元JSUG会長に聞く、真のデジタルトランスフォーメーションに向けて企業トップが先頭に立った取り組みを


2017年8月2~4日、東京・グランドプリンスホテル新高輪においてSAP SELECT、SAP Ariba Network Live、JSUG FOCUS 2017、SAP Forum Tokyoという一連のSAPカンファレンスが開催されました。加速するデジタルトランスフォーメーションのなかで、「今こそ、日本がふたたび世界をリードする存在に」というテーマが問われた今回のイベントの意義について、元ジャパンSAPユーザーグループ(JSUG)会長で、現在は慶應義塾大学フォトニクス・リサーチ・インスティテュートの研究支援アドバイザーとして活躍されている都築正行氏に伺いました。

日本企業は気づきから実践へと成長

3日間を通じて参加した都築氏はまず、さまざまな業種・業態のビジネスパーソンにSAPイベントの価値が強く認識されるようになってきたことを指摘します。参加者数は毎年右肩上がりで増えており、3年目となった今回は、とりわけ経営者向けのSAP SELECTにおいて参加者数の伸びがめざましく(約900名:初回のおよそ3倍)、国内企業の経営トップにセミナーの価値が確実に浸透しつつあることを物語っています。

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また、今年の各セッションや展示会場も含めたイベント全体の印象については、「過去3年間の成果を踏まえて、さらに一歩前進した」と評価。同氏はこれまでも、デジタルトランスフォーメーションや第4次産業革命、そしてIoTといった新たな潮流への対応には、オープンイノベーションやダイバーシティの実現に向けて「こだわり」と「割り切り」を断行する変革が不可欠であること、その実現には経営トップが先頭に立つ必要があると主張してきました。

これまでは、変革の必要性にいかに気づくかが、最大の課題でした。しかし今回の各セッションでは、そうした意識が多くの経営トップに根付き、自社の成長戦略にもとづく具体的な施策やノウハウが数多く報告されたといいます。デジタルトランスフォーメーションの実践フェーズに入っている企業の事例紹介も多数見られ、参加者にとっては有用なメッセージやアドバイス、そして多くのヒントを得られる貴重な機会だったと都築氏は振り返ります。

さまざまなSAP製品やソリューションを活用するユーザー企業の取り組みをさらに後押しするには、SAPからのサポートも重要となります。そのため、SAPやパートナー企業も技術面やサービスの提案にとどまらず、ユーザー企業が直面する課題を的確に理解し、その最適解となるソリューションを形にして、ユーザーの自立を促す体制を整えていくべきと都築氏は提言します。日本企業が「自分でテクノロジーを活用する仕組み」をリードしていけるよう、営業とコンサルタントの連携が重要と語る都築氏の言葉には、SAPの米国拠点も含めた教育システム、層の厚い人材活用に対する熱い期待がうかがえます。

注目と期待を集めたSAP Leonardo

今年ひときわ参加者の注目を集めていたのは、やはりSAP Leonardoです。特に2017年5月のSAPPHIRE NOW、7月のドイツ・フランクフルトでのSAP Leonardo Liveで発表された、IoT対応やマシンラーニング(機械学習)、ブロックチェーン、ビッグデータ、アナリティクスなどを連携する新しいソリューション群は、第4次産業革命に向けた取り組みを強力に加速するものとなります。

元ジャパンSAPユーザーグループ(JSUG)会長 都築正行 氏

SAP Leonardo関連のセッションにはほぼすべて足を運んだと語る都築氏は、SAP Leonardoが企業に必要なコアテクノロジーを網羅しているだけではない点に着目。「パッケージソリューションで迅速に立ち上げる」と「SAPをパートナーとしてカスタム開発する」という異なる2つのアプローチを、ユーザー企業の戦略や立ち位置に応じて選択できるため、ビジネスニーズを優先した最適なシステム導入が可能になると期待を寄せます。加えてSAP Leonardoソリューションは、SAP Cloud Platformをはじめ、AWS、Google Cloud Platform、Microsoft Azureといった主要なクラウドプラットフォームに対応している点も、多くの企業にとって利便性が高いと評価しています。

また3日間を通して、SAPが提唱してきたデザインシンキングの手法を取り入れたイノベーション事例も多数報告されました。なかでもパネルディスカッション「企業におけるイノベーションの起こし方」でTOTO株式会社の林良祐氏が紹介した次世代トイレのフラッグシップモデルは、デザインシンキングから生まれたアイデアが次世代を担う新製品に結実した好例として、都築氏の印象に残っています。この製品は、従来の概念を打ち破る美術品のようなデザイン、最新のエレクトロニクスと伝統の製陶技術を融合させた機能美といったコンセプトのもとで開発されました。プロジェクトの責任者であった林氏は、開発にあたる社員が、これまでになかった最高級品を創るという「ワクワクした気持ち」を抱けるよう指導/支援したといいます。このように人間を起点としたアプローチをもとに、まったく新しい価値を生み出した点は、まさにデザインシンキングの成果といえるものです。

再び世界をリードする日本を目指して

今回のイベントを通じてSAPが提起した、「日本が世界をふたたびリードする存在になるためには」という問いに対しても、多くの企業がさまざまな取り組みを進めており、都築氏は経営トップの先見的なグローバル認識に非常に感心したといいます。企業20社のCEOが一同に会した「CEOラウンドテーブル」においても、さまざまな意見が交わされました。人口減少が進み、国内需要の大きな伸びが期待できないなか、多くの日本企業がグローバル化、海外展開に注力しています。その過程で課題となるのがグローバルシステム統合ですが、ラウンドテーブルに参加された企業のほとんどがすでにシステム統合に着手している状況です。

SAP SELECTで紹介された資生堂のグローバルマーケティング改革も注目を集めました。2014年に同社で初めて外部から就任した魚谷雅彦社長のリーダーシップのもと、地域本社制を導入し、世界88カ国の拠点管理を各地域本社に移行。その地域エリアに精通した人材をトップに登用してビジネスの意思決定を委任し、東京本社は計数面から地域の状況を把握するほか、最終的な経営判断を魚谷社長が行う仕組みが構築されています。現場社員との積極的なコミュニケーションから始めて業績を改善し、地域本社主導によるスタートアップのM&A、ダイバーシティ推進など、地についたグローバル化をわずか3年ほどで進展させた魚谷氏の手腕に、都築氏は大きな感銘を受けたといいます。

最後に都築氏は、SAPユーザーが主体となって運営するユーザーコミュニティであるJSUGに向けた提言として、今後はIT担当者だけにとどまらず、経営層や業務部門も含めた、幅広い参加が望ましいと示唆します。プロジェクトの成功や失敗を共有し、より良いSAPシステム開発や活用に貢献するというJSUGのコンセプトは揺らぐことなく、会員数も着実に増えてきています。その一方で、AIやIoTといったテクノロジーの進化にIT部門だけで対応することには限界もあるため、より経営や業務の視点からの意見を取り入れたシステム構築が必須となるためです。

「SAP SELECTのように、経営トップの情報交換・交流の場も育ちつつあります。今後は、SAPとJSUGの双方が協力して、経営層、情報システム、業務部門が相互に連携できる場作りの可能性を探ってほしいと願っています。元ジャパンSAPユーザーグループ(JSUG)会長 都築正行 氏ビジネスに関わるあらゆる立場、階層の人々が一丸となって、デジタルトランスフォーメーションに取り組んでいくことが、日本が世界をふたたびリードする存在となる原動力になることは間違いありません」と都築氏は語り、人口減少社会に直面する日本にとって今こそ、テクノロジーを活用して「人を豊かにする」ためのビジネス改革のチャンスであると強調しました。

■略歴

都築正行(つづき・まさゆき)
コムチュア株式会社 取締役。慶應義塾大学フォトニクス・リサーチ・インスティテュート研究支援アドバイザー。名古屋大学を卒業後、1971年に三菱商事に入社。基幹システム開発室長、経営企画部 情報化担当部長、CIO補佐などを歴任。2004年からの4年間はJSUG会長を務め、SAPに対するJSUGのインフルエンス強化に貢献した。三菱商事を退職後は、JFEシステムズ株式会社の社外取締役、コムチュアの社外取締役のほか、慶應義塾大学 フォトニクス・リサーチ・インスティテュートの研究支援統括者を務めるなど、産学の視点から日本経済の発展に寄与する活動を精力的に続けている。