保険会社におけるデジタルトランスフォーメーションの波 — 多様かつ複雑化を増すリスク算定・評価と各規制対応への最適な策とは?


既に世界中の保険会社の間でデジタルトランスフォーメーションの勢いは加速し続けており、日々、InsurTech(Insurance(保険)とTechnology(テクノロジー)から成る造語)に代表されるIT技術の進展によるさらなる競争激化などの経営環境変化にタイムリーに対応し、持続可能なビジネスモデルを構築することが、業界全体としての課題と言われています。

abstract motion-blurred view from the front of a train in Tokio, Japan

例えば監査の実務面からは、US GAAPや新たな保険契約会計基準(IFRS第17号)の導入が進めば、海外保険会社や他業界との比較、将来予測に基づく経営管理を行う必要があります。それと同時に経済価値ベースの枠組みの導入が求められ、特に予測・見積りの信頼性をいかに担保・確保していくかという課題が顕著となることでしょう。これは、前提条件や枠組みの違いが会計報告用の確定数値にも大きな差異を生じることから、その差異の原因特定やそこから何を紐解き、経営自体にどう活かせるかという視点が今後の競争力に大きな影響を及ぼすことになると考えられます。

Swiss Reの取り組み

世界最大級の再保険会社Swiss Re社は、これらの問題を新たに解決するために2017年2月からSAPと共同でイノベーションプロジェクトを立ち上げて来ました。この共同開発プロジェクトの結果、金融商品及び保険契約のための評価を同時に複数生成できるようになり、ひとつのシステムでマルチGAAPにも容易に対応できる保険会社向けファイナンストランスフォーメーションプラットフォームを実現しました。 

このソリューションの中核である新しいマルチGAAPモデルは、上流の保険数理システムで提供されるキャッシュフローの見積りを取り込むことでIFRS 第17号で求められる将来キャッシュフローの見積りに基づいた経済価値ベースの要件を管理するための新しいプロセスなども採用しています。これはベースラインとデルタという管理手法を用いることにより効率的に複数評価プロセスの実装を行います。この管理手法によりデータ冗長性の排除、複数評価レポートの同時生成をよりスムーズに実現します。またこのアプローチは、SAP HANA®の特性を最大限に活用することにより従来は難易度が高いと言われていた保険会社におけるファイナンストランスフォーメーションの実現を支援します。

Swiss Re社とSAPはSAP HANA®を活用し保険数理および評価分析のプロセスをシームレスに統合することで、業務プロセスを簡素化し、より生産性を向上させる柔軟なシステムを構築することを目指しました。

  • 新しい評価レポートおよび報告基準(IFRSおよびUS GAAPなど)を容易に組み込むことができるため、今後の追加規制へも対応が可能
  • 同時に複数の評価レポートを生成することにより、報告の為の運用オペレーションを削減
  • 運用オペレーションに費やす時間を削減すると同時に、分析能力を飛躍的に向上
  • 同時に金融資産を配分・調整する機能

Swiss Re社の再保険担当CFO、ゲルハルト・ローマン(Gerhard Lohmann)氏は、「私たちはSAPと力を合わせて、保険会社の財務運営および報告に関連した、複雑になり続ける世界中の規制当局からの要求に対処するため、SAP HANA®をベースとしたシステムを構築しました。このソリューションでは、シンプルな会計および運営手法を採用して、複数の評価を同時に実行できます」と述べました。

また、SAP CFOでSAPエグゼクティブボード・メンバーのルカ・ムチッチ(Luka Mucic)は、「Swiss Re社と協力して戦略的プラットフォームを開発できたことを誇りに思います。これによって、保険会社は、複雑さを増す法規制に対処しつつ、IFRSやUS GAAPのような新しい評価および報告基準を容易に組み込むことができるようになります。複雑な規制基準が増加し続けるなか、この共同イノベーションプロジェクトは、保険業界において会計および業務運営プロセスを効果的に遂行する助けになるでしょう」とも付け加えました。

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このSwiss Re社とSAPが共同で開発したソリューションは、SAP Financial Products Subledger(FPS)と呼ばれ、近々正式にリリースされる予定のFPSを使用すると、今度激しさを増すデジタルトランスフォーメーション時代の新保険商品開発・販売に際しても、保険数理と会計の間でプロセスの簡素化、データの共有ができるようになります。また各社のニーズに合わせ保険数理システムから将来キャッシュフローの見積りデータを連携させるといったように柔軟なシステム構築が行えます。結果的には標準化された唯一のデータベースをSAP HANA®プラットフォーム上に保持することが出来るようになります。

  • 法令遵守、コンプライアンス
  • 会計業務プロセスの標準化
  • 自動化された複数評価レポート
  • 標準化された唯一のデータベース
  • 効率的で柔軟なソリューション設計
  • 管理意思決定をサポートする最先端の分析機能

考察:日本国内の保険会社の対応策

国内において主に従来型保険を扱って来た保険会社であっても、今後、激しい競争に勝ち抜くためにはデジタル化に対応した多種多様な新商品の提供が求められることでしょう。その際、経営の根幹となるリスク算定・評価プロセスの複雑さ、さらに各規制報告に対する業務運用コストなどにも大きな影響を与えることが容易に予想されます。

また今後の監査実務において新たな会計基準への準拠や不正操作の有無の確認に加え、将来予測の妥当性に関する確認を求められる可能性があります。これにより、アクチュアリーやシステム担当者による関与の拡大が想定されます。そして検査・監督のあり方も「形式的・過去・部分的」から「実質的・将来・全体的」へと見直されることでしょう。つまり、日本市場においてもデジタルトランスフォーメーションを活用した新保険商品の開発、販売を多く取り扱う時代に入るということは、当然ながらそれに対する保険負債の計算も複雑・煩雑化することになります。リスク算定・評価とコントロール、そして経済価値ベースの枠組みの導入対応の間では、業務プロセスの一貫性を維持し報告業務を行い、意思決定のための信頼できる情報を一元的に管理することは容易なことではないでしょう。

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リスク算定・評価は、複雑な保険数理計算を伴い冗長性が増すケースが多く、規制報告に関してもIFRS第9号および第17号のような新しい規制への追加報告要件にも常に対応しなければなりません。しかし多くの保険会社では、保険数理と財務報告は業務的にもシステム的にも別々に管理されており、一連の運用オペレーション、データの一貫性及び整合性を見直すことは容易ではないと思われます。

これらに対応するためには、今ある保険数理システムで算出されている(今後の新商品リスクも算出されるであろう)将来キャッシュフローの見積りデータを経営と会計に上手く活用したいものです。なぜならば、先に述べた通り、今後は遅かれ早かれ経済実態に即した将来の収益予測をもとに経営リスクと会計報告の両方の観点で一貫性および信頼性をいかに担保できているかという視点で保険会社の評価が行われるのですから。これに対し、複数システムを跨ぐようなバケツリレー的な対処や、最後にマニュアル作業で対応という職人技ではいずれ対処しきれなくなることが想定されます。あるタイミングでは、現行システムを上手く活かしながらでも変化に耐えられる仕組み作りの検討が求められるでしょう。そこで重要になるのが保険契約明細を大量かつ快適に一元的に操作できる環境作りではないでしょうか。さらに、データの重複化のみならず、プロセスの冗長化を排除するような新たな保険会社向けのファイナンストランスフォーメーションの必要性が高まるものと考えます。

※本稿は公開情報をもとに筆者が構成したものであり、Swiss Re社のレビューを受けたものではありません。

 

出典:SAPとSwiss Re(スイス・リー)社の財務報告および業務運営に 関する共同イノベーションプロジェクトが 最初の開発ステージを完了

出典:Swiss Re and SAP co-innovate for financial reporting and business steering in reinsurance and insurance