SAP S/4HANA 最新リリース1809 サプライチェーン管理領域の機能拡張
作成者:斉藤 文徳 投稿日:2018年10月30日
SAP S/4HANA のオンプレミス版の最新バージョン1809が出荷されました。SAP Fioriテクノロジーや対話型ユーザーインタフェース(音声やチャットライクの入力)を活用したユーザーエクスペリエンスの継続拡張、業務への機械学習の組み込みを含む自動化の強化、業種や業務の最新イノベーションを踏まえた業務プロセスの実装など、デジタル時代に対応した人の働き方と新しい業務実行への対応を一段と進めています。
今回のブログでは SAP S/4HANA1809 の最新機能から、サプライチェーン・設計製造関連の主要な拡張をご紹介します。
1.高度な引当・納期回答(advanced ATP)領域:
SAP S/4HANA(以降、S/4HANA)では以前は別ソリューションが必要だった優先度を考慮して引当を行う等の高度な引当・納期回答の機能を取り込んでいます(参考:SAP S/4HANA1610のロジスティクス領域における進化)。1709リリースまでに実装してきた顧客や販社・チャネルへの供給量の割当管理や顧客優先度を考慮したバックオーダー処理に加えて、1809では受注に対して最初に指定された拠点で該当する仕様の製品・数量を引き当てられない際に、代替拠点を提案する機能が追加されています。受注登録時の品目、指定納期、要求数量にもとづいて、最適な利用可能在庫がある工場や物流拠点を選定します。これによって受注に対する充足率を改善する効果をもたらします。
ユーザーエクスペリエンスの観点では、供給先に対する数量割当を統合モニタリングするFioriアプリケーションを新たに提供しました。製品割当状況やオーダーによる消費量等を分析し、製品割当状況を最適化するための対応を支援します。特性の組合せや期間などさまざまなレベルでの製品割当状況、受注明細までのドリルダウンを含む消費された製品割当数量とその数量が消費された順序などを確認できます。
2.輸送管理(Transportation Management)領域:
前リリースの S/4HANA 1709で輸送管理(SAP Transportation Management)の機能をS/4HANAに組み込みました(参考:SAP S/4HANAで統合物流管理を実現)。1709でS/4HANAの統合機能としても提供したのは荷主向け機能部分でしたが、1809リリースではさらに物流業者向け業務もサポートし始めています。物流業者として、荷主からの運送指図の管理・決済などをS/4HANA内で実行できます。 またS/4HANA内の輸送管理と別インスタンスのSAP ERP, SAP S/4HANAとの接続を標準サポートし、事業や拠点別に既存ERPが存在している場合の輸送管理にも柔軟なシステム構成が可能になりました。
3.拡張倉庫管理(Extended Warehouse Management)領域:
拡張倉庫管理も受発注、生産、物流との統合管理を進めロジスティクス実行を高度化するために、1610リリースからS/4HANA内でも利用できるようにしてきました。(参考:上述の統合物流管理のリンクおよび1610のロジスティクス領域の進化)。
倉庫現場での業務実行をサポートするために特にユーザーエクスペリエンスに重点を置いた強化を行い、倉庫現場でタブレットやモバイル端末を利用できる範囲を広げています。棚卸の管理においては紙での作業との連携のために指示書の印刷済みステータスも管理画面に表示し、現場業務との連携を支援します。梱包作業、入出庫処理などのFioriアプリケーションの追加や機能拡張も実装しました。
また拡張倉庫管理からロット管理等の情報をサプライチェーン全体のトレーサビリティソリューションに連携し、各拠点を横断したロットおよび荷姿のトレーサビリティを実現しています。
4.購買領域の拡張
購買領域ではS/4HANAに組み込まれた機械学習を含む自動化機能によって、納入遅延の防止やコスト最適化につながる発注業務の正確性向上と高度化を支援します。
例えば、機械学習機能がまとまった購買契約がなく担当や部門、拠点ごとに都度個別にばらばらに発注されている品目を検知します。本来、全体管理の対象として契約を締結し、コストの最適化と統制のきいた業務を行うべき品目の認識を助けます。既存の購買データに基づく発注明細数、発注総額、最初の発注から直近の発注までの日数などの各種指標から、契約管理による効果が見込める品目を特定してくれます。
その他、必要なタイミングに対する納入遅延につながるサプライヤからの注文の受領確認がされていないことや、新たに契約が締結されたときに登録済みの購買依頼の中にその契約を利用すべきものがあることなどを検知し担当者に通知することもシステムが自動で行います。
ユーザーエクスペリエンスの視点ではSAP Aribaの購買依頼プラットフォームでB2Cショッピングサイトに相当する直感的操作性を提供する Guided Buyingとの連携を強化しています。SAP Fiori Launchpadから直接Guided Buyingを活用した間接材購買サイトを起動して購買依頼を登録でき、その後のSAP S/4HANAでの購買プロセスの実行情報も統合管理することで、進捗ステータスの可視化を実現します。
5.高度なバリアント選定(Advanced Variant Configuration):
顧客要求の個別仕様化やカスタマイズの必要性がますます増加していく環境に適応し、個々のニーズに合わせてスペックや構成品目を選定できる製品の設計・開発、販売、製造、デリバリー、保守を実現するために、高度なバリアント選定を使用することができます。
この領域でもユーザーエクスペリエンスにおいて、受注の最初の1画面での主要な仕様・スペック入力、製造指図や購買発注等の後続業務画面での容易な仕様確認の提供、担当業務に応じて必要な項目だけを選択して表示するなどの拡張を行っています。また構成品目の選定シミュレーションでは製品構成・BOMによって変わる作業手順を同時に表示し、構成の選定と作業との関係性を可視化しています。仕様選定と作業手順の変更を効率的にシミュレートし、業務品質を向上します。
さらに仕様の決定が営業や販社、代理店チャネル、Webサイトなど顧客に近いフロントで行われる中で、フロントサイドでの仕様入力をSAP C/4HANAのコマースやセールス機能から行い、その結果をS/4HANAの受注・生産の仕様に自動連携することで業務の高度化対応を行っています。多様な顧客要求への対応力の向上と実行の効率化を支援します。同一の選定用のマスタを利用することで、構成要素のメンテナンスコストの低減と整合性の維持も実現します。
今回はS/4HANA1809のサプライチェーン領域の拡張を中心にお伝えしました。
サプライチェーンや設計、製造領域では、他にも1709までに導入されてきた需要主導型補充(Demand Driven MRP)や工程設計と製造実行の統合管理(Production Engineering and Operations)などの新しい領域の拡張も継続しています。このような新たな業務の方法論なども含めて引き続きセミナー、イベントやブログでお伝えしていきます。
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