航空機の遅延ゼロを目指して − シェル・エイビエーション社のデジタルトランスフォーメーション


石油業界スーパーメジャーのひとつであるシェル(正式にはロイヤル・ダッチ・シェル)には、シェル・エイビエーション(Shell Aviation)という航空燃料補給サービスを担う事業部門があります。世界中、すなわち、32ヶ国850の空港で事業を行っており、対象となる航空機の数は年間200万にものぼります。14秒ごとに1機の航空機に対し給油を行っていることになり、また、1日あたり7千2百万リットルもの燃料を供給しています。

年間36億もの人たちがビジネスやレジャーを目的として飛行機に乗っており、1日あたり180億ドルもの物資が航空機により運ばれています。世界の商取引全体の実に3分の1が、航空機によるものと捉えることもできます。シェル・エイビエーション社にとっても、この競合ひしめく大きな市場において、いかに他社に対し差別化していくかは、大きなチャレンジでした。そういった文脈の中、シェル・エイビエーション社は以下を目的として、デジタルトランスフォーメーションを推進しました(”Shell e-Aviation”プロジェクト)。

  • 航空機に対する燃料補給を徹底的に効率化する
  • 駐機場という「現場」とグローバル基幹業務システムをリアルタイムに連携させ、必要となるデータの自動連携と高度活用を図る

そのために”Skypad App”の開発を、SAP Cloud Platform上で進めました。駐機場でのオペレーションを徹底的に「デジタル化」し、基幹業務システムが担う請求プロセスなどとリアルタイムに連携することを可能にしました。これにより、燃料補給プロセスをさらに高速化し、デジタル化によるデータ品質の向上は、請求プロセスでのエラーを最小限にとどめることに貢献しています。

“Skypad App”は、タブレット端末で動作するモバイルアプリケーションです。燃料補給に必要なあらゆる情報を、個々のフライトに紐付けて取得し、可視化することを可能にしました。例えば、目まぐるしく変動する航空機の到着時刻をリアルタイムに正確に反映し、燃料補給の順序および場所を的確に把握することが可能となります。作業員が入力すべき情報は、メーター示度や補給時間などに絞り、徹底的に簡素化しました。あとはパイロットや保守担当のエンジニアから電子サインをもらうだけです。

このソリューションが提供した機能には、以下の要素も含まれます。空港の燃料補給業務における「エンド・トゥ・エンド」オペレーションを実現するために、デジタル化範囲を大きく拡張していることが分かります。

  • タブレット端末上でのデジタル「補給」チケットの取得
  • トレーラータンクと貯蔵庫の燃料在庫の見える化
  • 作業スタッフの名簿や勤務表の管理
  • 静的・動的なフライト情報の提供
  • 航空会社との必要な情報の連携
  • 現地当局へのレポートに必要な情報の管理
  • 上記機能の4ヶ国語による提供

テクニカル面でのハイライトもいくつか挙げておきます。

  • IATA*標準に準拠したモバイルタブレットの活用 *International Air Transport Association
  • タブレット端末がオフライン状態での機能提供
  • ユーザーエクスペリエンスへの配慮/トレーニング・展開に係る時間・工数の低減
  • 計測器事業者が提供する機器とのデータ自動連携
  • 作業完了報告書のPDF形式での提供

SAP Cloud Platformは、このソリューションの迅速な実現と今後の拡張性に大きく貢献しています。ビジネスに対し大きな柔軟性を提供し、データを「インサイト」に変換する能力は、シェル・エイビエーション社が高く評価するところとなっています。

“お客様の便益のために、イノベーションを推進しました。空港はスムーズで安全なオペレーションを求めており、航空会社はそのお客様を遅延なしに目的地に送り届けることが重要なのは言うまでもありません。Skypadは、そういったビジネスを支えるひとつの方策であり、彼らの競争優位に貢献しているのです。また、SAP Cloud Platformはグローバルレベルでの拡張性を提供します。ローカル特有の個別要件に対しても高い柔軟性で対処することが可能です。”(Victoria Guy, VP Downstream Cost Strategy, Shell Aviation)

データ連携の自動化により、これまでと比べ70%ものデータ入力が不要となり、またデータエラーも起こりにくくなりました。紙ベースの処理により24−48時間を要していたデータ連携はリアルタイムになりました。多くの情報とインサイトが適時・適切に提供され、需要計画やプライシングにも戦略的な意思決定を反映することが可能となりました(例:価格そのものとその決定タイミングのリスクを最小化)。そして何よりも、スムーズかつ迅速な燃料補給が可能となっています。ひとつの空港あたり実に13時間/日もの効率化が実現できました。今後、IoTや機械学習などの最新のテクノロジー要素技術の活用を進めていくことができるIT基盤を実現しています。

最後に、このソリューションの実現のために、「デザインシンキング」のマインドセットおよび方法論を最大活用したことは言うまでもありません。

※ソリューション事例の動画はこちら

※本稿は公開情報に基づき筆者が構成したもので、シェル・エイビエーション社のレビューを受けたものではありません。