アポロ・タイヤ:経営情報基盤構築からクラウド活用による顧客エンゲージメント強化へ
作成者:山﨑 秀一 投稿日:2018年6月21日
グローバルタイヤメーカートップ20のひとつであるアポロ・タイヤ社は、自社のデジタル活用を経て、得意先の業務オペレーションの最適化を支援するために、エンドユーザーにタイヤを提供する世界約3,500店舗とつながるディーラーポータルをクラウド環境に構築・稼働させて、グローバルに展開中です。
2020年までに世界トップ10入りを目指す
アポロ・タイヤ社は日本では馴染みが薄いかと思いますが、1972年にインドで創業した乗用車・商用車・農業機械のタイヤやチューブを製造販売する企業です。年間売上約2,000億円、世界100か国以上、全世界従業員約1万5千人、世界15位(売上基準)、自動車メーカーとの年間取引高の約3倍の買い替え市場の販路を持ち、中期経営計画では2020年までに世界トップ10入りを目指しているタイヤメーカーです。
この20年間の取り組みには目覚ましい成果があります。ブリヂストン、ミシュラン、グッドイヤーの3強市場占有率が60%から40%以下まで年々縮小を続ける中、他の新興タイヤメーカーと同様にアポロ・タイヤ社は着実に市場を拡大してきています。
世界の自動車産業をリードするフォルクスワーゲンやフォードとの取引を開始し、クーパータイヤの買収により北米の買い替え市場で独占的地位を築き、さらに韓国のクムホ買収に名乗りを上げて業界7位のハンコックを追い越す勢いで世界的に事業拡大を展開しています。
経営・業務・働き方の改革のための情報基盤構築・活用
100年以上続く企業が多いタイヤ業界で歴史の浅いアポロ・タイヤ社がグローバル企業として持続的成長を実現している背景には3つの情報基盤の構築があります。
1.経営の舵とりに必要な情報一元化のための経営改革情報基盤
施策:SAP ERPの導入
経営会議は、数週間も人手をかけて情報の収集・編集・加工により得られた資料の読み合わせの場ではなく、最新の事実にもとづいた議論と意思決定の場です。
その場で切り口(ブランド「Vredestein」・「apollo」・「KAIZEN」、販路「OEM市場」・「買い替え市場」、得意先、地域・国、車種・モデルなど)と指標(販売、生産、調達、在庫、品質、加工費、材料費、労務費、販売一般管理費、債権・債務、利益)を切り替えながら最新状況を確認・討議し、経営判断しています。
2.継続的な品質・価格・納期改善に向けた業務改革情報基盤
施策:SAP SCMとSAP MII(製造現場情報)の統合・可視化の導入
地域・国・工場ごとのルールとシステムでサイロ型に生産計画を立案していると、工場間での無駄な物流や欠品・余剰在庫が発生します。また工場内での製造実績や品質検査結果は、現場の機械設備のモニターを見ないとわかりません、工場ごとやグローバル全体での製造パフォーマンスの把握には人手により情報収集からレポート作成までの作業が発生します。
SCM・製造の業務情報基盤構築により、全体最適視点のサプライチェーンマネージメントを実現し、製造実績・品質検査のリアルタイムモニタリングが可能となり、顧客が求める品質・価格・納期への対応力を向上させています。
3.従業員の生産性向上を促す働き方改革情報基盤
施策:SAP AribaとSAP Concurによる省力化
アポロ・タイヤ社は管理のための組織と業務、紙文化による従業員の業務生産性低下を見過ごしていません。
SAP Aribaにより、購買部を経由せずに従業員一人ひとりが必要な時に間接材が購入できるプロセスを実現しています。もちろん購入品目・価格に応じて購買承認ワークフローが自動で起動し、不正な間接材購入を防止しています。
SAP Concurにより、出張前の宿泊先・航空券・レンタカーなどの予約から出張先で発生した経費精算までを自動化・半自動化し、経費精算の省力化と紙文化の最小化を実現しています。
顧客第一主義への挑戦
基幹業務領域に積極的にSAPソリューションを活用したのは、本来彼らがやりたかった顧客に向けた改革の効果を最大化するために、社内基盤をできるだけスピーディーに立ち上げたかったからです。
現在、アポロ・タイヤ社は、取引先の販売店業務とつながるオペレーション最適化の仕組みを構築・稼働させて、グローバル展開に取り組んでいます。世界100か国以上の販売店網のさらなる拡大にも柔軟・迅速・確実に対応できるスケーラビリティと要求されるサービスレベル・セキュリティを満たす365日24時間の保守・運用が提供されるクラウド環境:SAP Cloud Platformで世界中の販売店の業務と連携できるディーラーポータルが稼働しています。
導入効果
- ユーザー満足度50%向上
- サプライチェーン全体の在庫適正化
- 需要精度向上と生産・物流計画の適正化
- 販売店支援業務効率化と販売管理費削減
- 販売店の発注、入庫、請求書受領、支払までの業務効率化と省力化
- 販売店の余剰在庫や欠品の最小化
- ブランドロイヤリティ向上と取引増加
自動車産業メガトレンドとデジタル活用
自動車産業が直面しているメガトレンドの影響は、タイヤメーカーも例外ではありません。
アポロ・タイヤ社が競争優位性を高めて、この津波を乗り越えるには次のような「モノ&コト」の提供が必要と考えます。
コネクテッド:安全・安心を支えるすべてのタイヤの状態監視が期待されるでしょう。
自動運転:地面と唯一接点があるタイヤからの情報提供を求められるでしょう。
カーシェア:所有や愛車意識が薄れることでメンテナンスフリーなタイヤが好まれるでしょう。
電動化:航続距離を延ばすためにさらなる電力消費の小さいタイヤが要求されるでしょう。
アポロ・タイヤ社には、メガトレンドに打ち勝つクラウド、IoT(モノのインターネット)、機械学習、ビッグデータ、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)、ブロックチェーン、クラウドなどの先端技術を組み合わせたデジタルトランスフォーメーションの効果最大化の準備は整っています。
何故ならば、経営・業務・働き方改革の情報基盤や取引先・エンドユーザーとのエンゲージメント強化の情報基盤がすでに構築されて運用を開始しているからです。
※本稿は公開情報に基づき筆者が構成したもので、アポロ・タイヤ社のレビューを受けたものではありません。