データ駆動型行政—投資対効果の高い政策の実現


役所仕事は縦割りでたらいまわしにされる、そんなイメージを持っている人も少なくないのではないでしょうか。また、業界団体などの要請で政策や予算が決まり、国民が直面している真の課題、現実に起きている問題への対応が十分なされない、そんな不満を抱えている人も多いかと思います。

このような国民の不満に対し、我が国においては行政の透明性を高め、様々なデータ・事実を用いて政策立案を行うことに対し、数々の取り組みが実践されつつあります。

  • 行政事業レビュー
    蓮舫議員の「1番じゃないとダメなんですか?」を覚えている方もいらっしゃると思いますが、民主党時代に実施されていた「事業仕分け」は発展的見直しにより、各省庁が主体的に実施する 「行政事業レビュー」として毎年実施されています。 「行政事業レビュー」では、各種事業の予算執行状況及び成果を定量的定性的に検証し、翌年度予算概算要求及び執行に反映する仕組みとなっています。
  • EBPM
    急速な少子高齢化の進展や、厳しい財政状況の下、わが国の現状や直面する政策課題を迅速かつ的確に把握し、有効な対応策を選択し、その効果を検証することの必要性がこれまで以上に高まっています。一方、わが国では、政府の政策形成において統計や業務データ等が十分に活用されているとは言えず、往々にしてエピソード・ベースでの政策立案が行われているとの指摘がされています。
    このような現状に対応するために、関係行政機関相互の緊密な連携の下、政府全体として証拠に基づく政策立案(EBPM。エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)を推進する体制として、官民データ活用推進戦略会議が運営され、その中で設立された官民データ活用推進基本計画実行委員会の下に、EBPM推進委員会を開催し、「EBPM取組方針」の作成、「統計等データの提供等の判断のためのガイドライン」の作成、EBPMを推進するための人材の確保・育成などの各種取り組みを行っています。

本ブログでは、隠れた真因をみつけ、より効果的に予算配分を行い、透明性の高い”Data Driven Goverment(データ駆動型行政)”を目指し、実践しているインディアナ州の事例を紹介します。

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 ■目指す姿

データに対する価値を十分理解できている政府・自治体はまだまだ少数です。インディアナ州では、複雑な社会課題を解決するために、行政の保有する大量のデータを効果的に使うことを考えましたが、その時点では、各データは事業を主管する部署のみが閲覧できるものであり、また、データ品質も様々な状況でした。この状況において、ペンス知事(当時)はManagement and Performance Hub (MPH)と呼ぶデータプラットフォームを構築することで、データ活用の基盤を確立することを決定し、次に示すビジョンとミッションをトップダウンで定め、これに沿ってインディアナ州を「データ駆動型政府」に変革することを目指したのです。

■ビジョン
インディアナはアメリカ合衆国において、最も効果的で効率的で透明性の高い州政府になる

■ミッション
民間も包括するデータ駆動型管理システムを用いることで、産業を振興する

■データ駆動型政府実現に向けた基礎要素

インディアナ州は「データ駆動型政府」へ変革するために、「データ・ヒト・モノ」を見直しました。

  1. (データ)データ共有のルール化
    行政事務に伴う各種データは、所管部署が管理・利用していましたが、他部署での利用ルールは明確ではありませんでした。本プロジェクト開始時の2014年当初にペンス知事による行政命令により機密性の担保及びデータ共有のルールを規定し、データガバナンスとデータ保護のプロセスを職員全てに理解させました。その後、本命令は州の法律として規定されています。
  2. (ヒト)組織組成及び人材登用
    データを扱うにあたり、ITやアナリティクスの専門スキルの獲得が不可欠でした。また、様々な職員が自分事として「データ駆動型政府」を運営するためには、ITとビジネスの融合が不可欠でした。そのため、インディアナ州では、以下の3つの施策を実施し、中長期視点で「ITを活用した行政・ビジネスを自走できる」環境整備を行ったのです。
    ・ITチームと政策分析チームの融合
    ・テクノロジーセンターの創設
    ・データアナリスト等の外部人材の活用
  3. (モノ)システム導入=Management and Performance Hub (MPH)
    莫大なデータを横断的・俯瞰的な分析を行うためには、性能の良いデータベースと多機能な分析機能が不可欠となります。インディアナ州では、ビジネスを再定義し、イノベーションを生むソリューションとしてSAP HANA及びLumiraを選択しました。

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■具体施策:乳幼児死亡率低減に向けた取り組み

それでは、具体的にどのような施策検討を行ったのが、乳幼児死亡率低減に対する取り組み事例を見てみましょう。

2011年アメリカの平均乳児死亡率は6.1/1000であり、2005年からの6年間で12%低下しているのに対し、インディアナ州ではより高い7.7/1000となっており、アメリカ全州の下位20%の一つであったのと同時に、「改善が見られない州」と疾病管理予防センター(the Centers for Disease Control & Prevention)から指摘されていました。

そのため、州は本課題を重点取り組み事項として定め、この真因を探るために、50データセット、7ステージのデータ分析を行ったところ、従来想定していた「喫煙」、「飲酒」よりも、「妊婦検診受診数」の与える影響が大きいことがわかったのです。また、わずか1.6%の「ハイリスク妊婦」の出産が、乳児死亡の約50%を占めていることも分かりました。

これらのデータを活かし、更には妊婦それぞれの状況をモデル化し、個人の状況に合致したサポートを行うことで、より効率的にかつ効果的な対策を打つことができるようになったのです。

グラフ:妊婦検診受診数と低体重児出産率の推定

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縦軸:低体重児出産確率
横軸:妊婦検診受診数

赤:低額所得者向け国民医療保険被保険者
青:一般向け国民医療保険被保険者

出典:Reducing Infant Mortality in Indiana

■政策立案における効果

インディアナ州では、データ駆動型行政の効果を「予算の効率分配」「効果的な政策の実施」2点と考えています。

予算の効率分配:
・正しい政策に対し、適切な予算配分ができる

効率的な政策の実施:
・データに基づく資金調達により、よりよい政策が遂行できる
・対象を絞った宣伝・検討ができる

サイロ化してしまった縦割り行政の中、平準化した行政サービスを広く浅く提供していた時代は過去のものであり、データを「行政全体・全ての部署のもの」として扱い、ひとりひとりの国民に個別化した行政サービスを効率的に提供する、そんな時代が来ているのです。

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画像をクリックすると動画が再生されます(2分30秒)

■日本の現状と将来展望

冒頭で紹介した通り、日本でもEBPMの取り組みは活性化しており、また、オープンデータの提供・活用も様々な形で進められようとしています。まずは、紙分野の脱却に向けては、2018年秋にはデジタルファースト法案が提出される見込みであり、また、電子決裁の全面的な導入方針も出ています。

デジタルファースト法案の検討状況

電子決裁移行加速化方針

現時点の各種データは電子データの形で「使う」という観点で整備されたものではなく、使うに当たっては様々な加工が必要な場合が少なくありません。デジタルファースト法案等を契機に、紙文書での可読性よりも、電子データでの活用可能性が強く意識される時代はもう間もなくやってきます。ますますデータ量が増大し、その活用が重要となるほんの少し先の将来において、SAP HANAをはじめとするSAPのデータ関連ソリューションは、強力な武器になることは間違いありません。

紙文書から電子文書の過渡期な今、すべてが電子処理され性能が重視される少し先の将来、行政においては、これらが連続的なイノベーションとして実現されることが不可欠であり、SAPジャパンは「統計データの充実」だけではないEBPMを支援していきたいと考えています。

※本稿は参考文献をもとに筆者が構成したものであり、インディアナ州のレビューを受けたものではありません。

参考文献:

https://blogs.saphana.com/2015/05/18/state-indiana-lowers-infant-mortality-help-sap-han
https://www.ksmconsulting.com/case-study/state-indiana-management-performance-hub/
https://www.in.gov/omb/files/Infant_Mortality_Report.pdf