オープンイノベーションを推進する「JAL Innovation Lab」 100社超のパートナーと多彩なサービスを開発


格安航空会社(LCC)の台頭もあって競争が激化する航空業界。受けて立つ国内大手の日本航空株式会社(以下、JAL)は、安全運航はもちろんのこと、搭乗前から搭乗後までお客様の快適性を向上する取り組みを進めています。その一環として、2018年4月に新たな付加価値やビジネスを創出するオープンイノベーションの拠点「JAL Innovation Lab」を開設。100社を超える外部パートナーと連携して、多彩なサービスの実現を目指しています。
JAL イノベーションラボの写真

航空ビジネスのあらゆる領域でイノベーションを創出

JAL02SJAL Innovation Lab(以下、イノベーションラボ)は、「2017~2020年度 JALグループ中期経営計画ローリングプラン2018」で掲げているJAL Visionから生まれた施策の1つです。JALでは、グループ社員約3万3,000人の人財とテクノロジーを融合してイノベーションの創出に取り組んでいます。グループ社員のアイデアや“こうしたい”、“こうありたい”といった想いと100社を超えるパートナーのテクノロジーをイノベーションラボという場で掛け合わせ、イノベーションを生み出していきます。

JAL 執行役員 イノベーション推進本部長 西畑智博氏「イノベーションラボでは先進テクノロジーでアイデアをすばやく形にし、未知の領域をビジネスチャンスに転換することを目指しています」とJALの執行役員でイノベーション推進本部長の西畑智博氏は語ります。イノベーション領域は、カスタマージャーニー(お客様の出発前から到着後まで)に関わる新たなサービスの創出から、貨物、整備、間接部門などのオペレーション改革まで多岐にわたります。情報提供にVRやARを使う、お客様サービスにAIを活用する、貨物の搬送にロボットを活用する、空港のオペレーションや旅先でのサービスにIoTを活用するといったように、あらゆる領域でイノベーションが可能です。空港内、航空機、整備工場などの現場では試すことが難しいアイデアも、イノベーションラボならスピーディにプロトタイプテストができると西畑氏は強調します。

イノベーションラボは、東京・天王洲のJAL本社から徒歩5分の運河エリアに開設。倉庫を借りて約2カ月で改修しました。約500平米のフロアには、空港カウンターを模した受付、機内食などの調理が可能なキッチン、搭乗ゲートや客室モックアップなど、空港や機内サービスのアイデアを試せるような作りになっています。ミーティングルームやハドルルームでは各種の議論が交わされたり、3Dプリンターを備えたクラフトルームでは、ラボで浮かんだアイデアをその場でプロトタイプ化して検証したりすることも可能です。

デザインシンキングで固定概念を打破する

JALでは、社員が自らの力で、地に足の着いたイノベーションを起こすため「4つのP」で表される「JALイノベーションプラットフォーム」創りを進めています。具体的には「People(お客様・社員の気付き)」「Place(イノベーションラボ)」「Process(デザインシンキング)」「Partnership(オープンイノベーション)」です。

空港のチェックイン体験を見直すプロジェクトには、デザインシンキングを取り入れました。お客様のニーズをリサーチする従来の手法に、提供側であるJAL社員の気付きを組み合わせたのが始まりです。今までの思考に慣れていると、従来のオペレーションを効率化する観点で考えてしまいがちですが、デザインシンキングを取り入れたことで、固定概念を打破することができたと西畑氏は振り返ります。導入の前には、シリコンバレーにあるSAPのPalo Alto Labsなども視察してJALに合った方法を模索。現在は、外部のパートナーにファシリテーションの支援を受けながら議論を進めていますが、将来的にはJALの社員だけでも進行できるように経験を積み重ねています。
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また、オープンイノベーションの活用も重要な施策です。JALでは、一緒にサービスを提供したいパートナー企業とは、事業規模を問わず積極的に提携しています。好例の1つが、JAL便を利用して2017年のホノルルマラソンに参加されたお客様に、ICチップ付きの専用オリジナルバンドをプレゼントした「JALアロハバンド」のプロジェクトです。バンドを付けたランナーが、マラソン中にJALのサポートランナーを見つけてタッチするとマイルがもらえたり、マラソン後もトロリーバスに乗れたり、コンベンションセンターや提携店舗で関連グッズがもらえたりする企画を実施しました。この企画はNTTドコモ、大日本印刷と共同で実施され、検討からオリジナルバンドの製作までわずか2カ月というスピードで実現しています。

その他に、ソニーモバイルコミュニケーションズと実証実験を行っているヘッドセット型スマートデバイス、AIスピーカーの「Amazon Alexa」を使った運航状況検索サービスなどもあります。さらに、ビジネスクラスのアップセルにVR技術を使って体験型のプロモーションコンテンツを構築するなど、さまざまなオープンイノベーションが進行中です。国内だけでなく、イスラエル、シンガポール、シリコンバレーなど世界中の企業からの問い合わせもあり、プライオリティに沿って進めていく方針です。

あらゆる人を巻き込んでアイデアを形にする「TEAM ZOO」

イノベーションラボの運営を担うのは、2017年6月に新設された「デジタルイノベーション推進部」です。マーケティングやeコマース部門を歴任してきた西畑氏を筆頭に、空港、客室、IT、海外支店といった部門からの異動者、キャリア採用者など、幅広い職歴を持つメンバーで構成されています。今後は、専任メンバー以外にも、整備、運航、販売など各部門との兼務者を任命し、あらゆる部門との連携を目指していきます。その他にも、JALグループの全社員を対象に、いつでもラボに来てアイデアを試せる「ラボ会員」を募って、コアメンバー、兼務者、ラボ会員の3層構造で運営していく考えです。さらにJALグループを問わず、ラボの考え方に賛同するすべての人を総称して「TEAM ZOO」と命名。あらゆる人を巻き込みながらイノベーションを推進しています。

TEAM ZOOのロゴ「ラボでは今まで1年かけてやってきたことを、3カ月で実行するスピード感を意識しています。2018年度は、第1期で土台ができましたので、第2期でプロジェクトの芽を作り、第3期で具体的なサービスをリリースし、第4期でイノベーションや巻き込みの結果を検証していく予定です。失敗もポジティブに捉え、『ワクワク、楽しく!』をキーワードにイノベーションを起こしていきます」と西畑氏は熱く語っています。

JALとSAPの協業の歴史は古く、JALが2000年から取り組んできた“企業グループのあらゆる側面をe化する”という「e-JAL」プロジェクトにもSAPは深く関わってきました。SAP ERPをベースとした基幹業務システム(2002年稼動)に加え、航空機整備管理システム「JAL Mighty」(2008年稼動)では航空機および膨大な部品の情報が可視化され、効率的な整備と安全運航に貢献しています。両社のパートナーシップは現在も継続中で、あらゆる側面からデータ活用の取り組みが進んでいます。

●「JAL Mighty」の紹介記事
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