メルセデスベンツ:CASE戦略とフォーミュラE参戦への挑戦


メルセデスベンツのモータースポーツ部門のメルセデスEQフォーミュラEチームは、フォーミュラEチャンピオンシップに参戦します。FormulaE

チーム名のEQとは、エレクトリック・インテリジェンスを意味し、エモーションとインテリジェンスというメルセデスベンツのブランド価値に由来しています。フォーミュラEは、従来の内燃機関を持たない電気自動車によるスプリントレースです。Daimler Case

フォーミュラEは、メルセデスベンツを含むダイムラーグループが中長期戦略として掲げるCASEの「E:電動化」に直結した、優先且つ重要な取り組みとして位置づけられています。

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モータースポーツの変化点

自動車業界は100年に一度の大変革時代に突入しています。自動車メーカー各社は、とりわけ「電動化」「自動運転」「コネクティッド」「所有から使用」の四大市場ニーズに応える事業戦略を打ち出し、投資の矛先はそれらに集中しています。

ドイツ自動車メーカーの雄であるメルセデスベンツは、「乗用車」「商用車」のビジネスだけでなく、モータースポーツビジネスの分野でもその大潮流への舵取りを決断し、フォーミュラEのシーズン6(2019年秋~2020年夏)への新規参戦へ踏み出します。一方、ガソリンエンジン車によるDTM(ドイツツーリングカー選手権)からは2018年度に撤退します。

モータースポーツおいてもメルセデスベンツの競合であるポルシェは、ル・マン24時間レースに代表されるWEC(世界耐久選手権)から撤退し、フォーミュラEへ参戦することを決定しています。

ポルシェのモータースポーツ活動方針の詳細はこちら

新たな顧客エンゲージメント

フォーミュラEは、F1とは似て非なるモータースポーツです。

  • 排気ガスゼロの電気自動車普及促進に貢献
  • リゾート地や大都市などの市街地がレース場
  • 練習走行、予選、決勝が一日で開催される
  • フォーメーションラップは行わない
  • SNS連携した人気投票とファン・ブースト制度
    > 上位3人は本番レースのある時間帯、モーター出力増強が許される
  • バッテリー残量の実況
  • 電欠前の乗り換え
  • 使用できるタイヤ、モーター、バッテリーパック、ギヤボックスに上限がある

持続可能なモビリティとして環境に優しい電気自動車の普及を狙いとしたレース場の設定、電気自動車の特徴を活かしたレース運営、支持層拡大に向けたSNS活用、ファンエンゲージメントのユニークな取り組みを提供するフォーミュラEは、これまでにないモータースポーツの姿です。

フォーミュラEの狙いは、メルセデスベンツの持続可能性を重視したCASE戦略を踏まえた同社モータースポーツ部門の目指す姿と一致しています。

これまでF1で培った高出力モーター・回生エネルギーシステムをはじめとする最先端テクノロジーや豊富なレース経験はフォーミュラEの舞台で戦闘力を高めます。また、全世界中のメルセデスベンツ顧客基盤は、支持層拡大やファンエンゲージメント強化の有効打となります。

メルセデスベンツは、「メルセデスEQフォーミュラEチーム」をさらに強くするために、新しいテクノロジーを活かした共同イノベーションを推進するビジネスパフォーマンスパートナーとしてSAPと長期契約を締結しました。

レーシングに貢献するSAPデジタルプラットフォーム

 ケース1.SAPソリューションは、これまでメルセデスAMGのハイパフォーマンスチューニングエンジンの製造工程における品質不良課題解決に使われています。AMG Engine Test Bench

SAPのデジタルプラットフォームのSAP HANA、SAP Predictive Analytics、SAP Quality Managementは、エンジン一台あたりの品質不良発見に要した時間を50分から2分間に短縮しました。AMGブランドとして販売されているクルマは2017年度実績で約13万2千台です。仮に不良発生率5%で計算すると年間あたり5,000時間以上のロスタイム解消に貢献したことになります。

さらに高価で台数に限りがあり、ボトルネックリソースのひとつであるエンジンテストベンチの稼働率改善は、工場全体の車両生産台数を大きく向上させています。

AMG Process BeforeAfter

ケース2.F1名門チームのマクラーレンにおいては、サーキット走行中のF1に搭載されている120個以上のセンサーからリアルタイムに送信されてくるテレメトリーデータのパターンにもとづく、過去5年間の膨大な走行データを従来システムの10,000倍の超高速検索により、F1マシンをベストコンディションに素早く且つ高い品質でチューニングの実践に通じるソリューションとして、SAP HANAが使われています。

マクラーレンをSAP HANAでもっと速く!徹底したデータ主義が変えるビジネスの動画はこちら

McLaren走行ダッシュボード

ケース3.マクラーレンは、レースの勝敗へのこだわりのみならず、サーキットに応援に来てくれたファンサービスにもデジタルを活用しています。これまでの来場者はF1マシンがサーキットを走行している時間を楽しむことはできたものの、それ以外の時間の大半を持て余していました。そこでマクラーレンはファンサービスの一環として、マクラーレンファン専用のiPadアプリを提供し、サーキットに来場してから帰宅するまでの間、最大限楽しい一日を過ごしてもらい、さらなる顧客エンゲージメント強化を実践しています。

来場したファンは、まずVIPルームでイタリアンモーニング、VIPツアー、フレンチシェフによるランチ、マクラーレンF1ドライバーとの対談、本番レースではiPadで走行中のF1マシンのポジションや走行状況を鑑賞しながら目の前を爆音を響かせて通過してゆくF1マシンを応援し、レース終了後はマクラーレンの市販車の購入サイトで世界に一台しかないフルカスタマイズカーのコンフィグレーションを通じてディーラーへコンタクトするといった顧客視点でのサーキットを最大限楽しめるデジタル活用をSAPが提供しています。

McLaren FanEngagement

メルセデスEQフォーミュラEチームとは、SAPがこれまで提供してきたさまざまなデジタル活用をレベルアップしたソリューションを活用することなると思います。

電気自動車特性を活かしたテレメトリーデータ解析によるフォーミュラEマシンの性能向上、ファンエンゲージメントを通じた電気自動車の普及とEV事業への貢献、レーシングビジネスのバックボーンとなる設計開発業務、部品・ユニット調達、生産、会計、メカニックはじめとするタレントマネジメントや委託研究者との協業などの経営情報管理にSAPのデジタルイノベーションが展開されてゆくと、私は推測します。

SAPがメルセデスベンツ社のCASE戦略で謳う持続可能なモビリティをモータースポーツの舞台で実践するフォーミュラEに関わり、また、自動車業界全体のカーボンニュートラルへの道を切り開いてゆくことをお客様と一緒に推し進めていけることに、ドライビングが趣味な私としては人一倍大きなやりがいを感じながら期待と興奮で心を弾ませながら取り組んでいます。

※本稿は公開情報に基づき筆者が構成したもので、メルセデスベンツ社のレビューを受けたものではありません。