モデルナ・セラピューティクス — ”真の”デジタルバイオテクノロジー企業へ


海外先進企業のシステム導入で感じるのは、ビジネス観点からの簡潔な実現目的とわかりやすい数値目標が定義され、たとえ大勢の出自の異なるメンバーが関与しても、いつでも原点に立ち返って共にゴールを目指せる爽快さです。ちなみに私のSAPキャリアのごくごく初期に縁あってアメリカの医療機器メーカーのSAP ERP導入プロジェクトに参画した際のプロジェクトの目標は、「18ヶ月で世界10拠点にSAP ERPを導入しシングルインスタンスで真のグローバルサプライチェーンを実現」でした。実は18ヶ月で世界10拠点というのは当時の世界最速記録ですが、必ずしも記録を狙った訳ではなく、とにかく早く実装しビジネスに生かしたいという経営トップの要求を数字にしたものです。このプロジェクトは1997年のSAPPHIRE NOWで紹介されて大きな反響を呼び、自ずと他社のERP導入にもこの記録は意識され、程なくして別のアメリカ企業によって記録は破られました。また、医薬品・医療機器メーカーにとってグローバルシングルインスタンスが業界標準になっていったきっかけでもありました。

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誰もまだやっていないことを目指し実現するのは、当時はあまり使われない言葉でしたが、今風にいえばまさに「イノベーション」です。お陰様で医薬品・医療機器業界はほとんどがSAPのお客様で、メガファーマと呼ばれる企業とSAPとの共同開発によって新たなソリューションが世に出ることが多いのですが、新進気鋭の企業によって更なるイノベーションが起きたことで、業界の常識が変わりつつあります。

 

◾️モデルナ・セラピューティクス社について

モデルナ・セラピューティクス社は、メッセンジャーRNA(mRNA)治療薬およびワクチンの発見と開発における先駆者です。これは、身体の細胞に対して治療や予防といったメリットをもたらすことができる細胞内タンパク質または分泌タンパク質を生成する全く新しいクラスの医薬品です。彼らが持つ画期的な医薬品開発プラットフォームにより、幅広い病気や症状のためのmRNA医薬品を世に送り出しています。

メッセンジャーRNA ・・・リボ核酸 RNAの一種で、遺伝子であるデオキシリボ核酸 DNAの塩基配列を鋳型として合成され、この DNA鎖と相補的な塩基配列をもつ。伝令RNAともいう。mRNAと略す。mRNAは核内で酵素的に合成されてから細胞質に出て、リボソーム上に結合し、蛋白質合成におけるアミノ酸の配列を指定する遺伝暗号の役割を果たす。遺伝暗号であるコドンの一覧表は、DNAではなく mRNAの塩基配列についてまとめられている。一定時間、蛋白質合成に用いられた RNAは、分解されてヌクレオチドとして再び新しい RNAの合成に用いられるが、この代謝回転の速度は、細胞の種類などによって異なる。

出典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

その医薬品開発プラットフォームを使用し、同社は堅牢なデジタルおよびオートメーションベースのインフラストラクチャーを活用して、ある時期の24ヶ月間で同社は希少肝疾患、感染症および心血管疾患、腫瘍の領域で19の創薬パイプラインを構築しました。バイオテクノロジー業界においては極めてユニークな企業であり、さらには業界を超えて、2015年にはCNBCによるディスラプター(破壊的イノベーションを作り出す企業)トップ50の頂点として発表されました。>>Meet the 2015 CNBC Disruptor 50 companies

mRNAのソフトウェア的なデジタル性によって、アンメット・メディカル・ニーズ(いまだに治療法が見つかっていない疾患に対する医療ニーズ)領域で潜在的な治療法をより効率的に特定して進めるために、mRNAサイエンスを活用して新しいタイプのバイオテクノロジー企業が誕生しました。同社はまた、そのmRNAプラットフォームがある疾患の治療に有効なら、他の類似の疾患の治療も可能であるはずという基本的な考えに基づいています。この戦略を推進するためのコアは、コアIT、研究開発、製造からフロントビジネスまでの全ての機能を統合する業界初のデジタルインフラストラクチャーを基盤としています。2011年創業の非常に新しいバイオテク企業であり、真に差別化されたテクノロジーへのアプローチを採用しています。

◾️成長のためのデジタル完全統合

2016年、新たに建設する20,000平方フィートの製造施設をサポートする一環として、同社はSAPソリューションを採用し、財務および製造領域のプロセスをデジタル化しました。同社のビジネスとSAPソリューション採用の目的は、Chief Digital OfficerのMarcello Damianiが語っています。

 

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「当社は急速に成長しているため、最初から基礎をしっかり構築しなければ、将来的な創薬や企業規模の成長を損ないかねません。高レベルの統合を実現したかったので、財務や製造も全て統合する目的でSAPソリューションを導入しました。当社の戦略のひとつは”完全統合”です。」  — Marcello Damiani, Chief Digital Officer, Moderna Therapeutics

動画再生はこちら(3分)

◾️かつては不可能とさえ言われたクラウドベースのGMP対応を実現

フェーズ1: 2016年末までに、SAP S/4HANAに基づく完全な財務および製造領域のデジタル化が完了。同社はAmazon Web Services(AWS)を使用してSAPソリューション環境を構築しており、特筆すべきは、同社が製造業者(外国製造業者含む)および製造販売業者に求められる「適正製造規範」(製造管理・品質管理基準)であるGMP(Good Manufacturing Practice)対応をクラウド環境で実現した世界で最初の企業のうちの一社であることです。  >>  SAP & Moderna on AWS

さらにこの時期、SAP S/4HANAの実装に加えて、SAP SuccessFactors、SAP Concur、SAP BusinessObjects、およびSAP Fioriを完全統合モードで実装し、約600ユーザーを対象としたエンドツーエンドの購買〜支払プロセスを完成させました。

フェーズ2: 2017年にSAP S/4HANA 1610バージョンに移行し、製造に加えてサプライチェーンモジュールも導入しました。

これらによってエンドツーエンドのプロセスがデジタル化され、SAP S/4HANAはManufacturing Executing System、Laboratory Information System、HR、同社による内部開発アプリケーション、SAP SuccessFactors LearningおよびSAP Concurを含むアプリケーションエコシステムと統合されています。

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◾️Building THE Digital Biotech Company

モデルナ・セラピューティクス社の革新的姿勢と取り組みに対して、SAPは今年、SAP Innovation Award 2018のデジタルトランスフォーメーション部門の賞を贈りました。 >> SAP Innovation Award 2018 Winners

元々、CEO Stéphane Bancelのメッセージは非常に明快でした。「私にとってデジタル化を一気に進めることは、好機が到来しただけでなくこの会社が成功するための必須要件であることは非常に明白でした。私がMarcello(CDO)に期待したのは、”真の”デジタルバイオテクノロジー企業を築くことでした。」

CEOの期待に対して、Marcelloはこう答えています。「現在、すべての事業部門でSAP S/4HANAを使用しています。私たちは、プロセスやデータの品質、さらには規模を拡大する能力を大幅に向上させています」

さらにこうも答えています。「今日では、データ解析とAI適用に足るだけの膨大な量の情報を保持しています。」今後のさらなる飛躍を感じさせます。

◾️イノベーションが業界標準を変えていく

技術革新や新たなビジネスモデルの創出のみならず、システム導入の領域でのイノベーションを、改めてモデルナ・セラピューティクス社が教えてくれた気がします。

今年7月、Japan SAP Users’ Group(JSUG)が開催したJSUG Focus 2018 医薬品部会セッションでは、クラウド環境におけるComputerized System Validation(CSV)対応についてのディスカッションの場が持たれました。「変化はテクノロジーに伴って大きな影響を与え、コミュニティーを変える場合もある」というモデルナ社CDO Marcello Damianiの言葉は、既に日本でも現実になっています。

既存の法制度に受け身で対応するのではなく、むしろテクノロジーを活用して凌駕していく気概と工夫をモデルナ社から学び、SAPジャパンはお客様のデジタルトランスフォーメーションをご支援していきたいと考えています。

※本稿は公開情報に基づき筆者が構成したもので、モデルナ・セラピューティクス社のレビューを受けたものではありません。