ビジネス成長を加速させる「トゥルーベル」のIT戦略


多くの商社・卸企業は市場での競争優位を得るために事業を多角化しています。これは、企業の成長・進化に合わせて全社オペレーションの根幹を支えるIT基盤もスケールできないと、全体効率を維持し続けるのが難しいとも言えます。新たな市場への展開やその市場毎に新たな付加価値を提供すれば、さらにその煩雑性は増えます。つまり、ビジネスの成長に伴って IT基盤の”複雑性の増加”や”柔軟性が欠ける”状態が生み出されやすい業界と言えるかも知れません。同じ様な状況を持つ「Truebell Marketing and Trading LLC(以下、トゥルーベル )」が、SAP S /4HANA® Cloudで実現させたストーリーが今回ご紹介する内容です。

トゥルーベル社とは?

Company Logo中東に行った際に、マヨネーズや醤油、カップ麺、乳酸菌飲料などの日本の商品が流通している事に驚かれた方もいるかもしれません。その流通に一役かっているのが トゥルーベル社です。

彼らは1984年にUAE(アラブ首長国連邦)で食品関連の専門商社として設立し、その後、食品・飲料を中心にビジネスを着実に拡大しながら、顧客が持つさまざまなニーズを事業に取り込みホスピタリティ、消耗品、小売などのビジネス領域を拡大しています。今では、GCC(Gulf Cooperation Council:湾岸協力会議)諸国と北アフリカを中心に20か国にビジネスを展開し、8,500種類の商材を取り扱う商社として業界内の優良サプライヤーの一つとしての地位を確立しています。

中東の企業を紹介するケースが少ないので、彼らのストーリーを紹介する前に UAEを含むGCC諸国の状況を簡単にふれることにします。

産油国であることは皆が知る事実ですが、この石油収入増は、GDPおよびひとり当たりの所得増以外にもインフラ整備や教育や医療サービスの普及に大きく貢献をしています。特に、医療サービスの普及による乳児死亡率の低下や出生時平均余命の伸びで、各国の人口は急激に増加しています。

国連の統計によると、GCCの人口は1975年の1,015万人から2005年には3,444万人と約3倍に増加し、2050年には更に倍増すると予測されています。

  • 1975年から2005年で約3倍増
  • 2005年から2050年で約2倍増(予測)

さらには、GDPこそはGCC合計で日本の約30%程度ですが、ひとり当たりGDP(ドル)を見ると、日本が40,105ドルなのに対し、UAEで41,476ドル、クウェートで31,911ドル、カタールに至っては 67,818ドルとなっています。Chart1

Source: 「世界経済のネタ帳」から引用

この結果から分かる様に、飲料や化粧品、生活用品といった分野でグローバルブランドが流通し、欧米的な生活スタイルを嗜好する人も増えてきている様で、トゥルーベル社もこの機会に乗じてを確実にビジネスを拡大してきた1社と言えるでしょう。

ただ、私がトゥルーベル社に注目したいのはこの成長を継続させている事です。

Revenue Growth
Source : YouTube Truebell Corporate Video HDより引用

トゥルーベル社の強み

トゥルーベル社は、中東および北アフリカ地域の小売・食品サービス業の顧客に、イタリアのオリーブオイルからインドの紅茶に至るまで、あらゆる種類の新鮮で本物の食品と飲料を揃えています。”世界中に品質を提供する(Distributing quality around the globe)”を目標に掲げ、30年以上に渡り主要ブランドの食品および飲料などの輸出入、倉庫・物流機能以外にも卸売、代理店機能なども担ってきました。

その事業展開を見てみると、

  • 食品事業:小売、食品サービス部門は、地域の小売、食品サービス企業向けの食品ブランドを30年以上輸入・販売してきた経験を持つ専門家集団。また、主要なケータリング会社からの中東地域以外への物流サービスを提供依頼から開始した輸出入&物流部門から3部門から構成
  • 飲料事業:グローバルブランドと提携し、取扱い商品は6,000以上
  • ホスピタリティ事業:ホテル、レストラン、バー、ケータリング会社、病院、クラブ、スポーツ施設に手頃な価格で幅広いプレミアム・ホスピタリティ製品を提供。また、多くの有名なグローバルブランドの独占販売代理店でもある
  • サプライ事業:石油・ガス会社、国連平和維持活動団体、NGO、救済機関、米国大使館 および米陸軍工事請負業者など、物流サービスやオペレーションが困難な国々の顧客ニーズに応えるために設立
  • 免税店事業:現在は、フジャイラの空港と海港で展開。今後、中東、アフリカ、アジアなどへの展開を視野に入れた成長事業Organization pictureSource : Truebell 社ホームページ

と多様。

一見関係なさそうに見えるこの事業展開ですが、以下の内容が読み取れます。

  • 獲得した顧客基盤のニーズに耳を傾ける事で取扱い商材を拡大(Category Growth)
  • 顧客のビジネス展開に応じた物流サービスを提供(Geographic Growth
  • この取扱い商材の充実化に伴い特定の顧客カバレッジを更に広げていき、
  • そのビジネスの経験・ノウハウを武器に、川下領域に展開(Value Added Services)

彼らの強みが、”獲得した顧客基盤に対し専門家集団による徹底的な「カスタマーサービス」を確立している”であることが分かります。つまり、次の成長の種を確実に見つけながら商材・市場を拡大しているからこの成長を持続出来ているとも言えます。

これは、その社名の由来にもなっている、RESPECT(同僚、サプライヤー、顧客、そして周りのコミュニティを尊重)とUNDERSTANDING(常にお客様の声に耳を傾け、お客様のニーズを理解し、誠実なサービスを提供することに自信を持って努力する)が、従業員の日々の活動の中に確実に浸透していることが分かります。この”お客様の声に耳を傾ける”はブランド作りの基本であることは皆が理解しながらも、そのことを意識して活動することは簡単ではありません。彼らは基本理念を着実に実行しその結果を次の成長に活かすことで、市場での競争優位になっています。Name

source : Truebell 社ホームページ

 

トゥルーベル社の課題

このように順調な成長を続けるトゥルーベル社ですが、IT基盤に関する課題が深刻化していました。

このビジネスを支える基幹システム(SAP以外のERPパッケージ)は、固有のビジネス要件を満たすために大きくカスタマイズされ、複雑性が増していただけでなく柔軟性が低下していたのです。また、急速なビジネスの拡大に伴い、システム自体のパフォーマンスも低下しはじめ、一部のレポートでは完了までに4時間も掛かる状態でした。さらに、意思決定に必要となるデータが複数の情報ソースに散在していたことで生産性を低下させる原因にもなっていました。

このような状況では長期的には自社の成長を支えることができないと考え、SAP S/4 HANA® Cloud、プライベートエディション、SAP HANA® Enterprise Cloudの導入を決断しました。

新たなIT基盤の検討に当たり、CIOであるVijay Jain氏は以下の様に語ります。

「ITは成長戦略において重要な役割を果たしますが、私たちはIT企業ではありません。この技術的な問題を処理するために大規模な専門家チームを築く必要はないので、プライベートクラウドに移行することが私たちにとって前進でした」

Vijay Jain, Group Head of IT, Truebell Marketing and Trading LLC

「Truebell」は、わずか6ヶ月で、最初の展開先であるグループ会社のいくつかの部門で利用を開始しました。その後、他部門やグループ企業にも展開予定ですが、システム稼働後のユーザーからフィードバックも非常に良好です。

数時間掛かっていたレポートがわずか10分に
  • 新しいシステムの応答時間が大幅に改善されたことにより、”生産性を向上させるだけでなく利用者の満足度も向上”
単一の情報ソースから有益なインサイトを得る(Gaining deeper insights with a single source of truth)
  • 情報ソースを単一化することでデータフットプリントは60%削減
  • これよりも、複数の情報ソースをマージする様な間接・付帯業務の削減やヒューマンエラーなどを大幅に削減できたことで、”利用者自身が情報が常に最新であることを理解してアクションする様に変化”
SAPFiori®のよるユーザーエクスペリエンス(UX)の改善
  • シニアマネージャーとエグゼクティブに対し、必要な情報を一目で表示し、それらを使いやすい形で視覚化したことで、”重要なコントロールポイントに関連するプロセスの多くは自動化され、時間と労力を大幅に削減”

その一例として、食品を扱う倉庫・在庫担当から改善報告が挙がっています。

”より簡単に製品の保管期間を管理できることで、収益性と食品安全基準の遵守という重要な要因管理を大幅に効率化できました”

 

トゥルーベル社のIT戦略

彼らの取り組みは、初期段階に過ぎません。次のステップとして、未導入拠点への展開を進めています。

「アジア市場への展開として、インドで新たなベンチャービジネスを開始しています」

Vijay Jain, Group Head of IT, Truebell Marketing and Trading LLC

今後、このIT基盤を活用し各拠点やグループ企業との連携を更に改善させていく予定で、ライブビジネスを展開させるための”ビジネスインテリジェンス”や顧客基盤や専門家集団の更なる強化としての”CRMや人材管理”などの導入も予定しています。

「これらはSAPで得られた迅速かつ容易なスケーラビリティです。この強力なビジネス基盤を活用しビジネスへの貢献度を強化していきたい」

Vijay Jain, Group Head of IT, Truebell Marketing and Trading LLC

まとめ

このストーリーを通じてお伝えしたかったのは、「ビジネス戦略とIT戦略の融合」という点です。

多くの企業では、既存のビジネスを維持しながら、川上・川下の変化や競合環境による改善・進化を繰り返すために、要求自体がどうしても例外化してしまいます。その例外対応を繰り返す中で仕組み自体が複雑化してしまい、その結果、仕組み自体が硬直化してしまう状況を招きがちです。この事態を放置すれば効率性や生産性が低下することになり、マージン確保が困難になると同時に、市場における新たな付加価値を創出する余力も創出出来ないことになります。

当たり前に捉われがちですが、以外とこの点に苦戦している(気付いてはいるが周りからの共感を得られずいる)企業が多いように見えます。

以下は、2004年のマッキンゼーのレポートですが、”生産性改善は、ビジネス・ITを融合させた方が効果的である”事を示しています。「業務プロセス改善は散々実施してきた」と言う企業も、課題の洗い出しで終わっていたり、仕組み化(標準化や集約化など)までは実施していなかったりするのでは無いでしょうか。Buz vs IT

* Key performance improvements i.e. Lean Manufacturing, Performance Mgmt., Six Sigma. Source: “When It Lifts Productivity”, The McKinsey Quarterly, 2004 Number 4

このストーリーでは、ビジネス成長を更に加速させるために従来のIT戦略を大きく見直し、ビジネス戦略と融合したロードマップを描き、実行しています。そこで「クラウド」が選択されたのも、”従来のような時間の使い方をしていては彼らのビジネスの進化スピードについていけない”というのが大きな理由でした。

皆さまの企業でのIT戦略は、ビジネス戦略とどの程度融合できていますでしょうか?

彼らのように、SAPを”エンドツーエンド・プロセスのコモンプラクティスを持ち、それらを最新のテクノロジーと融合させ全体プロセスを最適化できる基盤(ビジネスとITをパッケージ化したもの)”として評価し、ビジネス側の要求するスピード感での業務基盤として提供している良いケースだと言えます。

最近では、「働き方改革」をキーワードにIoTやAIなどを変革のキーワードにあげているケースが着実に増えているかと思います。これらを単なるIT技術の進化として捉えるだけでなく、ビジネス自体の変化(プロセスやワークスタイルなど)に着目し「棚卸し」してみるのも良いかも知れません。

以下のリンクは、SAPが業界別にテクノロジーの進化が既存プロセスにどのような改善機会をもたらすのかを整理したものです。ご興味があれば是非ご覧ください。

How Wholesale Distribution Companies can Benefit from SAP S/4HANA and SAP Leonardo

最後に

このような情報発信に共感いただける皆様がいたのであれば幸いです。今後も筋の良いネタを発信し続けようと思いますのでよろしくお願いします。

※本稿は公開情報に基づき筆者が構成したもので、トゥルーベル社のレビューを受けたものではありません。