「2025年の崖」への一考察:危機なのか、好機なのか?経済産業省デジタルトランスフォーメーションレポートを例にして


前回リリースした「世界の最新デジタルトランスフォーメーション成功事例から見えてくること」以降、お客様とデジタルトランスフォーメーションについて会話する機会はますます増えています。

さらに9月7日には経済産業省からデジタルトランスフォーメーションの推進に向けた報告書(以下DXレポート)が公開されました。これは、デジタル技術を利用した新たなビジネスモデルを展開する新規参入者によるゲームチェンジが起きつつある中、多くの人々がデジタル化の必要性を認識しつつも足かせとなっている、経営者の理解不足、運用に莫大な工数・コストを投入せざるを得なくなっている既存ITシステム(特にレガシー化した基幹系システム)などに焦点を当て、多くの日本企業の現状に警鐘を鳴らす内容です。

経済産業省HPより:デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会の報告書『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』をとりまとめました

各メディアの論客による記事が見られるようになった中、当ブログではDXレポートが「2025年の崖」として象徴的に挙げている課題に対して、個々の課題を克服した事例を元に日本企業なりの取り組み方のヒントを述べていきます。個々の事例は前回と同様、弊社においてThought Leadershipを担うインダストリーエキスパートから共有していきます。

スクリーンショット 2018-05-24 11.27.55

前述のDXレポートでは、デジタルトラスフォーメーション推進に関する課題を大きく5つ挙げています。

  1. DXを実行する上での経営戦略における現状と課題
  2. 既存システムの現状と課題
  3. ユーザ企業における経営層・各部門・人材等の課題
  4. ユーザ企業とベンダー企業との関係
  5. 情報サービス産業の抱える課題

このうち、今回我々は1 – 4について触れていきます。単にDXレポートで述べられている課題を再掲するだけでなく、我々としてのスタンスと解決のエッセンスを抽出して、何らかのヒントを得ていただきたいと考えています。

1.  DXを実行する上での経営戦略における現状と課題

DXレポートでは、デジタルトランスフォーメーションの実現における課題の中で、日本企業は世界平均よりもデジタルに対するビジョンと戦略の不足を挙げる人が多いとし、最初の課題に挙げています。

一方、元々海外企業では、多種多様な人々が同じ方向を向くことで組織を正しく機能させるため、何ごとにつけてもビジョンを掲げ戦略を明確化する傾向があります。ましてや経営におけるデジタル技術の活用は今や不可欠であることから、経営トップ自身によるシンプルで誰にでもわかりやすいビジョンやミッション、戦略と定量的なゴールを提示した例が見つかります。

例えば、インダストリー 4.0にしても、昨今取り上げられることの多くなった国連のSDGsと連携して語ることで、見失いがちなビジョンを再認識することができます。

インダストリー4.0は、ドイツの対外競争力を高めるため、に非ず(古澤 昌宏)

M&Aによってある意味で強制的にひとつになった組織として、PMI(Post Merger Integration)戦略のためのビジョン策定は不可欠です。

M&Aにより成長産業界で競争力を高めるオクラロ社(柳浦 健一郎)

民間企業だけでなく、行政においても、ビジョン・ミッションを掲げることで総力を結集し課題を克服しています。現アメリカ副大統領マイク・ペンス氏のインディアナ州知事時代の手腕は好例といえます。

データ駆動型行政—投資対効果の高い政策の実現(横山 浩実)

元々デジタル化されていたR&D基盤と連携し、基幹系領域もデジタル化し完全統合することで”THE Digital Biotech Company”となることをビジョンに掲げた企業は、何ごとにおいてもトップディスラプターです。

モデルナ・セラピューティクス — ”真の”デジタルバイオテクノロジー企業へ(松井 昌代)

 

2. 既存システムの現状と課題

ブラックボックス化した既存システムを抱えているのは日本企業だけではありませんし、ビジネスの高度化複雑化への対応はどの企業でも必要で、高度なデジタル化を求めるほどついて回ることになります。

日本の自動車業界は長くカスタム開発やERPにフルアドオンした基幹系システムを維持してきていますが、自動車部品のユーザ企業でのSAPシステム導入経験に基づき、導入に際しての考え方のシフト方法を提起します。

ボッシュ社(Bosch) – SAPソリューションを核にしたテンプレート(森田 康之)

5年間に4回も(!)会計システムを変更した企業も、SAPシステムを採用し成長戦略を支える基盤を構築できた実績があります。

ビジネスカンファレンスに変革をもたらす「C2 インターナショナル」(土屋 貴広)

複合企業ゆえのリスクの潜在化に対して、「一貫性と標準化を実現しながら、スピード感のあるコンプライアンス・リスク対応手段」を手に入れた企業もあります。

ハネウェル : デジタル技術を活用したリスク管理の実現(吉岡 仁)

たとえ事業規模は小さくても、競合他社に先んじてデジタル化を実現することで、テクノロジー面では”フォロワー”ではなく”リーダーシップ”を取っていく姿勢を業界に示すことが可能です。

インドLCC ゴーエアー – SAP S/4HANAで路線別収支管理を実現(松尾 康男)

 

3. ユーザ企業における経営層・各部門・人材等の課題

従来の基幹系システムのエンドユーザであったバックオフィス・スタッフ部門とフロントオフィス・事業部門とが融合し、デジタル技術を活用した新たなビジネスを次々と創り出しています。

インドのヴェクタス社は、取引先をも巻き込み、安全な水資源の確保という公共・公益サービスの領域での新たなビジネスモデルを構築しています。

水資源の保護—清潔で安全な飲める水の普及に向けた取り組み(横山 浩実)

オーストラリアの再生エネルギー会社は、モバイルデバイスを活用した新たなEnd to Endプロセスを実現しています。

ハイドロ・タスマニア: モバイル活用による作業員の生産性向上と意思決定の迅速化(田積 まどか)

End to Endプロセスには顧客も含まれます。顧客の繊細な「好み」すら、デジタル化の対象です。

ブラを試着する時間はない⁉ サイズと好みのデジタル化(熊谷 安希子)

ドイツでは、環境に配慮したモータースポーツの領域で、SAPと先端イノベーション事業が始まっています。

メルセデスベンツ:CASE戦略とフォーミュラE参戦への挑戦(山﨑 秀一)

 

4. ユーザ企業とベンダー企業との関係

日本では、IT人材がいわゆるベンダー企業に偏っている傾向があることから、ユーザ企業からベンダー企業に丸投げの状態を作っていることがDXレポートでも指摘されています。「一緒に動くことで社会へのインパクトをより大きく出していく」、SAPをビジネスパートナーと捉えるお客様とともに共同開発を行うことが頻繁にあります。

世界最大のオーラルケア会社であるコルゲート・パルモーリブ社とは、これまでお互いの業界でのトップとなるための関係を築いてきました。

コルゲート・パルモーリブ社:ユーザ企業とベンダー企業のWin-Winの関係(大滝 明彦)

通信業界では、ボーダフォン社とともに業界共通の課題である収益計上漏れの問題に取り組み、ソリューションを開発しました。

通信業界における ビッグデータを活用した収益計上漏れの把握(久松 正和)

保険業界では、顧客業界のデジタルトランスフォーメーションによって多様化・複雑化するリスク評価や各国法規制対応に向けて、Swiss Re社と共同イノベーションプロジェクトを進めています。

保険会社におけるデジタルトランスフォーメーションの波 — 多様かつ複雑化を増すリスク算定・評価と各規制対応への最適な策とは?(前園 曙宏)

化学業界における世界の巨人BASFは、自社だけのためだけでなく自ら率先して調達・購買プロセスの業界標準を作り、他社にも参加してもらうことで業界全体のプロセスの革新を図っています。

BASF − 調達・購買業務領域における「業界標準」の活用に向けて(竹川 直樹)

 

Point of View: “2025年の崖”をどう捉えるか

DXレポートから提起したいポイントはまず、今回あげられた5つの課題は、果たして最近になって新たにもたらされたものか、ということです。もちろん、スマートフォンに象徴されるデバイス環境やネット環境、クラウドコンピューティングなど、私たちを取り巻くテクノロジー環境は大きく変化しました。ただ、5つの課題で挙げられている日本の産業課題は、5年前、10年前、さらに遡り20年前には想像もつかなかったことでしょうか?見慣れた内容だなと思う方は実際には多いのではないでしょうか。少なくとも、私が社会人になってずっと言われている課題のように思います。一方で、これまでご紹介してきたように、すでに「2025年の崖」と象徴されているこの課題群を乗り越えた海外事例も多くあることも確かです。では、そこに何の差があるのか、それはおそらく、最新テクノロジーの自社にとっての意味を見出し、Fail First Fail Oftenの精神でまずとにかく、「最初の一歩」を踏み出すこと、にあるように思います。

「2025年の崖」は、現状を正しく把握し失敗を恐れず一歩を踏み出すことで、「崖」ではなく「発射台」もなりうる好機ともいえると思います。今まさに一歩を踏み出すことによって、奈落の底に落ちていくのか、空高く舞い上がるのか、見えてくる風景はまさに大きく異なるのではないでしょうか。