チラシ・値引きなしで売る!SAPプレシジョン・マーケティング~その2


前回まではこちら。

リテールの歴史を塗り替える!? SAPプレシジョン・マーケティング~その1

このソリューション、SAPプレシジョン・マーケティングはつい先日リリースされたものだが、単なるスマホアプリとはワケが違う。文字通り、すべてのリテールを変えてしまう可能性を秘めているのだ。

その極意は、「値引きに頼らない販促」にある。どういうことか?

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■チラシ販促の限界

日本の食品スーパーの利益率は業界平均でわずか0.7%。3,000円売って21円しか利益が出ない。最大手の7&iホールディングスが0.9%、イオンも0.7%だから、大手も苦しさは同じだ(※末尾の参考情報を参照)。

(以下の数字は、複数のお客様企業から伺ったお話に基づくものなので、出典等はない。誤差がある可能性もあるので、気になる方は独自に調査いただきたい。ここでは「ある一例の数字」ということで話を進める。)

食品スーパーは一般的に、チラシを週2回年間100回強、新聞折り込みの形で配布している。チラシ1枚あたりの作成・印刷・配布コストはおよそ12円。ということは、年間100回x12円として、1世帯あたり年間1,200円のチラシコストをかけている計算だ。利益率0.7%で1,200円の利益を上げようとすると、年17万2000円くらい売らなくてはならない。仮に52週で割ると、3,300円。つまり配布された全チラシがコンスタントに毎週3,300円ずつ売上を立てて、やっとトントンということになる。

が、実際にはチラシを見たことによって来店するお客は1割しかないという統計もあるそうだ。残り9割はチラシがなくても来る層と、チラシがあっても来ない層というから、1割にはまあ違和感はない。となると、チラシ1世帯分が稼がなくてはならない利益は、実質、年間12,000円にハネ上がる。それに必要な売上は年172万円、週平均33,000円。食べ盛りの子供が3人いるくらいでは無理だw。

※もちろん実際には「利益率0.7%」はチラシのコストを負担した後の実績値である。しかし、裏返せば、もしチラシの負担がなければ、利益率は倍あるいはそれ以上になっていたかもしれない、ということでもある。

しかも、この「チラシ1枚12円」には、チラシに掲載される「セール品」の値引きコストは含まれていない。値引き原資はメーカーから引き出している割合が大きいとはいえ、それも値引きしなければ丸々利益になったはずのお金だ。一方で、チラシが無くても来店した層には、本来であれば正価で売れたはずのものまで値引きしてしまっていることになる。

もともとチラシは、高度成長期には、きわめて有効な販促手段であった。専業主婦世帯が中心で、1円でも安い品を求めて複数の店舗を買い回ることも多かった時代である。

しかし今は、共働きの女性が増え、「安さ」以外の価値、たとえば「利便性」や「品質」を求める世帯が増えてきている。つまりチラシというマス媒体による「安さ」の訴求が利かなくなってきているのだ。

そこへ持って来て致命的なのは、チラシが届かない世帯、つまり新聞を購読していない世帯が年々増えているということだ。これもある調査によれば(紙の)新聞の世帯購読率は5割を切っているという。つまりチラシは、すでに消費者の半分にしか届いていない。

しかも世代別の不均衡があり、世帯あたりの消費が多い、つまり食べ盛りの子供がいる20~30代の世帯はより新聞購読率が低い。ネットに親しんでいる世代だから当然であろう。つまりチラシは、あまり食べない高年齢世帯には届いても、若年世帯には届いていないのである。

※バックグラウンドのチラシ画像は、筆者愛用の東急ストアさんのチラシをお借りしました

ただでさえ人口(とくに若年人口)が減り、食品市場のパイが減っていく時代に、チラシでは訴求できない層に、どうリーチしていくのか?

SAPプレシジョン・マーケティングはその一つの解を示している。

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■マス値引きに頼らない販促

前回、例示したように、SAPプレシジョン・マーケティングのスマホアプリは、値引き商品だけを提示しているわけではない。

 ・ ④「このフランスワインがお好きな方は、このチリワインもお好きなようですよ」「この△△コーヒーをお求めの方には、当社プライベートブランドの○○コーヒーもお勧めです。値段は120円高いですが、量は2倍入ってます」はスイッチ候補の提示

 ・ ⑤「カレールーを買った人には福神漬けを」「ピザソースを買った人にはとろけるチーズを」は併買候補の提示

 ・ ⑥「金曜日の夜にはスパークリングワイン」「23時を回って帰宅するサラリーマンには「残業お疲れさまでした、エビスビールとおつまみセットいかがです?」」はタイムリーなお勧め

この3つはいずれも、値引きはしていない。しかし消費者のニーズをタイムリーに突くことによって、需要を喚起しようとしているのである。

また、

 ・ ⑦セール品やクーポンなどのお買い得品の提示
 ・ ⑧「今から閉店まで精肉コーナーはすべて2割引きですよ」「このスイーツは賞味期限まであと2時間なので5割引き♪」などの時限的なお買い得品、いわゆるタイムセールの提示

についても、実はSAPプレシジョン・マーケティングでは、まったく違った展開が可能になる。どういうことか?マス訴求でなく、ピンポイントのワン・トゥ・ワン訴求ができるからだ。

万人に値引きを提示する代わりに、値引きが効きそうな顧客だけに提示することができるので、「値引きがなくても買ってくれた層」についてまで利益を削る必要はなくなるのである。

もちろん、⑧のタイムセールなどは、普通は売れ残り=廃棄ロスを防ぐための施策であるから、相手が誰だろうと売り切ってしまいたい。しかしこれも、「スイーツをよく買っている履歴のある若い女性」にアピールするほうがはるかに効果的なことは言うまでもないだろう。

一部の顧客にだけ値引き(実際にはポイント還元)を提供するというのは「一物二価につながる」として、スーパー業界では心理的抵抗が強いこともあるそうだ。しかし、得意客を優遇する施策はいまや常識である。そして、「売れ残りそうな品物を買ってくれる」のは、その一点において明らかに得意客であると言えるのではないだろうか。

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■購買決定のその瞬間に関与する

なぜ上記のような、「値引きに頼らない販促」が可能になるのか?

その答えはもちろん、(A)顧客ひとりひとりの購買行動をプレシジョン(精細)に把握した上で、(B)購買の意思決定のその瞬間にタッチしているから、だ。

これを実現しているのが、SAPプレシジョン・マーケティングの4つの構成要素である。

SPM

SAPプレシジョン・マーケティングの4つの構成要素

①スマホアプリ「お買い物リスト」は、消費者にスマホにダウンロードしてもらう。

買おうとしている品目をスムーズにリストに追加できることがポイントなので、さまざまな入力方法を用意している。たとえば「バーコードを撮影して登録」「過去に買ったもの(過去履歴)から登録」「カテゴリから選んで登録」「Webサイトで登録しておくと自動的にスマホ側にも反映」などである。もちろんキーワード検索も可能。さらに店頭に貼ってあるポスター等の画像を認識することで登録させることも可能だ。(バージョン2ではレシピ連携により、レシピから提案して登録、なども予定している。)

②「オファー設定」はあらかじめ、スーパーの販促本部が行う。

前回例示したように、オファーにはさまざまなタイプがある。

 ・ ある品物を買った(あるいは買おうとしている)人はこの商品も併せて買う可能性が高い「併売候補」(=クロスセル)。
 ・ ある品物を買った(あるいは買おうとしている)人はこの商品にも興味を持つだろう、という「スイッチ候補」(=アップセルまたはダウンセル)。
 ・ チラシに出ているものも含め、値引きやポイントが付与される「お買い得品」。
 ・ さらに時限的なお買い得品タイムセール)も。これは本部ではなく店舗側で主に設定される。「○割引」のシールを貼るのと同じレベルだ。

ここまでは、ユーザーが誰でも同じ重みづけでプッシュされる。

③スーパーの既存システムとの接続により、スーパーがすでに持っている、消費者に関する詳細なデータを反映する。

 ・ CRMシステム:ハウスカード会員の属性情報(年齢、性別、住所、場合によっては家族情報なども)
 ・ POSシステム:ハウスカード会員の購買履歴(いつ、どこで、何を買ったかの明細)
 ・ 在庫管理システム:店舗ごとにどの商品がいくつ入庫・出庫しているか、の情報。(※これは日本のスーパーマーケット業界では、リアルタイム反映ではないことが多い)
 ・ 商品マスタ:オファーの原単位となる、商品コードごとの詳細な情報

④「SAPプレシジョン・マーケティング(SPM)エンジン」は、この①②③の情報をリアルタイムに掛け合わせ、もっとも有益なオファーを選んで、スマホの「お買い物リスト」に届ける役目を果たす。

これはこのブログで毎回ご紹介している、超高速インメモリーデータベース「SAP HANA」上で稼働している。数百万人の消費者の詳細な履歴と、数千におよぶオファーを瞬時に掛け合わせて最適なものを選ぶのは、従来のデータベースには無理だっただろう。SAP HANAの超パフォーマンスあってのソリューションである。

さらに②は、日々ブラッシュアップが続く。すべての購買履歴に加えて、どのオファーがどのくらいアクセプトされたか?の詳細も残っていくから、これらを分析することでさらにオファーの内容をチューニングしていくことができる。この顧客は「魚好き」だと判断すればサンマを勧める、などだ。

また④には学習機能があり、オファーの優先順位を自動的に少しずつ見直していく。消費者に提示したのに(=可能性が高いと判断したのに)アクセプトされなかったオファーについては、多少ネガティブな重みがついて、優先順位が下がっていく。

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ここまで、基本的に「食品スーパー」の文脈で話を進めてきた。しかしSAPプレシジョン・マーケティングは、実際にはもっと幅広く、消費者と関わりのある企業(いわゆるB2C)すべてについて適用可能である。次回は食品スーパー以外での適用についてもご紹介していく。

【参考情報】

■スーパー業界 基本情報
http://gyokai-search.com/3-su-pa.htm

■スーパー業界 利益率ランキング (平成21年)
http://gyokai-search.com/4-su-pa-riritu.htm

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