インテリジェントエンタープライズの時代に SAPのマシンラーニングが果たす役割(第1回)

作成者:SAP編集部 投稿日:2018年11月30日

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AI、マシンラーニング、IoT、ビッグデータ、アナリティクス、ブロックチェーンなどのテクノロジーが主流になるにつれ、企業ITの世界に大きな変化が訪れています。SAPは、最新のデジタルテクノロジーを取り入れて進化を遂げる「インテリジェントエンタープライズ」を提唱し、さらなるデータドリブンビジネスの実現を支援しています。

SAPが実現するインテリジェントエンタープライズ

SAPではインテリジェントエンタープライズを、「インテリジェントスイート」「デジタルプラットフォーム」「インテリジェントテクノロジー」の3つの要素によって構成されるものと定義しています。

インテリジェントスイートは、日常的なビジネスプロセスを自動化するものです。SAP S/4HANAをデジタルコアに位置付け、インテリジェンスが組み込まれたアプリケーションによって顧客、サプライヤー、従業員の業務を改善します。一方、デジタルプラットフォームには、SAP HANAから発展したデータマネジメントやクラウドプラットフォームが装備されています。そしてインテリジェントテクノロジーは、インテリジェントエンタープライズの中核となるもので、SAP Leonardoの要素であるマシンラーニング、IoT、ビッグデータ、データインテリジェンス、アナリティクス、ブロックチェーンによってあらゆるビジネスのデータ活用を支援します。

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ERPは人間が意思決定をするための情報を提供する役割へ

エンタープライズITの世界は、1960年代から80年代にかけてメインフレームの時代が長く続いていました。工場の自動化が進む中、SAPはメインフレームで動作するSAP R/1、SAP R/2をリリース。1990年代に入るとクライアントサーバーとインターネットの時代が到来し、PCが普及してブロードバンドインターネットが拡大。SAPは、アプリケーション、プレゼンテーション、データベースの3層構造からなるSAP R/3をリリースしてビジネスプロセスのオートメーション化に貢献してきました。そしてクラウド、モバイル、ビッグデータの時代となった2000年代、SAP R/3はSAP ERPへとさらに進化し、デジタルトランスフォーメーションが加速しました。

こうした変遷を経て現在は、SAP HANAやSAP S/4HANAへと進化。これらをプラットフォームにマシンラーニング、AI、IoTなどのインテリジェントテクノロジーを活用するインテリジェントエンタープライズの時代を迎えています。ERPは業務ユーザーの意思決定をするための情報を提供する役割から、単純作業等のルール化できる業務上の意思決定を部分的に代替して行う役割へと進化し、その分より高度で付加価値の高い業務を人間が行えるようにインテリジェント化していきます。

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業務の自動化に貢献するマシンラーニングアプリケーション

インテリジェントエンタープライズへの移行に際して、自動化に貢献するテクノロジーの1つがマシンラーニングです。SAPの強みは、世界中のビジネスで扱われる大量のデータがSAP ERPに格納されていることにあります。現在、世界のシステムトランザクションの77%がSAPシステムを介していると言われ、業種や業界も多岐にわたります。これらのデータをマシンラーニングを使ってトレーニングし、自動化することで、収益の向上、プロセスの再創造、労働生産性の向上、顧客満足度の向上、イノベーションの創出などのビジネス価値を高めることが可能になります。

SAP Leonardoでは、SAP S/4HANAにマシンラーニングの機能を組み込むMLアプリケーション群を、2つの方向性で提供しています。1つは、ERPに蓄積されているデータを使ったナレッジワークの自動化です。財務関連では、銀行の電子取引明細書の履歴をもとに請求データと突き合わせて消し込み作業を行う「SAP Cash Application」、販売/サービス関連では、各種の業務で発生する問い合わせ内容を自動的に分類する「SAP Service Ticket Intelligence」や、チャットボットツール「SAP Conversational AI」がすでにリリースされています。将来的にはトランザクションコードを入力することなく、チャットボットだけで在庫の問い合わせから発注までが自動化される可能性を秘めています。このように、人材管理や財務/会計を始め、購買/調達、資材管理、マーケティング、運用/保守など広範囲にわたる領域でバリューチェーンを再創造することが可能になります。もう1つの方向性は従来のERPではできなかったことを可能にするもので、画像認識やセンサーデータを活用した各種サービスです。例えば、生産プロセスにおける資材投入量のERPへの自動入力、センサーデータだけではなく画像データを活用した品質向上、マーケティングにおいてはTV放送から自動的に自社のブランドロゴ掲出時間を計算したり、新たな用途での利用が実現されています。

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SAP Cash Applicationで売掛金の消込業務を自動化

MLアプリケーションの中で代表的なものが銀行報告書と請求データから自動消込を実現するSAP Cash Applicationです。従来は、請求書と銀行から提供される振込明細のリストを売掛金担当者が人力で突き合わせて確認していましたが、過去の履歴情報からマッチング基準を学習し、学習モデルに応じて自動的に入金消込を実施します。情報の不足、複数通貨への対応、企業ごとに異なる支払方法への対応など、入金消込で発生するさまざまな課題を学習によって解決し、売掛金の処理にかかる負担を軽減します。SAP Cash Applicationはすでに複数の日本企業において導入が始まっており、ここではPoCを実施した事例を紹介します。

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PoC事例:イーグル工業株式会社

 

バーチャル口座への対応で提案率、自動化率が大幅に向上

陸/海/空のモビリティを追求する総合部品メーカーとして、自動車/建設機械業界、一般産業機械業界向けのメカニカルシールの製造を手がけるイーグル工業株式会社。同社は2017~2020年度の中期経営計画で、SAP ERPのグローバル展開と、IoT、AI、ビッグデータを用いたイノベーション施策に取り組んでいます。SAP Cash ApplicationのPoCは、この施策の一環として実施されました。

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イーグル工業株式会社 田所 正樹 氏

同社では、全国に約20カ所ある営業支店で入金消込作業を実施しています。担当者は経理業務だけでなく、受発注や営業支援など複数の業務を掛け持っているため、月初に集中して発生する入金消込の作業負荷が課題でした。同社の経営企画室 IT一部EBIS三課の田所正樹氏は「消込作業で毎月160人日の工数が発生していました。人依存になるため作業のばらつきも発生します。そこで作業負荷を平準化するため、SAP Cash Applicationを使った消込の自動化による削減効果を試算することにしました」と語ります。

PoCはSAP ERP(ECC 6.0、Ehp6)が稼動している本番機を検証機にコピーして、一定期間のトランザクションデータを抜き出す形で実施。検証データは、会社コード、銀行報告書、債権(請求書)、入金消込履歴の4種類で、検証機から抽出したデータをもとに、SAP Cloud Platform上で稼動するSAP Cash Applicationを用いてトレーニングを実施。予測モデルを構築したうえで、テストデータに対して正答率と提案率を測定しました。

同社の場合、債権管理のプロセスでSAP ERPにアドオンをほとんど使わず、ECC 6.0の標準機能のまま利用しているため、工数をかけることなくSAP Cash Applicationとの連携が実現したといいます。

自動化の実現で売掛金処理担当者が生産性の高い業務にシフト

2017年12月に実施した第1回目の検証では、1028件のデータに対して銀行報告書の35%で消込候補が提案され、そのうち正しい消込先が提案された正答率が95%となりました。1回目は、データ保存期間の都合から抽出データが3カ月分と非常に少なく、十分な学習ができなかったこともあり、思ったような数字が得られませんでした。

そこで2回目では業務運用を変えて頂き、マシンラーニングに必要なデータとして8カ月分のデータを用意したうえで、同社の締め請求機能で利用しているバーチャル口座への対応も実施して再度検証を実施。SAP Cash Applicationのバージョンも、前回のバージョン4から7へと強化されています。

2018年9月に実施した第2回目の検証は、2947件のデータに対して、正答率を重視した値で、銀行報告書の50%で消込候補が提案され、そのうち正しい消込先が提案された正答率が92%となりました。提案率を重視した値でも、提案率が72%、正答率が78%となり、いずれも1回目の検証を上回る効果が得られています。

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イーグル工業株式会社 徳田 晋一 氏

PoCの結果について、イーグル工業 経営企画室 副室長の徳田晋一氏は次のように評価します。「提案率と自動化率が向上していくことで、作業工数を削減できる可能性が高いことが確認できました。特に、営業支店の担当者は受発注業務の合間などに兼務で消込業務に対応しているため、月初の3日間程度に集中して発生していた消込業務が削減されることで、本来の受発注活動や分析業務に携わる時間が増え、より生産性の向上につながることが期待できます」

同社では、2021年頃にSAP S/4HANAへの移行を検討しており、SAP Cash Applicationは、既存の業務に新たな付加価値を提供するものとして期待を集めています。

第2回の記事はこちら:インテリジェントエンタープライズの時代に SAPのマシンラーニングが果たす役割(第2回)

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