データと事例で理解する~製造業の課題解決に、IoTという選択肢を~


ここ数年多くの議論が交わされてきたIoT(Internet of Things:モノのインターネット)。言葉自体は普及したものの、実際に導入している企業はまだ少数です。最先端のテクノロジーであるIoTは、ともすれば大企業が「未来への投資」として導入しているにすぎない、とさえ考えている人もいるでしょう。しかし、実はIoTは製造業が抱えている根本的な問題を解決し、業績を伸ばすソリューションなのです。「現実的選択肢」としてのIoTをデータと事例を参照しながら解説します。

日本のIoT導入状況

2017年1月にMM総研が発表した「IoT導入状況調査」によると、調査した企業9,242社のうち2016年度にIoTを導入したのは、12%にあたる1,109社でした。2015年度時点での導入済み企業が10.9%だったので、増加傾向であることが分かります。

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IoT導入企業を業種別にみると、「製造業」が最も多く40.6%であり、次いで「情報通信業」の13.1%、「サービス業」の9.3%と続きます。

製造業にIoT導入が最も多いのは、生産効率の向上や品質管理の改善とIoTの親和性が高いから、と考えられます。

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製造業とIoTの高い親和性に関しては、2017年3月経済産業省が発表した「製造業を巡る現状と政策課題」でも言及されています。同省が2016年12月に実施したIoTと営業利益および現場力の相関性に関するアンケート調査では、データ収集を実施している企業ほど営業利益が増加し、またIoTを現場に活用している企業ほど現場力は向上したという結果が認められました。

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IoTのユースケース

製造業に利益をもたらすIoT導入を促進するために、政府は取り組むべき政策としてIoT導入事例の収集と公開を掲げています。西日本プラスチック製品工業協会によるIoT導入はそうした事例の1つです。プラスチック製品加工のためには複数の成形機が使われていましたが、成形機ごとにデータフォーマットが異なっており、おのおのの機械から抽出したデータを一元管理するのが困難な状況でした。この課題に対し、西日本プラスチック製品工業協会は各成形機メーカーの協力を得て、データフォーマットを共通化、さらにそのデータを管理するミドルウェアを開発・無償提供し、成形機のIoT化を実現しました。経済産業省作成の資料では、IoT化の結果として、業界横断的に大幅な効率化が可能になり、産業競争力の向上につながったとしています。
IoTユースケースの共有は、国際的な広がりも見せています。2016年4月経済産業省とドイツ経済エネルギー省のあいだで「日独IoT/インダストリー4.0協力に係る共同声明」が締結されたことをうけ、日独のIoTユースケースを共有するウェブサイト「ユースケース・オンラインマップ」が作成され、2017年3月にドイツ・ハノーバーで開催された国際情報通信技術見本市で発表されました。

中小企業にも導入が求められるIoTツール

政府は、中小企業のIoT導入を推進する政策も掲げています。そうした政策には、「スマートものづくり応援隊」の結成があります。この応援隊はIoTに精通したアドバイザーから構成されており、各中小企業が抱える問題を解決するIoTソリューションを提案する活動を展開しています。その活動には、IoTツールの導入の提案と支援も含まれています。

IoTが支えるケーザー・コンプレッサー社のビジネスモデル転換

IoTによって業務を改善するには、定評のあるIoTツールを導入するのが近道です。その1つであるSAP HANAプラットフォームを導入し、ビジネスモデルを刷新した企業の例として、ドイツのコンプレッサー(圧縮空気を生成・送風する装置)メーカー、ケーザー・コンプレッサー社があります。
中堅メーカーである同社は、業界の大手企業に対抗するために、コンプレッサー装置というモノを売ることから、工場で使用する圧縮空気を供給するというサービスを売るビジネスモデルへの転換を図りました。こうしたサービスを中心としたビジネスを展開するために不可欠なのは、世界100カ国以上にいる顧客に納品したコンプレッサーの稼働状況をリアルタイムに把握することです。こうした稼働状況の「見える化」を実現したのが、SAP HANAプラットフォームなのです。以上のようなビジネスモデルの転換を行った結果、ケーザー社は装置の設置から運用、保守までを一貫して担うサービスプロバイダへの転換を成功させました。また、同社が効率的にコンプレッサーを運用することで、アメリカでの電力消費量を8.4億円以上節約することにもつながっています。

IoTによる製造ラインの「見える化」を実現したハーレー・ダビッドソン社

IoTツール導入による製造管理体制の「見える化」は、製造業のIoT活用事例の王道ともいえます。こうした王道の事例として、アメリカのバイクメーカーであるハーレー・ダビッドソン社もあります。同社は、2011年にバイクのカスタマイズ業務を担当するヨーク工場を刷新した際に、SAPの製造管理システムを導入して製造工程の「見える化」を実現しました。その結果、カスタムバイクの納品期日が2~3週間短縮したうえに、部品在庫の圧縮にも成功したのです。

以上のように、企業活動にIoTを導入することは、「未来への投資」ではなく現状をドラスティックに改革する現実的な解決策なのです。そして、そうしたIoTによる改革は、大企業だけではなく、むしろ中小企業にこそ求められるのではないでしょうか。

参考

“空気を使った分だけ払う” サービスへビジネスモデルを変革させたケーザー・コンプレッサー
マス・カスタマイゼーション(一品大量生産)をIoTで実現したハーレー・ダビッドソン