顧客中心主義でビジネスを拡大 – ブラジルの農機具メーカー スタラ (Stara) の挑戦
作成者:古澤 昌宏 投稿日:2018年12月6日
ブラジルの農機具メーカー スタラ社
農機具のメーカーというと、日本のK社、Y社、I社、MM社などの総合メーカーや専用機メーカーのいくつかが頭に浮かぶかもしれません。農業に詳しい方ならば、世界トップのUS D社、C社、A社、欧州のC社などに関心をお持ちの方もいるかもしれません。
USのD社は、軍事用車両向けに開発したIoT応用や自動操縦といった先進技術を民需にも転用しており、農機具で世界トップを走っています。
今回取り上げるのは、日本ではほとんど馴染みのない、ブラジルの スタラ社 (Stara S.A. Indústria de Implementos Agrícolas) です。非上場で従業員数が約2,400人。第二次世界大戦中にオランダから移り住んだStapelbroak家による家族経営が特徴の農機具メーカーです。
商圏はブラジルを中心に5大陸30か国と広く、製品と工場はオレンジとグリーンのツートンで統一カラーリングされています。
このビデオでは、その開発・製造・販売・アフターサービスのために従業員の方々が生き生きと活躍されている様子が紹介されています。さすがに広大なブラジルの大地を切り開き整備するための大規模農機具 (日本の稲作で必要とされる農機具とは比べ物にならない大きさ!) に強みを持つ同社だけに、製造している農機具は大迫力です。
スタラ社の特徴
スタラ社の特徴は、その企業定義で明確にされています。
業務領域:アグリビジネスにおける生産性
企業ミッション:アグリビジネス向けインテリジェントソリューションのパイオニアであること
2021年ビジョン:この分野における世界規模トップ10の企業になること
その実現に向けて掲げられているのが “Family Stara Values” で、以下の5つの標語で成り立っています。
絶え間ない進化を続けよう
品質意識をもて
人々に称賛と尊敬を
世間様に対して誠実であれ
質素・簡便であれ
これら5つの価値は、サムアップした拳で表現され、同社の企業紹介ビデオでも社長を始め、全従業員がこれを「決めポーズ」としているところにこだわりを感じます。
更に注目したいのは、同社の事業領域や企業ミッションに「農機具」という単語が出てこないところです。あくまでも主役は「食糧を生産してくれる農業従事者」であり、彼らを称え、彼らの生産性向上ためにスタラ社は貢献する、という立ち位置を明確にしています。さらに、企業ミッションとして「アグリビジネス向けインテリジェントソリューションのパイオニアであること」が定義されています。この事業領域や企業ミッションに沿うもの、沿うことであれば、何でも取り組むことができる、という事にもなります。
スタラ社とSAPの戦略的パートナーシップ
スタラ社は2015年にIoT活用に向けてSAPと戦略的パートナーシップを締結。クラウド基盤を活用して、同社製品とサービスのIoT化、インテリジェント化に踏み出します。Precision Agriculture というソリューションラインがそれを担っています。農機具に取り付けられたデバイスから、Topperというエッジコンピュータを介して、SAP Cloud Platformにデータは送信されます。SAPは、そのプラットフォーム上で同社の必要とするPrecision Agriculture用アプリの開発ソリューションを提供しました。社長が生き生きとその喜びを語り、サムアップしている姿をご覧ください。
称賛すべき農業生産者を主役として、彼らの生産性が向上するよう、スタラ社は自社のバリューチェーンと、自社製品の稼働実態をリアルタイムに可視化・分析可能としました。
顧客中心主義の実現に向けて
コマツ、NTTドコモ、OPTIM、SAPの4社によるJVであるLANDLOG社は「建設生産プロセスの変革を創出」することで「生産性や安全性だけでなく、利益の最大化を実現する」という目的意識を持っています。(コマツの建機を使う人々ではなく)土木建築現場に働く皆を顧客と定義し、彼らが快く、効率よく働ける環境構築をデジタル技術で支援する、という意識が強く働いています。
スタラ社にも、同様の顧客定義と、(同社の農機具を使ってもらうことではなく、あくまでも)アグリビジネスにおける生産性向上に貢献する、という目的意識を強く感じます。
SAPでは業種別にデジタル変革マップを作成しています。下記は産業機械・構成部品メーカー向けマップです。クリックでPDF版をダウンロードできます。
ここに5つのデジタルテーマが掲げてあります。
- 顧客中心主義
- “Segment of One”戦略
- 製品のスマート化
- サプライチェーンのデジタル化 & スマートファクトリー
- モノ売りからの脱却 & 新たなビジネスモデル
これらを実現するためには、企業内の各部署がサイロ化したままの状態では難しく、それぞれが一つのテーマに沿って協力し合わなければならないことを示しています。スタラ社の場合、この 1. を事業目的として、5. Precision Agriculture というビジネスモデルを確立し、3. 4. を実現手段として実装した、と理解することができます。
そこに スタラ社のハードウェアを中心とした売り上げを向上させる、という事業目標はあれども、事業目的としていないことに注目しましょう。また、従業員の就労モラルを高めるためにもそれが有効に働いていると、同社のプロモーションビデオからも感じます。
※本稿は公開情報をもとに筆者が構成したものであり、スタラ社のレビューを受けたものではありません。
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