インテリジェントエンタープライズの時代に SAPのマシンラーニングが果たす役割(第2回)


「インテリジェントエンタープライズ」の実現に向けて重要な役割を果たすのが、基幹システムと連携するマシンラーニングのアプリケーションです。中でも、銀行報告書と請求データから自動消し込みを実現するSAP Cash Applicationは、日本企業でも導入検討が始まっています。第1回に続き、SAP Cash ApplicationのPoCプロジェクトを実施したJFEシステムズ株式会社と三井物産株式会社の事例を紹介します。

 

PoC事例:JFEシステムズ株式会社

月初に集中する入金照合業務の負荷を軽減

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JFEシステムズ株式会社 磯島 瑞夫 氏

JFEシステムズ株式会社は、JFEスチールグループの情報システム会社として基幹系、業務系アプリケーションの開発、インフラ構築サービスを手がけています。「健康経営」の実現に向けて働き方改革に取り組む同社は、スタッフ部門の工数削減を図りたいと考えていました。

「銀行入金の照合業務が集中する月初にはどうしても残業が発生します。特に日本では、取引先への問い合わせも含めてこの期間に負荷がかかることが課題でした。そこで作業負荷の平準化を目的に、SAP Cash ApplicationのPoCを実施しました」と、ERP・BI事業部 開発部 ERPグループ シニアコンサルタントの磯島瑞夫氏は語ります。

同社ではSAP ERP ECC 6.0 Ehp0を用い、SAP CO-Innovation Labs環境のSAP Cash Applicationを利用してPoCを実施。検証システムは、従来の入金照合プロセスの一部をSAP Cash Applicationに置換するだけで済むため、スムーズに検証準備ができたといいます。

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JFEシステムズ株式会社 金森 有美 氏

検証データは、銀行報告書、債権(請求書)、入金消込履歴の3種類で、SAP ERPに蓄積された約10年間分のデータからそれぞれ約2万件を抽出しました。抽出の際は秘匿性を確保するため、一部データをマスキングして提供しています。ERP・BI事業部 開発部 ERPグループの金森有美氏は「入金情報にはお客様の秘密情報が含まれているため当該情報をマスキング処理した上でPoCを行いました。安全性に配慮し、実施の前には経理部門に確認いただきました」と語ります。

名寄せ項目のマシンラーニングにより提案率や自動化率が向上

PoCでは、約2万件のデータのうちの8割を用いてトレーニングを実施し、残りの2割を用いて提案率、正答率、自動化率を測定しました。2018年2月に実施した1回目の検証は、グローバル版のSAP Cash Applicationを用いて、規定の条件に基づく機械学習モデルの評価と、同社のアドオンロジックの中からの口座名義人の名寄せ項目を英数字に変換して再学習したモデルの評価を比較しました。その結果、標準学習モデルが提案率91.1%、正答率69.4%、自動化率63.2%であるのに対して、名寄せ項目の学習追加後は提案率94.1%、正答率86.4%、自動化率80.9%まで改善されることを確認しています。

2回目として2018年9月には、日本語版にローカライズされた SAP Cash Applicationの環境上で、名寄せの項目を日本語化したテストデータを用いて同様の検証を実施。その結果、提案率を重視した設定において、提案率100%、正答率93.9%、自動化率93.9%を実現。正答率を重視した設定において、提案率75.5%、正答率99.3%、自動化率74.9%となることを確認しました。実際の業務に適用できるのは正答率を重視したケースですが、照合の確実性と作業の負荷軽減はトレードオフにあり、実務では妥当なターゲット正答率の設定がカギになるといいます。

PoCの結果、マニュアルの消し込み作業の自動化により、工数の削減と負荷の平準化に大きく寄与できる可能性が確認されました。

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JFEシステムズ株式会社 豊泉 ひと美 氏

今後の課題としては、持続的な学習モデルの実施による照合率の向上が挙げられます。ERP・BI事業部 開発部 ERPグループの豊泉ひと美氏は「PoCでは1、2日の学習期間で実施しましたが、蓄積したデータに対してバックグラウンドで機械学習が継続されることで、照合率の向上が期待できます。また、今回のPoCはシングルマッチング(1対1の消し込み)が中心でしたが、マルチマッチング(N対1の消し込み)や、データのバリエーションを増やした複雑なパターンでの検証も検討していきたいと思います」と話しています。

 

 

PoC事例:三井物産株式会社

 

業務特性、通貨、決済手段などが異なる海外拠点のプロセスを検証

日本を代表する総合商社として知られる三井物産株式会社。2000年代から海外拠点、三井物産単体、日本関係会社のそれぞれでSAP ERPを利用してきた同社は、先行して海外現地法人におけるSAP S/4HANAへの移行を決定し、2019年の本稼動に向けて準備を進めています。

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三井物産株式会社 奥山 秀俊 氏

その中で、新たな付加価値を提供するサービスとして注目したのがマシンラーニングでした。IT推進部 基幹システム室長の奥山秀俊氏は「業務プロセスを自動化するソリューションとしてSAP Cash Applicationに着目し、多岐にわたる国、通貨、決済手段、商習慣に対する適合性と精度・品質を検証してみることにしました」と語ります。

現行の入金管理プロセスは、SAP ERPの標準機能で自動化してはいるものの、自動化率は約20%に過ぎません。残りの80%は営業担当が確認して消込の指示を出し、手動で作業をしていました。そこで90%以上の自動化を期待してPoCに臨んだといいます。

1回目のPoCは精度検証を目的に、2017年8月から2カ月間で実施。海外拠点で稼動中のSAP ERP ECC 6.0から3カ国、3社分のデータを、3年分抽出。SAP Value Prototypingのトレーニングサーバー環境のSAP Cash Applicationを利用して行いました。検証データの抽出は、地域の業務特性、通貨、決済手段、トランザクションボリュームなどを考慮してアメリカ、ドイツ、タイの3国を選んだといいます。

PoCでは、1件の請求で1件を消し込む1対1のマッチングに加えて、複数の請求データを複数の入金データで消し込むN対Nのマッチングも実施。その結果、1対1の消込でアメリカが提案率96%、正答率97%、ドイツが提案率97%、正答率95%、タイが提案率95%、正答率93%となりました。N対Nの消込はドイツが提案率86%、正答率81%、タイが提案率82%、正答率75%となりました(アメリカは未実施)。「1対1はチューニング次第で実使用にも適用できそうだという手ごたえはありました。N対Nだと数値は下がるものの、ほぼ想定どおりの結果となりました」と奥山氏は語ります。

SAP S/4HANAとSAP Cash Applicationを直結して検証

2018年2月から実施した2回目は、1回目の検証結果を踏まえてSAP Cash Applicationのアルゴリズムをチューニングし、現在同社が検証中のSAP S/4HANAの環境とSAP Leonardoの環境と直結して本番データを使いながら実際のプロセスを検証。UIにSAP Fioriを用いてより実利用に近づけたといいます。「検証データの件数が数営業日分と少なかったこともあり、結果的には特に1対1を中心に提案率も正答率も1回目のPoCを下回る結果となりました。決済条件で計上の仕方が異なる固有事情に対する部分で提案率が弱いことがわかりました」と奥山氏は語ります。

その結果を受けて現在は3回目のPoCの実施に向けて準備を進めています。3回目はチューニングの精度をより高め、SAP S/4HANAのバージョンも最新の1809を用いて実施予定です。また、検証する海外拠点を10社近くまで増やしてより本番のターゲットを想定した環境で実施するといいます。「海外拠点のCFO部門もマシンラーニングの一要素としてSAP Cash Applicationには関心を持っており、期待度の高さは感じます」と奥山氏は語ります。

入金消込のプロセス検証と並行して、債務管理の自動化もSAPジャパンと三井物産の共同イノベーションで進めています。取引先から送られてきた請求書をDeep learningでコード化し、購買データと突き合わせて支払が完了するまでのプロセスの自動化を目指していく構想です。さらに三井物産では国内のSAP ERPのSAP S/4HANA化に向けても、マシンラーニングの各種機能の取り込みを積極的に検討していくとしています。

 

第1回の記事はこちら:インテリジェントエンタープライズの時代に SAPのマシンラーニングが果たす役割(第1回)

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