自らの目的・使命を考え仕事に取り組む喜び


2018年初、多くのSAPジャパン社員は新鮮な体験をしました。
CSRとしての義手作成に参加しつつ、実はそれは「明確な目的をもって仕事に取り組む意義」を深く考える研修だったのです。

SAPジャパン社員が体験・共有したこと

その日は2018年年頭の社員総会でした。大阪他の支社に同時配信されるのが通例ですが、今回は出来る限り東京に集まるようにとの通達があり、従業員の約半数が麹町の弊社ビルに集まりました。
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会場の入り口で指定席券が手渡され、ほぼ初対面の3名で着席した目の前に、指示があるまで開けるな、と書かれたパッケージと、何かの作業指示書が置いてあります。

ははーん、全員で何かの研修なんだな、そのために東京に集まれ、ということか。研修を託された外部講師と思しきOdyssey TeamsのCEO 、Bill Johnが出す指示に従って、パッケージを開封。

Odyssey Teams CEO, Bill John

ファシリテーターのBill John。このイベントのためにわざわざ来日。

中には茶色のプラスチックや金属性の重り、細いピンやバネ、精密作業用の六角レンチ数種類、などなど。特にクワガタの大顎のような部品が目を引きます。
これは何だろう?とにかく、作業指示書に従って組み立て始めます。大顎を交互に組み合わせて、ピンで留めて…
何ができるんだろう?どんな意味があるんだろう?何の研修なんだろう?

#OdysseyTeamsの種明かし #HelpingHandsLive

作業が始まって10分ほど経過したところで会場内が暗転し、Billが皆にビデオを見せてくれました。

「先天的に、あるいは地雷や爆撃、事故などで手の機能を失ってしまった人々が30万人以上いる。私たちは、できるだけ多くの方々に『手』を届けたい。今、あなた方が組み立ててくれているのは、200体の『手』なのです。」

ビデオには、茶色のプラスチックの『手』によって握手をし、筆記具を掴んで書き、歯ブラシを使い、スプーンで食べ、自転車に乗る老若男女が映っていました。皆、本当に嬉しそうです。手が使える、ということが、自助によって生きる、ことと同義だと気づいた瞬間でした。

なんと、私たちは研修目的で作業をしているのではなく、彼らが日常で実際に使う『手』をボランティアの一員として作る、という崇高な使命が与えられたのです。作業の『目的』を使命だと認識した時、会場の空気がフッと変化したのを感じました。何か熱を帯びたような気がしたのです。
実は、総会参加者は600人を想定していました。3人1チームで200体を製作するのが、今回のミッション。ところが参加人数が想定を満たしておらず、空席があります。「仲間に電話して、すぐ会場に来てくれるように促して!」という声があがり、一方で、「追加で作ってくれるボランティア募集!!」という声に我も我もと手を挙げる人々。結果的に90分ほどの時間内に、予定していた200体が出来上がったのも驚きでした。

Bill JohnとSAPジャパンの参加者で記念撮影

Bill JohnとSAPジャパンの参加者で記念撮影

作業をしながら湧き上がる感動

しかし、組立作業の素人である私たちでも、本当に日常生活に耐えられる『手』を作ることができるものでしょうか!? 実際に組み立てている私たちも半信半疑だったのです。

使命を認識することで組立作業に慎重になりました。プラスチックや金属の部品は、細いピンやネジで、義手の表面から飛び出さず埋め込むよう指示されています。使用者が怪我しないための配慮です。ひとつひとつ部品を取り付けつつ、使う人のことを思い浮かべながら表面を丁寧になぞります。

初めての人でも組み立てられる義手

初めての人でも組み立てられる義手

はじめにクワガタの大顎のように感じた部品は、指の代わりをするものでした。3本の固定された指と可動式の2本の親指でものを挟むことができます。

挟んだものはしっかり保持され、これなら筆記具でも自転車のハンドルでも持つことができます。そして義手の手首を少し折ることで手がぱっと開きます。挟むのも放すのも容易な操作で動作します。これなら十分手としての機能を代替してくれます。

そのほか、義手を腕に取り付けるベルトや、義手を取り付ける腕の先端が痛くならないようなクッションなど、様々な製品デザイン上の工夫を見て取ることでできます。主に樹脂製の部品はこの義手専用ですが、ピンやバネ、組立用の冶具は安価に入手できる汎用品が使われています。また、この義手が、機能・使う人への配慮・ペーパーマニュアルだけで素人でも短時間で組み立てることができる・など、非常に優れたデザインで製品化されていることがわかり、実物に触るだけで感動が押し寄せてきます。

「義手」をキーワードに少し検索するだけでも、様々な技術が研究・開発され、素材や見た目もできるだけ「ヒトの手」に近づけるようなデザインが試みられていることが見てとれます。しかし価格という大きな壁が横たわっていることも同時に理解できます。国内で流通しているドイツ製筋電義手は150万円、とか、安価に抑えたといいつつ国内製でも40~50万円から、という価格設定になっています。前述の理念を実現するためには、この価格という制約を突破しなければなりません。
実は Odyssey Teamsでは、この義手をキットとして外販しています。一体295米ドルでオーターできます。価格破壊とも言える値付けです。個人でも発注可能です。

 

「あなたは何のために仕事をしているのか」

受講した従業員の一人である私も、実際に、この「『手』を作る」という組立作業を通じて、短時間で様々なことを深く考えることができました。特に「手がない方が本当に求めているものは何か」というデザインシンキングでも重要視される顧客中心主義について再認識したのは大きな収穫でした。もちろん「仕事の目的を理解した時の喜び」についても忘れることはないでしょう。

記念にもらったキーチェーン

記念にもらったキーチェーン

SAPジャパンは各従業員に「あなたは何のために仕事をしているのか、自らの目的・使命を今一度、考えてほしい」というメッセージをこの研修に込めました。この研修を基に、従業員各人は、自らの年次目標として、自ら考えた目的・使命を設定するよう求められています。

「何のために、を理解することで、仕事の質を高め、喜びを見出してほしい」という、会社からの強いメッセージを受け止めて、このブログを執筆しました。
研修受講票の代わりにキーチェーンをもらいました。その時の気持ちを忘れないように、社員証ストラップにぶら下げておきたいと思います。

[付録]
Odyssey Teamsのビジネスプロセスモデルについて、少し考察してみましたので、お時間がある方は後段もご覧ください。

目的を遂行するための「ビジネプロセスモデル」

「できるだけ多くの方々に『手』を届けたい」というチームの理念を現実のものとするために、製品デザイン以外にも優れた工夫が施されていました。

Odyssey Teamsは、理念を実現するためのこの事業をどのように継続させているのでしょうか。
その工夫を、SAPが得意とするビジネスプロセスモデル分析から考えてみましょう。

組立型製造業には、いくつかの生産形態があります。顧客のニーズに沿った個別受注生産もあれば、画一的な製品を大量生産する形態もあります。
義手の価格が高くなってしまうのは「完全個別受注生産」形態であることが大きな要因だと考えられます。もし、それを一律の製品の「大量生産」形態に変えることができれば、設計・組立のコストを大幅に削減することができます。さらに、できるだけ汎用部品を採用することで調達コストも低減できます。使用中に壊れても容易に修理できる副次的なメリットもあると思われます。
「本人の手に限りなく近い見た目を持つ義手」ではなく「多くの方が求めている、生活に必要な手の機能を充足する義手」と製品の概念を定義することにより、生産形態を大量生産型にすることができます。

SAPでは世界のビジネスを25業種に分類し、それぞれにビジネスソリューションマップを作成しています。今回の『手』は、コンフィグレーションのない大量生産型ハイテク製品に似ていますので、そのマップを見てみましょう。

SAPのソリューションマップ (ハイテク製品製造)

SAPのソリューションマップ (ハイテク製品製造)

コアプロセスとして[製品イノベーションと調達] [サプライチェーン] [製造・生産] [マルチチャネルによる販売とマーケティング] [カスタマーサービス] が並んでいることがわかります。業務遂行には、サステナブルにこのコアプロセスを運用する必要があると言えます。Odyssey Teamsは自らの理念を実現するために、すでに10年、業務を継続しているそうです。

[製品イノベーションと調達] や [カスタマーサービス] については、すでに述べました。製品原価を安くし、メンテしやすくする工夫がなされています。加えて[製造・生産] や [サプライチェーン] のプロセスに「企業によるCSR参加」を加えるというイノベーションを生み出したところがミソ。

コアプロセスをサステナブルに運用するには、ヒト・モノ・カネという原動力の供給が不可欠です。特にこのような手作業による大量生産には、ヒト・カネというリソース調達が難問となります。Odyssey Teamsは「ボランティア」によって[製造・生産]プロセスを回し、「企業研修がCSRになる」工夫で事業継続する、という新しいビジネスモデルを確立したと言えます。俗な表現をすると、組立作業者に賃金を払うのではなく、組立作業者から「研修費」を徴収することで、ビジネス遂行の原動力としているのです。
私たちは、CSRとして『手』を200体製作する [製造・生産] プロセスに参加した訳ですが、会社は喜んでその費用を負担し、従業員に「研修」を受講させたかったのです。