SAPが提供する予知保全ソリューション 「SAP Predictive Maintenance and Service」の中身とは?


◆ そもそも予知保全とは?

メディアなどでIoTが注目されるなか、キーワードの一つとして頻繁に取り上げられるものとして「予知保全」という言葉があります。予知保全とは、設備の定期的な監視と診断を行い、各部品の劣化状態を予測し、計画的なメンテナンスを必要に応じて行うことで、設備の故障を未然に防ぐことにあります。本ブログでは、IoTにおけるこの予知保全の実現を支援するSAPソリューション「SAP Predictive Maintenance and Service」の具体的な中身について紹介していきます。

◆ SAP Predictive Maintenance and Service (PdMS)とは?

SAP Predictive Maintenance and Service(以下、PdMS)は、下記の図が示す通り大きく分けて「Analysis Tools Catalog」と「Machine Learning Engine」の2つのコンポーネントと、それを下支えするSAP HANAを中心としたIoT支援ソリューション群「SAP Leonardo IoT」で構成されています。各種設備に設置されたセンサーデバイスから得られるマシーンデータと関連業務より発生するビジネスデータを「SAP Leonardo IoT」を利用して、データのリアルタイム処理を実現させてくれるSAP HANAデータベースへ送ります。そして、データサイエンティストが各種機械学習エンジンを駆使することで、設備の劣化状況を予測し、設備管理者がその予測結果をもとに設備の状態を監視・分析することでメンテナンスの業務の高度化と効率化へとつなげてゆく流れになっています。今回は、設備の状態監視を支援する「Analysis Tools Catalog」とその故障を機械学習などのテクノロジーで予測する「Machine Learning Engine」の詳細部分に関して解説します。

PdMS_On-premise_Overview

1. Analysis Tools Catalog – 分析ツール群

設備管理者の設備状態の監視・分析を支援するツールとして、PdMSでは下記図が示す通り各種機能群を提供しています。ここでは、その中の主要機能をピックアップして解説していきます。

Analysis_Tools_Catalog

1.1 Equipment List

PdMSでは、「Analysis Tools Catalog」の分析ツールの一つとして設備の状態を部品ごとに監視する「Equipment List」と呼ばれる機能を提供しています。下記はそのスクリーンイメージになります。ここではポンプ(Pump 00554)を例に、その構成要素であるコンポーネント(Foundation, Baseplate, Casingなど)をツリー形式でドリルダウンしています。また、各コンポーネントに備え付けられているセンサーデータから機械学習を駆使して算出された機器の劣化状態をHealth Stateという数値で表現し、視覚的に分かりやすいようにHealth Stateの数値に対応する色をそれぞれ緑、オレンジ、赤で表現しています。また、下層コンポーネントにHeath Stateの数値の低いものがある場合は、上層のポンプのHeath Stateも低く表示されています。こうすることにより、ポンプの劣化状態を把握するだけでなく、そのどのコンポーネントに異常が発生しているのか即座に判断することができます。

Equipment_List

1.2 2D Chart

前述のEquipment Listによって劣化が進んでいるポンプの状態をもう少し詳しく分析するために、2D Chartと呼ばれる機能を使います。ここでは、ポンプに設置されている各種センサーの値を時系列で詳しく見ることができます。先ほどのHeath Stateはこれらセンサーの値から機械学習などのアルゴリズムを使って現場のポンプの劣化状態を予測していますが、この2D Chartを使うことで実際のセンサーの値がどうなっているのかを確認することができます。この場合はポンプですが、各設備に関して知見のある専門家がこのセンサーのトレンドを見ることで、実際に何が起きていそうなのかをHeath Stateの数値と合わせて分析し、故障するリスクが高いのかを総合的に判断することができます。

2D_Chart

1.3 Map

どのポンプに劣化が進んでいるのかを確認するだけでなく、劣化が進行しているポンプがどこにあり、どの地域に劣化進捗の早いポンプが集中しているのかなどを把握する必要があります。このようなポンプの地理的な情報を確認するために、PdMSでは地図機能を提供しています。

Map_Analysis

1.4 Work Activities

劣化が進行しているポンプとその場所を特定した後に、故障が発生しそうなポンプに対して適切にメンテナンスを実施する必要があります。そこで、バックエンドでサービスリソースのスケジューリングや管理を支援するSAP MRSなどのソリューションとつなげることで、メンテナンスが必要なポンプに対して適切な技能を持った作業員をアサインしその作業をスケジューリングすることができます。そして、それぞれのポンプに関しての作業状態のステータスを管理することができます。

Work_Activities

このように、設備に設置されたセンターデータから設備の故障の予兆を検知し、作業指示を出してメンテナンスを実行することで、未然に故障や予期せぬ事故を防ぐだけでなくメンテナンスの作業全体の効率化を実現できます。

2. Machine Learning Engine – 予知保全を実現する機械学習エンジン

ここで、PdMSが提供する予知保全を実現する機械学習エンジンについて詳しく説明していきます。PdMSには、あらかじめ予知保全に有用な下記アルゴリズ6つを用意しています。機械学習には一般的に大きく分けて2つのカテゴリーが存在します。一つは「教師あり学習」と呼ばれるものです。例えば、機械の故障を判定するような予測モデルを構築する場合を考えてみてください。教師あり学習の場合、故障している機械を示すフラグをデータに付けることで、故障が起こった機械の状態とそうでない状態をデータから学習します。しかし、必ずしもそういった「故障フラグ」が十分取得できるとは限りません。例えば、故障自体がなかなか発生しない場合や故障自体が起きてしまうと重大な損害を被るためにそういったデータがそもそもないといった場合です。そういった「故障フラグ」がない場合に有用なのが「教師なし学習」型のアルゴリズになります。この中で「Earth Mover’s Distance」と「Principle Component Analysis」の2つをピックアップし具体的に説明します。

  • Support Vector Machine (SVM)
  • Tree Ensemble Classifier (TEC) *XGboostを使用
  • Earth Mover’s Distance (EMD)
  • Principle Component Analysis (PCA)
  • Multivariate Auto Regression (MAR)
  • Remaining Useful Life (RUL) *ワイブル分布を使用

青色:教師あり学習アルゴリズ、緑色:教師なし学習アルゴリズ

2.1 Earth Mover’s Distance

Earth Mover’s Distanceとは統計分布Aがあったときに、その分布Aを別の分布Bにするための最短距離を数値で示したものです。言い換えるならば、分布Aと分布Bの統計的な距離を表していると解釈できます。例えば、下記の図が示す通り、ある時刻Aにおける電流のヒストグラム(分布A)と別時刻Bにおけるヒストグラム(分布B)があったと仮定します。そのとき、分布AをBと同じ分布にするには、合計4つのブロックを下記のように移動する必要があります。また、最下部のブロックは残りの3つのブロックとは違い8マス分左に移動する必要があります。この場合、Earth Mover’s Distance E(A, B)は

E(A, B) = (各移動ブロック×移動距離)の合計 = 1・8 + 3・1 = 11

となります。従って、時刻Aにおける電流と時刻Bにおける電流分布の違いは11ということになります。このEarth Mover’s Distanceを用いることで、異常時における統計分布の乱れや劣化によるセンサーデータの分布の乱れを計測することで故障をある程度予測することができます。

Earth_Moving_Distance

2.2 Principle Component Analysis

次にPrinciple Component Analysis(主成分分析)を用いた異常検知の方法について下記の図を利用して説明します。

  1. まず、センサーから集められた学習データ(ここでは青色)と新規データ(ここでは赤色)を準備します。
  2. 直行変換を用いて、複数ある座標軸を、主成分とよばれる最も相関の少ない変数に座標変換します。ここでは、青色の学習データポイントの散らばっている方向に座標軸を合わせていくようなイメージです。
  3. 次に、主成分1(ここではPC1)に対してデータを投射します。
  4. 主成分における学習データと新規データのそれぞれの平均をとり、その2つの平均との距離を新規データの異常度として指定します。

このように、PCAを用いることで故障ラベルの有無に関わらず、センサーデータの異常を定量的に測定し、検知・予測していくことが可能になってきます。

PCA

2.3 その他のアルゴリズム

その他のアルゴリズムに関して簡単ではありますが、メリットを記載しておきます。

  • Tree Ensemble Classifier (TEC)センサーデータはあるが、故障がめったに発生しないために故障データが少ない場合などに有効な手法になっています。
  • Remaining Useful Life (RUL)センサーデータなどの学習データがなく、一部の故障の有無を示すデータしかない場合に使える統計的手法になります。しかし、データが統計分布に従っている必要があるため、必ずしも有効といえるわけではありません。

上記に記載したアルゴリズム以外にもR言語を用いることで、そのままカスタムのアルゴリズムをPdMSに組み込むことが可能となっています。また、SAP HANAデータベースの中にはインメモリーデータベースに最適化された形の各種アルゴリズムや統計関数が90以上用意されているので、それらも利用することが可能になっています。

2.4 予測モデルの管理

機械学習を用いたいくつかの異常検知や予測モデルの手法について解説してきましたが、様々な機器の故障予測を行っていると予測モデルの管理・再学習・スコアリングが問題になってきます。しかし、PdMSでは、構築された予測モデルのバージョン管理、学習や再学習のスケジューリング、スコアリングの設定をする機能を提供しています。

Model_Management

◆ まとめ

これまで見ていただいたように、PdMSは設備の状態を監視・分析しメンテナンス作業のステータスを確認する設備管理者向けツール「Analysis Tools Catalog」と機械学習などを駆使し予知保全を可能にする「Machine Learning Engine」の2つで主に構成されています。当然、予知保全をフルスコープで実現するには、本ブログでご紹介した機能だけでなく、センサーデータの取り込みやエッジの部分を実現する「SAP Leonardo IoT」、そしてセンサーデータのリアルタイム処理を実現するSAP HANAの機能を利用していく必要があります。これらを組み合わせることで、予知保全がEnd-to-Endで実現されてきます。IoTにおける予知保全の取り組みはまだまだ発展途上ではありますが、今後実用化がいっそうすすむ領域かと思われますので、注目していきたいところです。

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