インダストリー4.0、Society 5.0時代のインテリジェントエンタープライズの実現とは:SAP NOW基調講演レポート


2018年8月2日に開催された年次カンファレンス「SAP NOW」。SAPジャパン代表取締役社長の福田譲とSAP Chief Innovation Officerユルゲン・ミュラー、そして、ドイツ工学アカデミー(acatech)評議会 議長 へニング・カガーマン氏による講演の模様をレポートします。

スポーツ界でも進むデジタルトランスフォーメーション

福田とミュラーは、企業がインテリジェンスを身に着けることの意味、そしてSAPが提唱する「インテリジェントエンタープライズ」というテーマで登壇。福田はまず、スポーツ/ビジネス領域における事例を紹介しながら、どのようにお客様のデジタルトランスフォーメーションを支援するかを解説しました。

ビジネスとスポーツは一見、全く異なるものですが、自身のパフォーマンスを上げることで結果を出すという意味でゴールは同じです。スポーツ界では、最新技術を駆使してデータドリブンに物事を変えていくことで、パフォーマンスを向上させるという取り組みが進んでいます。SAPは、多くのスポーツをテクノロジーで支援しており、その代表例がサッカーです。

2018年のサッカーワールドカップは、シュート数、パスの成功率、個々の選手の走行距離など、試合を構成するあらゆる要素が特殊なカメラによりデータ化され、試合中にモバイルデバイスを経由してデータを活用することが許された初の「デジタルワールドカップ」となりました。ITを駆使した取り組みのルーツは、SAPが支援した前回大会のドイツチームです。ドイツは2006年からデータサッカーに取り組み、膨大なデータの収集と分析から「パスを早くまわすことが勝利に繋がる」という仮説を導き出し、ワールドカップで勝利しました。過去には手作業によって1試合2,000件程度取得されていたデータは、現在ITの活用で4,000万件に激増しています。

SAPジャパン代表取締役社長 福田譲ここではデータ活用例として、若手選手の育成に関するビデオが紹介されました。ある室内練習施設では、壁面のいたるところからボールが打ち出され、選手が瞬時に対応して所定の場所にパスを繋ぐトレーニングを実施し、苦手とする動きを徹底的に補正しています。パフォーマンスを変えるための重要なKPIを発見/設定し、関連する詳細データを取得。そして創出されたインサイトから物理世界を変えるのです。「ものづくりに置き換えると、生産ラインからのデータを分析し、得られたインサイトを基に、最終的にモノの造り方までも変えていくということです。重要なのは、単なるデジタル上での発見に留まらず、現実的な世界に変革の流れが戻される点です」と福田は強調します。

SAPが提唱する「インテリジェントエンタープライズ」とは?

続いて登壇したミュラーは、人類の歴史からスタート。火の発見から頭脳の発達、言語の確立に至る流れの中で情報の共有が可能となり、共同作業ができるようになった点を紹介し、約7万年前に起こった変化と同様の動きが、今はAIや機械学習によってもたらされつつあると話します。画像認識では現在、人間の95%に対してAI/機械学習は97%の認識能力を持ち、特定の領域のタスクでは既に人間を凌駕しているといいます。今後7年間で、現在人間が対応している仕事の約60%が自動化されるだろうという予測すらあります。

インテリジェントエンタープライズの構成要素一方、ITの歴史はどうでしょうか?1960年代、最初のエンタープライズシステムが開発された後のSAPの歩みを辿ると、1972年の設立当初は経理・会計関連のシステムを提供する形でスタート。その後、各種機能が追加され、現在は、「インテリジェンスエンタープライズ」を提唱。企業の方々がより高負荷価値な仕事に注力できるよう支援しています。

世界のCEO、CIOが求めるのは、カスタマーエクスペリエンス、サプライチェーン、デジタルコア、人々のエンゲージメント、そしてネットワークおよび支出管理と言われます。インテリジェントエンタープライズという考え方の下、SAPでは、すべての事業部門でLOBソリューションを提供し、これらの要件に対応。すべての要素は接続(コネクト)され、SAPの標準アプリケーション基盤であるデジタルプラットフォーム上で、AI、機械学習、IoT、アナリティクスなどのインテリジェントテクノロジーにより処理されます。「日本では約50%の業務システムが内製されていると聞いているが、重要なのは接続性とグローバルな展開にも耐えうる拡張性」とミュラーは強調します。続いてAIと機械学習が提供された事例として、売掛金管理のフローを例にしたデモを紹介。SAP Leonardoを取り入れたこの事例では、通常のSAPアプリケーションによる50%の効率化を、学習効果により94%まで高めています。

すでに多くの企業で始まっているイノベーションとBusiness Innovators Network

Business Innovators Network参加企業再び登壇した福田は、イノベーションの実例としてコマツのスマートカメラやドローンを活用したLANDLOGプロジェクト、デザインシンキングを使い、プラットフォームやデータを活用してエコシステム全体で建設工事を革新したトラスコ中山などの事例を紹介。さらなるイノベーターとの協業に向け、SAPジャパンが日本で立ち上げたBusiness InnovatorsNetwork(BIN)とその活動拠点TechLabを紹介し、さらにBINに賛同するライオンの事例ビデオも紹介しました。
最後に福田は、「ユーザーに何がほしいか尋ねるのでは何も創造されません。いろんなものを掛け算して、私達がビジネスをリードしていくのです」と会場に呼びかけました。

インダストリー4.0、Society 5.0実現のために

基調講演の後半では、へニング・カガ―マン氏がインダストリー4.0およびSociety 5.0について講演を行いました。「既に2011年にはこの考え方を持っていました」と切り出したカガーマン氏は、目的は経済危機を経験したドイツの競争力向上にあったと語ります。

ドイツ工学アカデミー(acatech)評議会 議長 へニング・カガーマン氏同氏は、インダストリー4.0と3.0(コンピュータとその接続)との違いは、コアになるデータにあると説明しました。データを十分に作り出し、デジタルシャドウを築くことで、どの工程で何が発生しているか把握し、可視化できるようになります。さらに予測により、将来的に起こるであろうことへの備え、予防保全などが実現されるのです。
確立されるのは、「自律」した工場や企業。インテリジェンスを基に拡張を行うことで、物理的な世界までも変革することが可能となります。データの重要性を強調するカガーマン氏ですが、その実現にあたってはAIや機械学習などITによる支援と同時に、パートナーシップ=ヒトによる支援が不可欠と考えています。

AIも重要な役割を果たします。センサー技術の向上で容易かつ大量にデータが取得できるようになった現在、それらを基にAIを活用することで「品質の担保」が可能になった点が非常に重要です。また、今後ERPを拡張するにあたっては、ネットワークと自律システムが不可欠であることも指摘します。「ソフトウェアアーキテクチャーの未来像」、「ビジネスのバイモーダル化」と話が進んだ後、SAPジャパンの村田からビジネスの最適化/差別化に関わるビデオが紹介されました。最適化については、ドイツの部品メーカーであるコンチネンタル社、差別化については大手製薬会社であるベーリンガーインゲルハイム社の事例です。前者は車両からの収集データを自社のみならず外部に提供、後者は偽造薬の検出に向けた業界全体でのトレーサビリティの確立がハイライトされました。

コネクテッドプロダクトからデジタルエコノミーへ最後にカガーマン氏は、多くの企業が新たな取り組みを開始している中、重要な課題を3つ挙げました。標準化、製造の機能の接続、ビジネスの接続(コネクテッドビジネス)です。最終的に確立されるデジタルエコノミーでは、国家間での協力というもう1つの要素が必要となってくると強調しました。

国際的な協力/連携においては、標準化、参照モデル、そしてテストベッドが焦点となります。そして、日独の良好な関係がプラスに働く点について言及したカガーマン氏は、「日本とドイツが協力すれば、お互いに学習を進めることができるはずです」と述べて講演を締めくくりました。

多くの事例が紹介された今回の基調講演は、数々のテクノロジーによってデジタルトランスフォーメーションが新たな展開を迎えているという事実を強く印象付けるものとなり、講演後の聴講者の表情には新鮮な驚きと共に、最新テクノロジーへの大きな期待が伺えました。