「IoT」はいったん忘れましょう。SAP Leonardoが支援するイノベーション企画の進め方の事例
作成者:桃木 継之助 投稿日:2018年4月27日
耐久品を製造する企業が、IoTを使ってお客様先に収めた機器の予防保全をしたい、 また、ビジネスを「モノ」から「コト」へ変革したいという企画は良く耳にするテーマです。
そのような企画を進める企業に対して、SAPでは、いったん「IoT」といった技術要素は忘れて『幅広い視点で一回考えてみませんか?』と提案します。
今回は、より早く確実にイノベーションを実現するSAP Leonardoの進め方と合わせて、どのような検討の仕方がより確実かについて、ある企業の事例をもとに考えてみたいと思います。
ここから、ある企業での企画や検討の進め方と、SAPが支援した内容についてご紹介していきます。様々なバックグランドの方が読むことを想定して、少し抽象化して適用範囲を広げた形で論を 進めていきたいと思います。
企業の特性
- この企業は、工場で利用する設備の中の耐久品の部品を作っている企業です。
- 設備の完成品を作ってはいなく、その中の部品を作っています。
- 代理店販売が中心ですが、大手顧客には直接販売を行っています。
もともと考えていたこと
中期経営計画にサービスビジネスの拡大を上げています。その実現のために、世の中で事例の増えてきた IoTを活用して、お客様(自社製品のユーザーである工場)に対する予防保全ができないか、と検討を進めて いました。
直面した課題
検討を始めてすぐにやってきたのは技術課題です。
IoTでお客様先での自社製品の利用状況を把握できれば、サービスビジネスの拡大につながりそうですが、最初の一歩目から挫かれました。
IoTのためにセンサーを付けることを考えると、課題が3つ浮上したのです。
- 1つ目の課題は、自社が製造しているモノが部品であり、装置全体は他社が作っています。自社で作っている部品に対してセンサーが付けられないという点。(他社製の装置にはセンサー付けられるが他社の協力を得られる段階にない)
- 2つ目の課題は、お客様の工場内のネットワークの問題。工場内には様々な機器が稼動し、様々な 通信が行われています。そして、工場それぞれで使われている通信が異なり、どのような通信技術を 利用するかを決めることが困難であるという点。
- 3つ目の課題は、そもそも論に近い話しですが、センサーが安くなってはきているものの、いくらまでセンサーにコストをかけて良いか判断が付かなかったこと。
この企業では、おぼろげな将来像を描きながら、最初の一歩目から、この取り組みの難しさを 知ることになりました。
一歩戻って二歩進むアプローチ :
Design-led な SAP Leonardoのアプローチ
このような場面でSAPはこの企業とお付き合いを始めました。
一緒に検討し決めたアプローチは、一歩戻って、お客様やビジネスの観点も含めて全体的にかつ詳細に1日集中して考えてみよう、ということです。
SAP Design Thinkingでは、ステークホルダー(自社製品を買う人、使う人、代理店の人、保守をする人、 自社の営業、自社のサービス員)を洗い出し、それぞれのステークホルダーの日々の行動を観察し、 徹底的に共感することで、「人」に受け入れられるアイデアを考えます。
また、”ビジネスモデルキャンバス“や”バリュープロポジションキャンバス“を利用して、「ビジネス」観点でのモデリングを行います。
それらのアイデアを最新の「技術」の観点でマッピングし、簡易な試作品を作って評価します。
このDesign Thinkingのワークショップを通じて、発見できたことは以下の3点です。
(実際のワークショップでは数十の発見がありましたが、文面の都合上分かりやすい3点をピックアップしています)
- 「人」の観点から、もしセンサーで自動化されなくても、設備の稼働率が上がるのであればユーザーは 幸せである。そのために少しの協力であれば行うだろう
- 「ビジネス」の観点から、設備の稼動状況が分かれば、稼動請負サービスが新たに提供できる。納入先での置き換えタイミングと利用状況が分かるので、適切な置き換え提案により利用継続率を 高められる。また、自社製品を一式で購入いただく理由ができる。その結果、売上XX億円の影響がある。
- 「技術」の観点から、センサーがなくてもモバイル端末とクラウドサービスを利用すれば半自動化 できるだろう。さらに、センサーを使えば全自動化とデータの詳細化ができる。これには技術的な懸念 (装置へのセンサー設置や工場内での通信)があるが、お客様に協力いただければ解決できるだろう。
Design Thinkingの後の二歩目 : 短期的の実証実験へ
このDesign Thinkingで1日を使い、参加者は希望の光が見えてきました。しかし、まだまだ確実性は低い。そこで、「むずかしいところ」、「懸念されるところ」から、短期間で実証実験をすることにしました。
Design Thinkingと、数件のお客様にインタビューを行った結果、ビジネスの可能性が見えてきていましたので、この実証実験には数百万円の予算を付けて行うことの承認を得ることができました。
実証実験は、改めて「人」と「ビジネス」の観点を確かめることに力点を置き、以下の点を中心に確認しました。
- お客様(特にユーザー)は、今回の新しい取り組みに価値を感じるだろうか?
- 新しいモバイルサービスでお客様が手軽に入力できるだろうか?してくれるだろうか?
- お客様は協力や何かしらの投資(時間やお金など)をしてくれるか?それはどれくらいだろうか?
- 代理店の理解は得られるだろうか?
- 自社のサービス員が持つノウハウを機械学習を利用してクラウド上に再現できるか?
- サービス員はノウハウを提供してくれるか?
- 得たデータから予防保全や、置き換え提案をすることができるか?
- これらの結果から、今後のビジネス化の蓋然性はあるか?
実証実験の進め方
今回の実証実験では、お客様(ユーザー)や代理店にも加わってもらい、簡易なモバイルサービスとクラウドサービスを組合せた形で進めました。
ユーザーであるお客様の工場のメンテナンス担当者にモバイルでデータを入力してもらい、クラウド上の機械学習エンジンが入力されたデータから、工場のメンテナンス担当者にアドバイスを表示する、というものです。
この実証実験で、むずかしいと想定されていた、懸念されていた箇所について、十分に検証をすることができました。
また同時に、当初描いていたIoTセンサーを利用した全自動化を行わなくても十分に価値のある新サービスであることが確かめられました。
実証実験その後
そこで、第一弾のサービスは、この実証実験のモデルを少し肉付けして提供することにしました。
意識していたのは、競合他社が同様のサービスを提供する前に提供したいというスピードでした。
ここで得たデータは貯まれば貯まるほど価値を高めていきます。
いち早くサービスを提供してデータを貯めれば、他社の追随を許さない優位性になります。
この点は、逆に競合他社が同様のことをスピーディーに行えば、自社が追いつけなくなる危機感も意味します。
完成した姿を追求するよりも、スピードと発展性を重視して、新サービスをスタートすることにしました。
SAPのご支援の特徴
さて、ここまでが、ある企業での検討の進め方の例の紹介でした。
最後に、SAPがこのような取り組みをご支援する際の特徴について説明しておきたいと思います。
- 「人」「ビジネス」「技術」のバランスをとるDesign Thinking
今回の事例では、「技術」中心の検討から、一歩下がって「人」「ビジネス」を含めた検討することで技術課題の突破口を発見しました。 - 拡張性の高い、最新技術の道具箱 SAP LeonardoのInnovative Technology
「IoT」だけでなく、「モバイル」や「機械学習」までの機能によって、特定の技術に縛られずに 実現することができました。また、細かい点ですが、道具箱の中に、「アクセス権限管理」や「分析」が入っていたことで、早期の実証実験ができました。 - 業種や業務の知識とパッケージ
他社での似た事例から、巻き込むべき部門や期待される効果、必要となる技術要素の組み合わせを 参考資料に利用しました。これにより、アイデアの活性化や具体化のスピードアップを行うことができました。
SAPは企業のデジタル技術を利用したイノベーションをより早く確実に行っていただくため、上記の3つの特徴を備えたSAP Leonardoを提供しています。
今回の事例紹介がみなさまの検討の一助になれば幸いです。