マイクロソフト — サプライチェーン領域におけるデジタルトランスフォーメーション


マイクロソフトというとどのようなイメージをお持ちでしょうか? MS Office、Windows、Azure、MS SQLなどソフトウェアの巨人というイメージを持たれる方が多いのではないでしょうか。

しかしマイクロソフトはノートPC・タブレットであるSurface、ゲーム機器のXbox、ヘッドマウントディスプレイのHololensなどハードウェアのビジネスも多数持ち合わせビジネスを堅調に伸ばしています。

このようなハードウェアビジネスをもつ企業にとって共通の課題であるサプライチェーン管理、つまり在庫を抑え、需要に応じてタイムリーに顧客に商品をお届けすることは企業経営における重要なテーマになります。

2017年、少なくとも2億ドルの在庫削減を達成したと語られるマイクロソフトの取り組みをみてみましょう。

市場の変化はますます激化、サプライチェーンも複雑化

従来マイクロソフトのハードウェア製品は2-3年に1度新製品がリリースされ、その後3-5年は製品販売する形態でした。世界中で販売されるマイクロソフトの製品は売り上げに対する原価率は20%でした。

その後徐々に競合の台頭や市場の求めるスピードの加速など、市場変化が激しくなります。2015年には新製品は1年にバリエーションも含め複数製品がリリースされ、販売期間も従来よりも短い1-2年と短縮され、売上原価率は35%と高まりました。

原価率が15ポイントも伸びたため、部品在庫、製品在庫のハンドリングがダイレクトに経営インパクトを与えてしまうことになります。つまり、仕込みすぎると、部品在庫、製品ともに不良在庫化してしまい売れなくなり、棚卸資産が膨れキャッシュフローを圧迫するといった事態になるというリスクがあるのです。

委託生産100%のマイクロソフトの決断、委託生産先の生産方式をMTSからBTOへ

長い間マイクロソフトはMTS(Make to Stock:見込み生産)オペレーションを続けてきたのですが、このような環境変化が激しい市場に対応するため新たなオペレーションの模索を始めました。

最初のワークショップをサプライチェーンのプランニング部門、調達部門、IT部門、CTOを交え2015年の8月に実施し、従来のMTSオペレーションから注文を受けてから組立開始するBTO(Build to Order:受注組立生産)オペレーションへシフトする構想に至りました。同年12月にはBTO(受注組立生産)に対応した業務プロセスおよびITの仕組みが完成しました。

翌年の2016年の1月からBTOのパイロット生産を開始し、同年8月末には完成品のほぼすべての製品でBTOでオペレーションを行うまでになりました。同年末には在庫回転率もマイクロソフトにとって過去最高を達成したようです。
(当時過去5年で8.1回転~15.6回転だったところ、2016年12月には17.1回転になった:出典 2017年7月SAP Leonardo Live 講演資料)

そしてサプライチェーン全体を通じて2億ドルの在庫削減(製品在庫削減および部品在庫削減)を実現したことがビジネス効果として謳われています。

マイクロソフトの固有事情

ここまでの効果を出したマイクロソフトですが、元々取り扱う製品やビジネスには特有のチャレンジがありました。

  1. マイクロソフトは自社工場をもたずに100%委託生産である
  2. 部品リードタイムが3,4か月かかる
  3. ピーク時の需要は平常時の5倍から10倍と膨れ上がる

そのため、実装時そして運用時には「需要のパターンを分析」し「供給・仕込みのルール化」を行い、「SAPシステムに実装(SAP Integrated Business Planning)」するサイクルを継続的に実施することがポイントとのことです。

1度パターンを決めたら終わりではなく、このサイクルを継続的に回すことによりで在庫を最小化しつつタイムリーに生産を行えるようにしているのです。

委託生産先・サプライヤーとのコラボレーションが肝

そして特に重要なのが変化が激しい需要にタイムリーに答えるためには、委託生産100%のマイクロソフトにとって、複数階層のサプライチェーン、つまり複数のサプライヤー・委託製造先とのコラボレーションが肝になります。

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肝であるサプライヤーとのコラボレーションではどのような情報をやりとりしていたのでしょうか。

それは、長納期部品を確実に抑えるためのマイクロソフトからのフォーキャスト情報、サプライヤからのコミット情報、確定発注情報、品質情報、事前出荷情報(ASN)などの情報です。

各種情報をタイムリーにかつ効率的に行うためSAP Aribaのプラットフォームを活用し、結果として以下のような素晴らしい成果につながりました。

◆サプライチェーンコラボレーションによる効果

サプライヤーが注文確定に要する工数削減 :従来3日かかっていたところ30分に短縮

サプライチェーンのプランナー工数削減 :オーダーフォローアップに1-2日かかっていた作業が1-2時間に短縮

新規サプライヤー取引開始リードタイム:口座が開いて取引開始できるまでに4か月かかっていたところが4日間に短縮

One Digital Supply Chainイニシアチブ

このようなインテリジェントなサプライチェーンを支える仕組みはマイクロソフトの社内のみならずサプライヤーとのコラボレーションも行われるため誰でも使いやすい仕組み、かつフロントの仕組みとバックエンドの仕組が連動することが求められました。

マイクロソフトはこれを「One Digital Supply Chain」というイニシアチブで進め、具体的にはSAP S/4HANASAP Integrated Business Planning (IBP)SAP Aribaの3つの主要アプリケーションにより構成され互いに連動するワンプラットフォームとして日々の業務をデジタルに支え素晴らしい成果を出し続けています。

SAP Leonardo Live(2017)イベントのマイクロソフト講演資料でさらに詳細な情報を得ることができます。-> SAP Leonardo Live 講演資料

計画:需要のばらつきを考慮して最適な計画をサポートするSAP Integrated Business Planning

実行:受発注を確実に行い、業績を管理するSAP S/4HANA

コラボレーション:委託製造先、サプライヤとのビジネストランザクションを効率的に行うSAP Ariba

この計画、実行、コラボレーションの3つの連携を密に行い、従来のMTSの生産方式からBTOの生産方式に変革することで、お客様の要求に基づきタイムリーに商品を提供し続けることができるようになりました。

これがマイクロソフトがサプライチェーン領域で取り組んでいるデジタルトランスフォーメーションであり、現在も進化をし続けてます。

ハードウェア製品を扱うどの企業にとっても、マイクロソフトのサプライチェーンにおけるデジタルトランスフォーメーションの取り組みは参考になるのではないでしょうか。

本稿は公開情報に基づき筆者が構成したもので、マイクロソフト社のレビューを受けたものではありません。