「攻めの採用」への転換 – セミナー講演内容レポート


2017年7月13日、リンクトイン・ジャパン株式会社とSAP ジャパン株式会社の共催で、「攻めの採用」への転換 ~世界中から優秀な人材を集めるデジタルアプローチ~、と銘打たれたセミナーが開催され、株式会社資生堂 ピープルマネジメント室 室長 田村氏にご登壇頂きました。今回は、当日の講演内容を振り返ります。

資生堂が目指す姿と人事の取組み

特別講演としてご登壇頂いた田村 浩之氏からは、資生堂が目指す姿とグローバル人事の施策および背景が紹介されました。

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取組みのきっかけとして、Vision 2020 という中期経営計画の策定がありました。145年の歴史の 中で、イノベーティブな価値や取り組みを世に送りだされてきた資生堂ですが、昨今そういった 風土が薄れていっている危機感を持っており、「世界中のお客さま、社会から支持され、必要とされる会社へ」という中期経営計画を策定、日本 No.1 のシェア、アジア No.1 のシェアを獲得すべく、全社改革の推進が決定しました。特にマーケティングと研究開発に重点投資を行うという決定がなされ、研究開発部門の要員を2020年までに1,000名にするといった大幅な体制強化を推進しています。また、これまでは、本社の国際管理部門に権限を集中させる体制をとっていたため、様々な承認事項に対して本社の判断を仰ぐ必要があり、意思決定のスピード感に課題がありました。そこで、5つブランド軸 × 6つの地域軸のマトリクス組織とすることで、2015年から各地域に権限移譲を行ってビジネススピードの向上を図っています。

グローバル人事戦略

グローバル人事の取組みを進めるポイントとしては、「人で勝つ」をテーマに、ルールを作って 順守させるというこれまでの人事の役割を大きく変え、プリンシプルに沿って一人ひとりが正しい判断と迅速な行動を起こしていくことを掲げています。ワーキングプリンシプルと組織・人材プリンシプルの二つを策定し、全従業員に共有、今はそれをコンピテンシーモデルとして導入する活動を進めています。また、他の具体策として下記の3つを推進しています。

①限られた人的リソースをどのように投下するかを考えるリソースコントロールプロセスの構築 ②組織をリードする人材を育成配置する160ポジションのタレントマネジメントプロセス    ③地域統括会社の人事ベストプラクティスの収集と横展開

例えば、グローバル160ポジション(地域統括会社 TOP とその直下の役員層、各国事業会社の TOP が対象)をキーポジションとして定め、日本本社が決裁権限を持っており、そのポジションの採用、配置、後継者選抜について、月に2回開催される People Committee で徹底議論されています。また、各地域の人事責任者からボードメンバーに対して、採用・配置などの提案が持ち込まれ、その情報をもとに Global CEO が最終判断を下す制度を構築しています。160ポジションの報酬に関しては、The Remuneration Committee ( REMCO ) という会議体を通した厳格なプロセスで決定しています。事前に各地の人事 TOP は本社人事に、組織図、各ポジションの職務評価とその評価プロセスを説明し、 LTI や福利厚生プランを含めた報酬計画などの情報を提出、REMCO の中で報酬計画の妥当性・必然性を説明することが求められています。

その他、タレントマネジメントの取組みをITで効率化する施策も同時に進められています。また、HR Survey では、現地の人事マネージャーに対して、本社人事が展開するガイドラインや制度を実行できているかどうかの実態調査を行い、展開が困難な理由・背景を把握し、改善策やガイドラインの改善を行っています。従業員エンゲージメントサーベイも開始し、現状の組織風土を正確に把握、回答率を高める工夫として、Global CEO から全社員向けのメッセージを発信、さらに Region CEO が地域社員向けのメッセージを動画で配信することで、重要性の理解浸透とともに協力を促しています。

直近は、2018年10月までに英語を公用語化する目標を掲げ、希望者には、会社負担で英語研修  プログラムの提供を開始しています。また、短期間で育成しきれないリーダーシップ教育を、「Leadership Journey」と名付け、中期的な育成プログラムに仕立て、創業の歴史や精神、   ダイバーシティ、マーケット、ビジネス、イノベーションを学ぶようなカリキュラムの設計を  検討しています。

ピープルマネジメント室の方針

必ず地域各社に対して Value を提供できる取り組みを行うことで、遠心力(権限移譲、Empowerment )と求心力(全社戦略へのアライン、共通サービスの活用)を実現していくことが重要と位置付けています。グローバル展開のポイントとしては、ベストプラクティスを徹底活用し、スムースにプロジェクトを進行していくことを意図して、専門性の高い海外の人事メンバーを最初からグローバルプロジェクトに関与させています。一方、人事部門内で新しい価値を創造できる人材をどう育てていくかが今後の課題という講演をいただきました。

 

LinkedIn が実現する攻めの採用マーケティング

リンクトイン・ジャパン株式会社からは、西 勝清氏が登壇し、5億人以上のプロフェッショナルが登録する LinkedIn のデータを活用することで、候補者の動向や自社の位置づけを知った上で、効果的な採用ブランディングとアプローチを取る手法が紹介されました。

LinkedIn の概要

LinkedIn は、全世界で、5億人以上のプロフェッショナルが登録しているビジネス SNS で、日本では100万人以上の登録があり、現在200か国以上で利用されています。

個人としての利用は大きく3つあり、①自己紹介②プロフェッショナル同士のつながり     ③仕事に役立つ情報を収集することです。

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LinkedIn で可視化するタレントインサイトデータ

法人利用においては、 LinkedIn の情報は包括的に提供されており、世界・日本の人材トレンドデータ、自社や業界の登録者データ、特定のプロフィールに基づく人材プールデータ等の把握が可能になっています。潜在的に転職に興味がある人材の比率や企業選定時に重視するポイントおよび仕事を見つける際の経路等をまとめおり、採用企業はこれらのデータに基づいて最適な採用戦略を考えることが可能です。また、企業毎に自社のデータを分析することも可能で、同業他社からの社員の転入数や職種、国ごとでの採用数、流出先企業、自社の認知度、採用ブランド力等を可視化することができます。特定のプロフィールに基づく人材プールデータの一例として、昨今、世界的に採用競争が激しくなっているエンジニアの人材プールについて、アジア、日本でアプローチ可能な人材の数、在職期間の中央値、職場に対して求めること、関心の高いトピック等、採用戦略を考える上で有効なデータが説明されました。例えば、日本のエンジニア登録者は LinkedIn 上でクラウドや人工知能といったトピックに関心を寄せてコンテンツを読んでいるため、採用企業は自社の魅力に加え、そういったトピックに関連するコンテンツを積極的に発信していくことで、自社に対する候補者の認知やエンゲージメントを高めていけるということが紹介されました。

既に日本企業の多くがグローバル採用強化策として活用

セッションの後半では日本企業が世界の人材獲得競争に勝つために、具体的に LinkedIn 上で行ってる施策と成果について紹介されました。多くの日本企業が現在、人材データの把握、採用ブランディング、候補者の質の向上、採用コストの削減・スピード化に課題感を持っており、その解決策として LinkedIn を活用していることが紹介されました。具体例として、パナソニック株式会社は世界から優秀な人材を獲得するために LinkedIn を活用し、北米におけるキャリア採用は8割が LinkedIn 経由、現在、その他の国にも展開中です。また、ツネイシホールディングス株式会社では対象となる採用地域において企業認知度を高めるために LinkedIn を活用し、5か月でターゲットとなる人材層を中心に3,000名以上のフォロワーを獲得し、認知の向上を実現しました。

 

デジタルで変えたグローバル人材の獲得と育成

SAP ジャパン株式会社からは、人事・人財ソリューション部 部長 南 和気が登壇し、SAP が挑戦した攻めの採用への変革とグローバル採用を支える仕組みを紹介しました。

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SAP が挑戦した攻めの採用への変革

SAP では、2010年から2015年の成長戦略の中で、新事業を推進する人材の速やかな獲得が求められ、採用そのものに変革に取組みました。成長戦略達成における採用課題として以下の5つを解決することが求められました。

  • 各国ごとでばらばらの採用品質
  • ERP 事業に特化した人材やエージェントとのコネクション
  • 次世代を担う若手優秀人材の不足
  • 入社後数年の退職率の高まり
  • 採用した社員のスピーディーな立上げ

最初に取組んだことは、国ごとの採用組織のグローバル統合による採用の支援体制、採用ブランディングの強化でした。日本国内では、決して高くなかったブランドイメージを、アメリカ、ヨーロッパを巻き込み向上させ、採用オペレーションのグローバル統合で業務品質を保ち、どの国からでも候補者情報を共通 DB で共有できるシステムを立ち上げました。

採用では、ERP 事業は、業界トップを走っているため、良い人材を獲得できていましたが、クラウドやAIといった新事業領域はチャレンジする立場となり同じように進まず、まずは、キーマンをダイレクトリクルーティングで責任者として採用することから始めました。また、その後、社員紹介で人材を囲い込んでいくという戦略をとりました。候補者情報は全社で共有されていますので、仮に候補者が希望した A 部門で不採用になっても、候補者がよりマッチしそうな B 部門を紹介することで、優秀な人材は逃がさないように工夫しています。一方、中途採用が多くなった結果、エージェント手数料等のコストが高騰、さらには将来を担う若手が不足してきた為、新卒採用と新卒の育成プログラムもグローバルで共通化しました。入社後は、体系的な研修に加え、オフラインイベントで社員同士がネットワークを構築する場を提供したり、メンタリングプログラムを整備して、入社した社員が素早く立上るための施策を実行しています。

採用のグローバル化を支えているシステム

SAP 社内では、SAP SuccessFactors の導入により、業務プロセスの統合を迅速に進め、世界中で採用候補者を集める仕組みを整備しました。また、LinkedIn を利用した応募にも対応しています。SAP では、採用がどのように事業に貢献しているかを図るために、採用することをゴールとする のではなく、入社後のタレントマネジメントとつなげて、採用時の情報と入社後の評価、育成、 配置状況を組合せ、採用がうまくいっているか、データを活用して分析していくことが、効率化のポイントと考え、取組みを進めています。

今回、リンクトイン・ジャパン株式会社とSAP ジャパン株式会社は、グローバル採用に注目し、 セミナーを開催しました。

今後も継続的に日本企業ならではの課題や今後進むべき道について、有意義なコンテンツを共同で発信していきますので、どうぞよろしくお願いいたします。

また、SAP ジャパン株式会社では、10月24日に「個の力を解き放ち、世界で戦う組織」をテーマに「SAP HR Connect Autumn 未来を切り開く人事」というイベントを開催しました。      次回は、そのイベント内容について、振り返りたいと思います。

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