/4HANAでは、前述のテーブル設計の見直しに加えて、検索速度を向上させるために必要であった多数の索引を大幅に削減していることもありディスクストレージの必要サイズも劇的に削減することが可能となっています。検索目的のサーバーにデータを複製する必要も多くの場合不要となるため、データ複製作業なども不要となり、ITの運用管理がシンプルになります。
前述のハッソ・プラットナーは、SAP HANAによってもたらされる革新的な変化について著書の中でこう述べています。
「私たちは処理速度こそがインテリジェンスの必須条件と信じており、私たちのアプリケーションをさらにインテリジェントにしたいと考えている。大量データの単純な自動処理ではなく、大量データの裏に隠れた事実に迫り、短中期の動向を予測し、可能であればヒントをもらい、その上でリアルタイムパートナーとなるようなシステムを構築しようとしているのだ。…」
※近著:The In-Memory Revolutionより
つまり、従来型ERPでは、全社的なビジネス状況を整合させ、その情報(過去の実績中心)分析するまでを実現していたとすると、S/4HANAでは伝票単位にまで遡れる即時分析機能、内包した機械学習機能による将来の予測分析の実現、劇的なデータ処理性能の向上により「リアルタイム型経営パートナーシステム」とすることを目指していこうとしているのです。
この目標を実現した一例としてはS/4HANAによる経営会議の変革などが理解しやすいと思います。
S/4HANAを導入することで経営会議が、過去のレポートによる業績確認の場から、リアルタイムデータをもとに将来の戦略を決定する場へと変貌するということです。これを実現したソリューションは、S/4HANA「Digital Board Room」として既に製品化され提供されています。
今回は、SAP S/4HANAの裏方を支えるSAP HANAの革新性に焦点を当ててご説明いたしましたが、SAP HANA Platformの持つ様々な機能はまだまだこれから本格的にERPへ採用される状況であり、これからも革新的な機能がSAP S/4HANAに実装されていきます。
SAP S/4HANAの今後の成長に、ぜひご注目いただければ幸いです。
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