設備保守のフィールドエンジニアのデジタル化 ~ ヴェスタスウィンドシステムズの現場強化策


紙媒体 vs デジタル媒体

10年ほど前の通勤車内風景を覚えていますか。窮屈な通勤電車内にも拘わらず器用に縦折にした新聞を読むビジネスマンの姿を思い出す方も多いのではないでしょうか。iPhone 3Gの日本発売が2008年7月11日。それからちょうど10年。車内から紙の新聞は消え去り、乗客はモバイル端末に目を落としたままです。
新聞のデジタル化が始まった当初、「新聞の大きな紙面を眺めていると、関心の高い記事は向こうから目に飛び込んでくるんだよな」といった、これまでの経験に基づく意見があったのを覚えています。それはその時点での事実だったかもしれません。しかし10年経過した今、「読み手は紙媒体の新聞より、デジタル媒体を介して情報を得ることを選択した」と断じてよいと思います。

紙媒体とデジタル媒体。読み手にとって、違いはどこにあるでしょうか。

紙媒体の場合、掲載情報の鮮度は、印刷以降、時間経過とともに落ちていきます。コンテンツの品質は、一社の編集部文責により高品質に保たれていると言えるものの、その社の見解によるバイアスがかかっていることは否定できません。
デジタル媒体の場合、さまざまなチャネルを経由して時々刻々と新しい情報が飛び込んできます。情報の品質は玉石混交であり、中にはフェイクニュースも交じります。掲載されている情報の真贋判定は読み手の責任です。しかしながら、ひとつの事象に対する様々な見解を得られるという利点と考えることもできます。さらに自分の興味に応じて、深い情報を手繰っていくこともできるようになりました。
10年は、こういったデジタル特有の機能を私たちが使いこなすために要したトレーニング時間だったのかもしれません。

コンシューマライゼーション

コンシューマライゼーションとは「従来のITソリューションの浸透方向が逆転し、消費者向け製品をビジネスに取り入れていくという流れになっている」ことを指します。消費者に受け入れられた「シンプルな使い勝手」をビジネスにも取り入れることで企業システムのエンドユーザーが喜んで使ってくれると、自ずからビジネスが強化されていきます。そんな例を紹介したいと思います。

機器・設備の保守作業の変化

“設備保守作業” をキーワードに画像検索してみてください。ヘルメットを被ったエンジニアが現場で計測機器を確認しつつ、クリップボードに挟んだ「紙」に手書きで作業内容を記録している画像がたくさん見つかると思います。一方、端末に向かいながら計画の立案・修正、保守部品の手配などのオフィス作業を行っている画像も出てきます。なぜオフィスではシステムを使い、現場では紙に頼っているのでしょうか。
コンシューマライゼーションの考え方に則り、現場監督や建設労働者にモバイルパワーを提供してみましょう。

ヴェスタスの取り組み

デンマークのオーフスに本社を置くヴェスタスウィンドシステムズ社(以下、ヴェスタス)は、世界で約2万1千人の従業員を雇用し、年間売上は100億ユーロを越えています。同社は風力タービンを製造、販売、設置し、風力発電を最大限に活用するための包括的な設備保守サービスを提供しています。
ヴェスタスの風力タービンは、世界中の76カ国で発電を行っています。同社の風力タービンは、大規模な地上風力発電所から高高度に至るまで、また、モンゴルのゴビ砂漠の酷暑からフィンランドのラップランドの厳冬にも耐えられるように設計されています。

風力タービンの業界は当初の急立ち上げ期を過ぎ成熟期に差し掛かろうとしています。業界内での競争力を高めるために、同社は前述の設備保守サービスを強化する方針をもっています。そのために OnePlan というフィールド保守向けの統合ソリューションを開発しました。OnePlan は、複数の業務領域 (サプライチェーン、建設計画、補修部品配送など) で主管しているデータを統合し、保守員が使いやすいアプリケーションに一元化するものです。

フィールドの保守作業員に使ってもらうために、3つの重要な要求仕様がありました。

  1. インターネット接続がなくてもアプリケーションが使えること。同社の建設現場の一部は、モバイルネットワークのエリア外となる遠隔地にあります。ユーザーはしばらくの間オフラインでアプリを使用できなければなりません。モバイル接続が可能になると、アプリはシステムと自動的に同期します。
  2. アプリはシンプルかつユーザーフレンドリーである必要があります。
  3. アプリケーションは、複数のバックエンドシステムと統合されなければなりません。SAP ERPのPM(プラント管理)とEAM(アセット管理)に加えて、同社独自の計画およびプロジェクト管理アプリケーションなどが対象です。

SAP Cloud Platform SDK for iOSの採用理由

ヴェスタスはSAP Cloud Platformを選択することで、ITスタッフが統合作業そのものではなくイノベーションに多くの時間と労力を費やすことを可能にしました。SAP Cloud Platformを基盤技術として使用することで、iOS向けSDKOnePlanアプリケーション開発のための当然の選択となりました。

ヴェスタスのITアーキテクト、アジエル・ヴェガ・サンチェス氏は次のように述べています。
「Apple iOSの直感的な操作感と、SDKを用いることで実装される固有のセキュリティは、非常に利点があります。関連するビジネスサービスはSAP Cloud Platformでホストされているため、これらのサービスをモバイルデバイス上のユーザーに公開することは本当に簡単でした。」

OnePlanは、ヴェスタスとITパートナーのインフォーカーズとで共同開発されています。インフォーカーズのビジネスエクスペリエンスデザイナー兼ソリューションアーキテクトのトーマス・オヴェ・ラスムッセン氏は次のように述べています。
「各アプリケーションは消費者の観点で評価され、ユーザーは直観的にアプリを探索し、使い方を同僚に教えることができます。ほとんどのユーザーは、iOS利用に慣れています。当然のことながら、直感的なユーザーインターフェイスはアプリの活用を促進します。」

「SAP Cloud Platformにより、3つの要件すべてを満たすことができます」とヴェガ氏は胸を張ります。

単純さを保つ

「Apple iOSは当社スタッフの間で非常に人気があります」とヴェガ氏は確信しています。
「このアプリは、役割に沿った適切な機能を提供します。私たちのユーザーはIT専門家ではありません。彼らは風力タービンを建設・保守するエンジニアです。だから私たちは、バックエンドは複雑でも、ユーザーにとっては単純なものを保たなければいけないのです。私たちの目標は、高い利用率を達成することです。当社のソリューションの成熟に伴って、他のシステムとの機能統合やさらなる統合を計画しています。」

ロール固有のアプリケーション

ヴェスタスのバックエンドアプリケーションは、APIを介してOnePlanソリューションに接続されます。これらのAPIは、サービス指向アーキテクチャ(SOA)に則りSAP Cloud Platformでサービスを提供します。ヴェスタスは現在、天候データベースをOnePlanに統合中です。同社は、地球上で最も正確な天気予報システムを組み込もうとしています。

現場監督は、OnePlanによって提供される包括的な情報を活用して、現場での建設活動の計画を最適化することができます。現場監督が現在のメンテナンス進捗、および物流データと天気予報に基づいて、14日先までの日別業務を計画できるようにすることが目標です。

建設労働者は、モバイルiOSデバイスを使用して進捗状況を報告できます。現場監督は、この情報を統合して、現場全体の作業進捗状況を追跡し報告することができます。高解像度スクリーンを使用して、OnePlanのコックピットは、建設現場の全体的な状況を視覚化します。この視覚化により、チームは実際の進捗状況と目標を確認したり、進行中の作業の現在のステータスに注釈を付けたり、建設プロジェクト全体の履歴を追跡して記録することができます。

情報検索者(通常はバックオフィスの従業員)は、更新された最新の進捗報告にアクセスしてドリルダウンすることができます。これにより、完成段階の異なるタービンの建設プロジェクトを追跡、視覚化、比較することができます。

OnePlanによって、世界中の建設現場、ベンダー、パートナー、および顧客との間に、タービン部品の流れ、現場での建設計画、などの情報交換が可能になります。拡大するにはクリックしてください。出典: ヴェスタス

より精緻な計画が時間とお金を節約する

ヴェスタスは年間約300の建設現場に携わり、一現場あたり最大150台のタービンが稼動しています。同社 は近い将来、SAP Transportation Managementを統合する予定です。これにより、インテリジェンスが会社の物流機能に組み込まれ、各建設現場ではタービン部品の流れを包括的に把握することができます。現場監督は、建設や保守に必要な部品の到着時刻を正確に知ることができます。最新の天気予報と組み合わせることで、現場での計画をより正確に、プロジェクトをより効率的、かつより確実に完了させることができるようになるはずです。

計画と、建設進捗に関するすべてのデータは、SAP solutions for business intelligenceでレポート、パターン化されます。建設現場のベストプラクティスを共有することで、ヴェスタスは業務の標準化を促進させます。ヴェスタスは、より正確な計画と効率的な運営によって、より優れた競争力のビジョンを実現する優れた体制を整えています。

AndroidのSDKも利用可能に

今年のSAPPHIRE NOWを機に、iOSに加えてSAP Cloud Platform SDK for Androidのリリースも発表されました。これによって、SAPのお客様はAndroidまたはChrome OSのデバイスでも高度なワークフローにアクセスできるようになり、iOSアプリとAndroidアプリの両方で、消費者が使い慣れた使いやすいモバイル環境を実現できるようになりました。どうぞご活用ください。

※本稿は公開情報をもとに筆者が構成したものであり、ヴェスタスウィンドシステムズ社のレビューを受けたものではありません。