製品開発力向上を目指した技術開発ナレッジDB刷新ーー未来の成長と発展のためのDICの取組みを支えるレシピ開発管理ソリューション事例


「化ける学問」と書く化学。原料を混合し化学反応させることで様々な機能を持つ素材を提供し、あらゆる産業の基礎として産業全体のイノベーションを支えている化学産業では、常に革新的な材料や技術の追求が続けられています。化学メーカーにとって自社の歴史の過程で蓄積してきた研究・開発ノウハウは何にも代えがたい資産であり、それらをナレッジデータベースとして正しく管理し、機密性と社内での適切な情報共有のバランスを保ちながら必要な時に検索し参照できる仕組みを構築することは、企業の競争力維持のための最重要事項の一つとなっています。

また他産業と同様、化学産業においてもグローバルでの生き残りをかけた各社での海外ビジネス比率の上昇と連動しながら、技術開発における海外へのリソースシフトが進みつつあります。日本本社でコア開発を担う体制は維持しつつも、ローカルでの裁量に任せる部分を設けることで顧客へのフレキシビリティを高め、現地での技術サービス強化により販売加速を狙うなど、戦略的な取組みが始まっています。

 

技術開発ノウハウはパッケージでシステム化可能?

創業110年の歴史を誇るDIC株式会社(以下DIC)は、印刷インキの製造と販売から事業をスタートし、その基礎材料である有機顔料、合成樹脂をベースとして事業領域を拡大してきました。現在はプリンティングインキ、ファインケミカル、ポリマ、コンパウンド、アプリケーションマテリアルズの5つの事業セグメントを有する日本を代表する化学工業メーカーです。
既に同社では2010年よりグローバル全体での情報基盤統一に着手し、グループ各社の共通経営基盤構築と業績評価指標の標準化による、グローバル経営実現のためのSAP ERP導入と展開が完了しています。このような中で同社が、製品開発の根幹となる原単位(レシピ)管理システム再構築の検討を始めたのは2015年のことでした。

当時のシステムは同社向けに完全に手作りされたものであり、当初は新システムも同社技術部門の業務プロセスに合わせたフルカスタマイズシステムとしての再構築が予定されていました。
一方で、当時のシステムはSAP ERP導入前のレガシーシステムに対応しており、コードもレガシー時代の旧体系のまま運用されていたため、コード二重管理による技術部門の大きな負荷が課題となっていました。製品群毎個別での原単位管理システム維持・運用から脱却し、システム再構築を機にプロセスを標準化すべきという考え方も挙がっていたのです。

結果、DICでは、SAP ERPをグローバル統合の基幹業務システムとして同社システムの核に据え、SAP ERPとの密接な連携を行う重要システムはSAP製品を優先して検討するという考えのもと次期システムの検討が進められていました。SAPが相談を受けたのはそのようなタイミングでした。

掲げられていた新システム構築の目的と方針は以下の4つとなります。

  1. ERPと分離していることにより増大していた技術部門の業務負荷軽減
  2. 既存システムの問題点改善によるコンプライアンス遵守
  3. 製品群毎の個別システムの統合と業務標準化
  4. 全社共有システム化・グローバル対応(国内/海外(AP・中国地域)への展開)

SAPではSAP Recipe Development(以下、単に「SAP RD」という。)という製品を有しており、上記3つの目的を実現するために最適なソリューションであるというご提案を実施しました。そしてDICはSAP ERPと統合されたSAP RDの導入を決断します。2015年末のことでした。

 

体系的な開発レシピ管理を実現するSAP RDソリューション

SAP RDは、プロセス産業における製品開発の初期段階から開発レシピを体系的に管理するSAPのPLMソリューションとして位置付けられています。主な機能としては以下となります。
(【資料1】内の①及び②)

  • レシピ設計に必要な各種計算機能:
    組成成分計算、原価試算等
  • コンプライアンスチェック機能:
    法規制チェック、顧客仕様や社内基準に対するチェック等
  • 検索機能:
    構造化情報、非構造化情報を問わず過去の製品開発に関連するデータのスピーディな串刺し検索
  • 開発関連ドキュメントの作成及び管理機能:
    SDS、ラベルの作成と管理
  • 製造へのハンドオーバー機能:
    開発レシピから製造レシピへの展開
【資料1】

【資料1】

SAP RDは、基幹システムであるSAP ERPの一部として存在しています。SAP RDで作成・管理する新規原料やレシピはマスタデータとして登録され、顧客仕様スペックや品質基準を満たすための各種チェック(原料分解、成分分解、原価試算)を経て製造移管が承認されます。これらのマスタデータは統合されたERP共通基盤上で保持されているため、承認完了したレシピ情報を後続工程である原料購買や製造実行にシームレスに連携することが可能なのです。どちらも同じERP上のデータですので、システム間インタフェースを介する必要はありません。メールや電話による申し送りや連絡・確認をせずとも、SAPを見れば開発中の最新情報が関係者間で共有され、また、承認が完了すれば自動的に製造実行のためのレシピや検査規格等のマスタデータが準備される(【資料1】内の③)。これがSAP RDの最大の特徴でありメリットとなります。

DICでは、SAP ERPとのシナジーを最大限活かす形で、化学メーカーの根幹である技術ナレッジデータベースをSAP RDにて構築し、2017年秋より日本の技術部門での利用を開始しています。

 

導入効果と今後のDICの挑戦

2016年に開始した導入プロジェクトは2017年10月、本番稼働を迎え、新システムでの運用がスタートしました。当初の目的の達成度、SAP RD導入の効果について情報システム部の山崎達司氏は次のように述べています。

DICの配合情報について、技術本部別の個別システム・個別運用での管理から、レシピ管理システムでの最新の配合情報の一元管理と、配合情報管理プロセス・ルールの標準化を達成し、グローバル展開への足掛かりを作ることができました。
又、化学物質管理システムと密接に連携し、コンプライアンス違反を防止する業務プロセスや各種業界規制チェックの自動化等、コンプライアンスレベル向上を達成することができました。
(DIC 情報システム部 山崎達司様)

SAP RDの導入により、技術部門に大きな負荷をかけていたコードや検査マスタの二重管理は完全に解消され、フレキシブルな権限設定と強力な配合シミュレーション機能を有した新たなレシピ管理システムで同社の製品イノベーションを加速するための舞台は整いました。次の構想として、DICはこのレシピ管理システムの海外展開を計画しています。SAP RDはグローバル企業の開発業務サポートを想定して設計されており、これはDICがSAP RDを選択した大きな理由の一つであるからです。SAP RDの海外展開を完了した暁には、各ローカルが独自に持っていたナレッジも含めて全社で共有することが可能となり、過去のアセットを有効活用する体制が整うだけでなく、例えばSAP RDを介した拠点間の相互コミュニケーションから新しいイノベーションが生まれる、といったことなども大いに期待できそうです。

また、ビジネス上では競合となりますが、同じSAP RDユーザであるグローバル化学メーカー各社と直接意見交換をするために、グローバルのSAPユーザグループ(RDAC: Recipe Development Advisory Council)への参画も検討中です。ユーザグループではSAP RDの開発部隊とお客様が直接意見交換を行い、SAP S/4HANAでのRDロードマップの共有や既存機能の拡張、例えば独自開発した各社のアドオン計算機能を共通化して標準機能に組み込む可能性について議論する、などの活動が活発に実施されています。DICでも是非このような場を活用し、更なるSAP RDの有効活用を進めて頂きたいと考えています。

【資料2】

【資料2】

DICでは持続的成長に繋がる次世代製品と新技術の開発を目指すことを宣言し、サステイナブルな社会への貢献のための取組みを加速させています。SAP RDの導入で更に広がっていくDICの取組みの可能性からは、今後も目が離せません。