調達の効率化・透明性向上ーーーカリフォルニア州サンタクララ郡の取り組み

作成者:横山 浩実 投稿日:2018年12月6日

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公共調達は、調達一般が目指す姿である「透明性確保」、「必要な品質を安価に」に加えて、「公平性/談合防止」、「競争性の確保」、「産業保護等の配慮」を目指すという特徴があります。また、先進国ではかつてほどの経済成長が見込めず、また、少子高齢化時代による社会保障費の増大なども理由として、公共調達においては「Accountability/説明責任」がより強まっている一方、調達業務に掛けられる人的リソースも限られてきている、といったジレンマが生じているのが現実です。

本ブログでは、カリフォルニア州サンタクララ郡が、透明性の向上を目指して実施した調達業務の電子化を通じて、どのような成果を得、行政経営を改善したかを紹介します。

背景/課題

サンタクララ郡はカリフォルニア州の6番目に大きな地域です。シリコンバレーの中心に位置し、Google、Apple、Intelといった大企業の本社があることもあり、アメリカを代表するイノベーションの聖地と認知されています。郡政府では、180万人の住民を抱え、600億ドルの年間歳出予算を管理し、その約1/3を物品及びサービス購買に割り当て、50を超える組織において調達業務を行っています。2003年からは予算会計、在庫管理などの業務でSAP社のERPを活用し、歳入歳出の可視化などを進めていましたが、デジタル化が急速に進む社会において、調達管理部署は納税者からの歳入をより良く使い、住民それぞれの要求にこたえる形でのバランスの取れた予算執行に向けて日々苦心し、また、次の悩みも抱えていました。

  • 多数の有期契約における予定価格超過の発生
  • 手作業に起因する処理の非効率性
  • 直接費間接費双方のコスト削減が困難
  • コンプライアンス、政策、手続きの非遵守
  • 供給者及びサービス支出双方の統制不全

調達改善及びシステム導入に向けた検討体制

我々のゴールは全ての供給者に平等に機会を提供し、公平にかつオープンな手続きで業者を決定することです。そのためには、適切な資源・ツールを適切なタイミングで用いて、調達業務を適正にかつ迅速に行うことが必要だと考えました。
Jenti Vandertuig, chief procurement officer

調達管理部署はアカウンタビリティ(説明責任)及び透明性に対する住民からの要求が高まっていることを感じ、2013年にIT技術を用いて人とプロセスを変革させ、調達業務をよりよくすることを検討し始めました。
調達管理部門、IT部門、財務部門、病院関連部署でスタートした検討は、その後、調達に関与する全部署の関係者を参画させる形に広がり、最終的には300人以上の職員が検討に参加し、各人の知見・専門性から多面的な意見を提示しています。その際に、SAPはendo-to-endのソリューションであるSAP Aribaがどのように購買・契約業務に寄与するか等の、様々な情報を提供することで検討を支援しました。

成功の5要因

2015年の振り返りで、調達管理部署は次の通り成功要因として5つあるとしています。

  1. To-Beとして描いた財務及び調達ビジネスプロセスをAribaモジュールの組み合わせにより実現した
  2. 関係部署が一丸となって前に進んだーーSAPも含めたワンチーム、後ろを振り返らない
  3. 透明性、正直に、実際に顔を合わせて。SAP Aribaの商品ロードマップの示唆を直接利用して
  4. SAP Aribaへの機能拡張に対する強い提言
  5. スコープ・課題に対する着実な管理及びチェンジマネジメントの実践

業務上の必要十分性及び利便性が確保され、様々な業界の知見を組み込んだSAP Aribaを最大限に活用しつつ、更に将来も見据えてチェンジマネジメントを図ったことが、大きな成功要因であったといえるでしょう。

クラウドソリューションの特徴は迅速性であり、政府サービスには効果的です。また技術の心配をすることがなくなったため、組織間の連携やサービスの質の向上に時間を費やすことができるようになりました。
 Pomi Amjad, IT manager

成果

手続及び契約を単一のクラウドプラットフォーム上で扱えるようになり、その結果、供給者の多様性が確保できるようになりました。また、調達において、社会経済的観点の考慮も可能となり、グリーン(CO2配慮)購入や持続社会への貢献の観点からの供給者選定が可能となっています。同時に、住民、企業代表者、政府職員、郡議会議員などが調達経過を容易に確認できるようにもなっているため、透明性が担保され、また、調達管理部署は過去の実績よりベストプラクティスを明らかにし、よりよい調達を行うことも可能となっています。

数字で見る効果

90%  申請後即日承認される調達(過去は平均4週間)
80%  供給者の承認にかかる時間の削減割合
700  年間の電子契約件数(200億ドル)
40%  調達において電子的に処理される割合

santaclara

サンタクララ郡の調達改革(クリックすると動画が見られます)

サンタクララ郡とSAPはWin-Winの関係にあります。我々が用いた技術は調達改革を前に進めるのに寄与し、公共としての信頼を築くのに役に立ちました。
Jenti Vandertuig, Chief Procurement

 

紙文化の脱却を目指して

サンタクララ郡にはデジタライゼーションを担う世界最先端の企業に関わる住民が多く住み、当然のことながらデジタル化に対する住民の意識が高く、行政に対する各種期待も高く、ともすれば住民目線も「デジタル前提」志向が強いといった文化があると想像できます。そういった文化も、「アカウンタビリティ(説明責任)及び透明性に対する住民からの要求」に対応するために、調達部門が先進的なパブリッククラウドソリューションの採用することに決めた理由の一つになったと考えられます。

昔ながらの押印文化の日本では、最終合意などは紙文書で行うことも少なくありません。しかしながら、技術の進歩により電子データの方が「真正性」を担保しやすい時代は既に到来しており、また、昨今の各種不祥事・紙文書による不正などを背景に、各府省でも既に業務類型ごとの電子的取り扱いを明文化していますし、電子化を加速し始めています。

電子決裁移行加速化方針(平成30年7月20日デジタル・ガバメント閣僚会議決定)

デジタルファーストを実行するためには、文書の電子化・電子決裁にとどまらず、プロセスの最初、すなわち調達段階から支払・決算までをend-to-endで電子化することが不可欠となります。そして、その際には、サンタクララ郡の例のように、「イノベーションを期待する善良なる住民からの要求/期待」に正しく応え、変革を恐れず、むしろ、変革を志向して、標準プロセスをうまく活用する形で課題対応を図ることが、成功の秘訣であるといえるでしょう。

冒頭に記載した通り、官ならではの特異性もある調達業務ではありますが、「透明性確保」、「必要な品質を安価に」を目指すという意味では、民間とも共通的な標準プロセスの適用が可能な業務でもあります。デジタルガバメントの基礎であるこの業務において、ますますの「デジタルファースト」「ワンスオンリー」「コネクティッド・ワンストップ」を実現することが、予算の効率的執行に直接的に寄与できます。弊社はこのような諸外国事例を踏まえ、引き続き我が国の「デジタルファースト」「ワンスオンリー」「コネクティッド・ワンストップ」実現に向けた支援を行っていく予定です。

※本稿は参考文献をもとに筆者が構成したものであり、カリフォルニア州サンタクララ郡のレビューを受けたものではありません。

 

◇参考文献

https://www.sccgov.org/sites/apps/sccp2p/Pages/default.aspx
https://www.sccgov.org/sites/apps/sccp2p/collaborativecommerce/Recommendation%20for%20Change%20April%202014.pdf
https://www.sccgov.org/sites/apps/sccp2p/collaborativecommerce/Overview%20of%20the%20Ariba%20P2P%20Project.pdf
https://news.sap.com/2018/01/governing-procurement-with-accountability-integrity-and-digital-innovation/
https://media.featuredcustomers.com/CustomerCaseStudy.document/County_of_Santa_Clara_BTS.pdf

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