納税者目線の健全な「税金滞納」防止ーーー豪クイーンズランド州のマシンラーニングを利用した取り組み


電子政府が2001年にe-Japan構想として我が国の重点政策課題になって以来、様々な形で行政サービスのデジタル化・ワンストップ化は推進されています。近年は「デジタル・ガバメント推進方針」(平成29年5月30日)、「デジタル・ガバメント実行計画」(平成30年7月20日)が決定され、本格的に国民・事業者の利便性向上を目指すべく、行政の在り方そのものをデジタル前提で見直すデジタル・ガバメントの動きが加速化しており、2018年中に「デジタルファースト法案」も国会提出される見込みとなっています。

この背景には、クラウド技術をはじめとする目覚ましいIT技術の進展や、マイナンバー制度等の導入による情報連携基盤の整備などがあります。生産年齢人口の減少やグローバル化の急速な進展に対応するためには、これまで以上に安心、安全かつ公平、公正で豊かな社会の実現が不可欠であり、民間サービス同様、国民ひとりひとりのニーズに応えられるパーソナライズされた効率的な行政サービスに対する要請が高まっているといえます。

デジタル・ガバメント閣僚会議
デジタル・ガバメント実行計画(平成30年7月20日)

国連では隔年で電子政府ランキングを発表していますが、日本はこれらの政策立案・実行が評価され、2018年は10位となっています。
日本より上位常連の国々の政府も、日本同様IT技術を活かし、民間の知見を最大限に活用した行政サービスの導入を進めており、これまでと比較にならないスピード感で進められています。本ブログではオーストラリアクイーンズランド州が導入したマシンラーニングを利用した効率的な税徴収について紹介します。

■背景・課題

クイーンズランド州歳入庁では年間およそ170億豪ドルの歳入を管理しています。所得税、罰金、鉱業及び石油使用料、固定資産税が主に取り扱っている歳入種別であり、州の経済成長や就業機会増大に向け、専門家としてリスクを理解し適正に歳入管理を行うことを目指しています。

歳入庁は、このデジタル化された時代において、伝統的な税徴収方法が通用していないことを実感していました。納税者からは民間サービス同様に「個人に最適化された方法」「透明性確保」「一気通貫」「適宜のタイミング」に対する期待が高まっているのです。
このような背景で、歳入庁は3か年のデジタル推進プログラムの実行を決定しました。これは納税者を「顧客」と捉え、デジタルを最大限に活用したデータ駆動型の次世代の歳入管理の仕組みを実現・提供するものです。これは、歳入庁の慣習・文化の見直しも伴うものであり、職員に対して、人減らし策ではなく、より良い業務を実現するための手段であることを理解させること、すなわち、人材教育も重視しました。そのため、まずデザインシンキングセッションなどを通じて納税者の行動・意識を理解させるところから開始したのです。

我々は慣習・文化の見直しに大きな投資をしました。今まさに到来しているデジタル変革に適合し、リーダーシップを発揮できる人材への教育をしたのです。

まさに今世界は変わりつつあります。我々のエコシステムが変化しているのです。我々の顧客の要求は24時間365日提示されますし、様々な手段で連絡が来るのです。

彼らは実際のところ自分を「顧客」だとは思っていません。『我々は納税者です。我々は役所とやり取りをする必要がありますが、できればしたくないのです。我々は良い経験をしたいだけなのです。さっさと終わらせたいと思っています』

Simon McKee, Deputy Commissioner of the Queensland Treasury’s Office of State Revenue (OSR)
 ■固定資産税を対象とした実証実験

このような準備の上、歳入庁はマシンラーニングを使った歳入業務の効率化に関する実証実験を行うことにし、滞納の割合が最も高い固定資産税を対象としました。本実証実験の目的は、納税不能者になる人を事前に特定することです。

MLforBLOG

2017年に行われた実証実験では、限られたデータ、クレンジングが不十分なデータにも関わらず71%の割合で納税不能者の特定ができました。加えて、納税者のリスク状況分析や納税不能への影響の大きいイベントの特定、真の納税不能者と支払能力があるけれど支払わない人の区別もでき、それぞれの人の状況に応じた適切な督促や支払サポートなどの対策を打てることが明らかになりました。

我々は透明性を確保することができました。納税者は機械処理されるのではなく、職員が処理します。ただし、機械が状況に応じて自動的にメッセージを提示するのです。機械は納税者の活動を常時監視しているため、適切なタイミングで「今支払えるのではないでしょうか?もし難しいようなら支払計画を見直しませんか?」といったメッセージを出すのです。

Simon McKee, Deputy Commissioner of the Queensland Treasury’s Office of State Revenue (OSR),

この結果を受け、クイーンズランド州では歳入業務にマシンラーニングを順次取り入れることを決定し、第一弾が2018年7月に稼働開始しています。

■マシンラーニングを使った歳入業務の効率化の成果
  • ビジネス価値
    • 納税困難者の事前の特定が可能になり、個人の環境に応じた支払計画等、プロアクティブな働きかけを行うことで納税不能になることを防止する
    • リスク分析結果を使うことで、債務に応じたサポートが可能になる。いつ・いくら支払うべきか、債務の意義を理解させ、税納付の意識を高める教育にも利用可能
    • 以下の定量効果が期待できる:5%歳入増、5%滞納者減、納税不能確定率減少、期日遵守率向上
  • 社会意義
    • 真の納税不能者と支払能力があるけれど支払わない人を区別し、それぞれの状況に合致したサポートが可能
    • 個人の状況に応じたアプローチを行うことで、より適宜に税徴収が可能となり、クイーンズランドの行政サービスにそのお金を使うことが可能
  • 人材活用
    • 職員が税納付者の状況や意向を理解することが可能となる
    • より付加価値の高い業務に従事することによる納税者への良いサービス提供及び歳入増
■Data Driven Governmentの価値

このようにデータ分析の高度化やデータ管理の効率化に伴い、官民問わずデータの価値はますます高まっています。

冒頭に紹介した通り、デジタルファースト法案等により、我が国においては現在は紙でやり取りされている情報の電子化は一気に進むことが予想され、行政においても大量の電子データを「個人に最適化された方法」「透明性確保」「一気通貫」「適切なタイミング」に使うことが強く求められる時代はもうすぐそこまで迫っていると思われます。

弊社はこれからも上記事例でご紹介したようなマシンラーニングやAIをはじめとする様々なソリューション、そして、HANA/SCPをはじめとする強力なインフラ基盤を提供するのみならず、「どのようにイノベーションを起こすか?」「いかに国民に対し真の価値を提供するか?」といった根本的な部分からのご検討を通じたデジタルガバメントの推進を支援することで、我が国が世界でも有数の電子政府と評価されることに貢献していきたいと考えています。

デジタル化が進む中で、人々はプロアクティブかつパーソナライズされたコミュニケーションやサービスを求めるようになっています。SAP Lenardoマシンラーニングの真の価値は、顧客の経験から生み出される示唆を抽出できること、全ての納税者に顧客中心の環境を提供できることであり、それによりクイーンズランド州の歳入は増大できるのです。

Elizabeth Goli
Commissioner of State Revenue, Queensland(Chief Executive Officer, Office of State Revenue)
 ※本稿は参考文献をもとに筆者が構成したものであり、豪クイーンズランド州歳入庁のレビューを受けたものではありません。