SAP Select/SAP NOWで元JSUG会長が感じた、SAPの「新たな覚悟」とは?


2018年7月から8月にかけて、経営者向け招待イベントSAP Selectと、年次カンファレンスSAP NOWが開催されました。元ジャパンSAPユーザーグループ(JSUG)会長の都築正行氏に、今回の印象や評価、そして新たな課題についてお話を伺いました。

悩める日本の経営者にSAPの成長ぶりを示したイベント

2015年のSAP Select/SAP Forumから、毎年欠かさず参加してきたという都築氏。これまでデジタルトランスフォーメーションやオープンイノベーションなどの重要性を訴え、優れた実践例を国内外から積極的に紹介してきた経緯を踏まえ、今年注目していたのは、それらがどこまで進化を遂げているかだったと語ります。

時代の動向に意識的な経営者は、ITを活用してさまざまな変革を行わなければ生き残れないと知っています。またその内容も、働き方改革やグローバル化対応、ビッグデータ活用から、基幹ERPの刷新まで実にさまざまです。しかし社内にもパートナーにも、それを担う人材が育っていない。またアクションを起こそうにも、どう動くべきか見当がつかないと悩みを抱える企業が多く存在します。

そうした経営者にとって大きなブレークスルーのヒントとなったのが、コマツ 代表取締役社長 兼 CEO 大橋徹二氏のプレゼンテーションでした。製造業として優れた製品、顧客のニーズに合った製品を売るというスタンスからさらに踏み込んで、「お客様の課題を解決しパートナーとして選ばれる企業」を未来戦略に掲げていることを都築氏は称賛。さらに安全でスマートな建設現場を実現するためNTTドコモ、オプティム、SAPというICT企業と組んで新会社LANDLOGを設立した取り組みなど、コマツに学ぶべきものは実に多いと評価します。

都築正行氏今回のイベント会場で都築氏自ら、経営トップの方々に参加の狙いや目的を尋ねたところ、やはり改革の具体的な方法を知りたいという声が多く聞かれました。そうした意味で今年のイベントは、現在のSAPが、企業の多様な課題解決のための包括的ITパートナーに成長したことを広く知ってもらう格好の機会になりました。日本では今なおSAPをパッケージソフトウェアベンダーと見ている方は多く、そうした認識を改める上でも、今回のテーマ設定やセッション内容には十分なインパクトがあったと同氏は評価しています。

SAPの大胆な企業変革に学ぶべきものとは?

もう1つ印象に残った点に、都築氏はSAP自身の大変革を挙げます。売上高で見ると2010年の120億ユーロが2017年には240億ユーロ、つまり7年間で倍増しています。この大きな成長の背景には、SAPのトップの危機感が働いていました。

ERPを核に成長を続けてきたSAPは、安定した経営状態だからこそ、次の時代に向けて変わっていかなくては生き残れないと考えました。そこで歴代ドイツ人だった社長に、初めてアメリカ人を登用。さらにドイツから遠く離れた米国シリコンバレーに各国の優秀な人材を集めて開発にデザインシンキングの手法を導入するなど、前例のない試みを次々に打ち出します。さらに10年近く大規模な企業変革を繰り返し、多くの最先端IT企業を傘下に収めることで、企業や社会の課題を解決するトータルソリューションベンダーへ生まれ変わってきました。

「破壊的なイノベーションは、しっかりとできあがった既存の組織では生まれにくい。そこであえて遠く離れたシリコンバレーに『出島』を築き、自由な空気の中で革新的な発想を育て、そこから生まれた新しい成果を再び既存のビジネスに反映させ成長していくという手法をSAPは選んだのです。このような自己破壊とすら言える大胆な改革姿勢こそ、日本の経営層も見習うべきでしょう」

さらに都築氏はSAPジャパン会長の内田士郎が紹介した、イノベーションに必要な3つのキーワードである「People=異なる国の人々との交わりを通じたダイバーシティ(多様性)」、「Process=共通言語としてのデザインシンキング」、「Place=自由な発想を可能にする『出島』」に触れ、企業の自己改革には、この3つの「P」と、それを実現する経営者の危機感が何よりも重要と強調します。

SAPパートナーおよびJSUGの活動に大いに期待

SAP NOWでは、元SAP CEOで現ドイツ工学アカデミー評議会議長のヘニング・カガーマン博士が「インダストリー4.0、Society 5.0実現のために企業ITが果たすべき役割とは」と題して講演しました。カガーマン博士みずから代表として起草したドイツの「インダストリー4.0」は当初、製造業のモノづくりに特化していましたが、その後非製造業、デジタルプラットフォームへと範囲を広げ、社会全体のデジタルトランスフォーメーションへと発展。こうした成功の理由を都築氏は、カガーマン博士の提唱を国や企業、学会などがこぞって支え、国家プロジェクトとして推進してきたことにあったと見ています。

同氏が日本との大きな違いを感じた点は、組織がそれぞれの役割や責任を明確にした上で、各々の務めを精一杯なし遂げていることです。日本の産学官は、ともすればもたれ合いになる傾向があるため役割や責任がはっきりせず、結果についても明確にフォローしないきらいがあります。現在、日本政府が提唱しているSociety 5.0も、ドイツのようにそれぞれが強い主体性を持って参画できるかどうかが成否のカギになります。

一方で都築氏は、今後の日本企業のIT基盤の整備/強化に関して、SAPパートナーおよびユーザー会(JSUG)の活躍に大いに期待しています。今後のSAP製品はSAP HANAをベースとしたものが主流となり、必然的に基幹システムもSAP S/4HANAに移行していきます。とはいえ、一部の先進事例を除くと日本での活用はまだまだこれからです。

「SAP S/4HANAへの移行のメリットを、経営トップに説明できないIT担当者も少なくないと聞いています。また、SAP Leonardoを始めとした新しい製品群も続々登場してきます。SAPパートナーの皆様には、JSUGでのコミュニケーションと相互研鑽を通じて、企業が抱える課題への理解を深め、導入事例および最新ソリューションの提供に力を注いでいただきたいと願っています」

SAPジャパンの覚悟を示すイノベーションの試みに注目

都築氏は、SAPの長期的な社会貢献などの活動についても注目しています。その国内における取り組みが、デジタルトランスフォーメーションを目指す企業の共同イノベーションのためのオープンイノベーションコミュニティ「Business Innovators Network」で、企業や学術機関、ベンチャーキャピタルなどの多彩な顔ぶれで構成されています。

「このコミュニティを立ち上げたのは、SAPがシリコンバレーに設けた『出島』を日本でも作り、イノベーションの1つの核として、また起爆剤として活用していくというSAPジャパンの覚悟を示していると思っています。私も今回の発表を聞いて、すぐに会場で参加登録をしました」

都築正行氏都築氏は今回のイベント全体を振り返り、「パッケージベンダーとしては世界一で、またSAP Leonardoなど最新のIT技術とソリューションを誇るSAPは、あえてその地位に安住することなく自己変革に挑み、大きな成果を実現してきました。『Business Innovators Network』は、そうした創造的破壊の経験値を活かして、日本企業の変革に新風を吹き込もうという試みです。このSAPの豊かな知見を、私たちも活かさない手はありません。ぜひ日本の企業の皆様は積極的に参加し、共に新しいイノベーションの地平を拓いていきましょう」と力強く語りました。