素材産業向けグローバルイベント開催報告 − 前編:BASFが考える次世代のビジネスアーキテクチャを中心に


SAPにおける素材産業のお客様向けグローバルイベントが、2018年10月16〜18日の日程で、チェコ共和国はプラハにて開催されました。業種・業界としては、化学(Chemicals)、金属(Mining and Metals)、製紙・繊維(Forest Products, Paper and Packaging)、および、建材(Building Materials)といったプロセス製造業の多くを対象するものです。当ブログでは、前編と後編の2回にわたりその様子をお伝えしようと思います。とくに化学業界の巨人BASF社が基調講演含めた複数のセッションで情報発信しており、それらをフィーチャーしていきます。

業種・業界別イベントサイトへのリンク

化学:International SAP Conference for Chemicals

金属:International SAP Conference for Mining and Metals

製紙・繊維:International SAP Conference for Forest Products, Paper and Packaging

建材:International SAP Conference for Building Materials

イベントの開催概要としては、参加登録の総数は約500名、金属業界から200名弱、化学業界から150名弱の参加を頂きました。また、53カ国からの参加登録があり、日本からの21名の参加登録はドイツに次いで2番目であった模様です。日本からは、金属および化学業界のお客様を中心に10社21名の方々にご参加頂きました。各業界からのビッグネームの基調講演や事例発表、新製品(コンセプト)含めたSAPソリューションのアップデート、また、パートナー企業によるマイクロフォーラムやデモンストレーションといった数多くのコンテンツから様々な情報が発信されていました。同時に、SAPエグゼクティブやお客様同士のミーティング、ネットワーキングが随所で活発に行われていました。


Joint Opening SAP Keynote: The Intelligent Enterprise – Enabling Digital Transformation

[講演資料リンク]

SAPが認識する素材産業におけるチャレンジ

初日(Day1)の基調講演は、SAPの業種・業界別組織(IBU: Industry Business Unit)における金属業界および化学業界のそれぞれグローバル統括バイス・プレジデントであるEckhardt SiessとThorsten Wenzelのプレゼンテーションで幕を開けました。Eckhardtの開催挨拶を受けて、Thorstenが化学業界も含めたB2Bプロセス産業界における4つのチャレンジを例示し、業界トレンドについてのSAPの理解を示しました(下図)。

SAP Prague Opening

中でもPriority #1である”Deliver customer outcomes, not products”については、Thorstenが15年前にSAPのCRM Solution Managerとして活動していた頃とは、信じられないほど大きく環境が変わったという認識を共有していました。かつてB2B企業は、ビジネスの多くがコントラクトベースであり、代理店・ディストリビューターを介しての活動が殆どであったのに対し、いまは劇的に変わりつつある、と。B2Cビジネスにおける”Segment of One”のマインドセットで、個々のバッチ生産のカスタマイズを含め、顧客接点から製造プロセス全体に至るまで、個々のお客様の細かい要求仕様に対し、柔軟かつタイムリーに対応できることが必須であると主張していました。

“Intelligent Enterprise”アップデート

続いてSAPに在籍すること28年、製品開発組織(P&I: Products & Innovation)のバイス・プレジデントであるChristoph Behrendtが登壇し、SAPの製品戦略の根幹である”Intelligent Enterprise”についてアップデートしました。Intelligent ERPとこれまでのERP(Legacy ERP)はどう違うのか、UXや自動化、次世代プロセスといった観点で大きく異なることを主張していました(下図)。

SAP Prague Intelligent ERP

自動化という文脈では、化学物質管理におけるdangerous goods classificationの”Intelligent solution”は、業界向けのシナリオとして注目に値する内容であったと思います。化学物質とりわけ危険物の管理は化学業界をはじめとした種々の業界で非常に重要なわけですが、そこに機械学習を取り入れ、人手では到底追いつかない作業を自動化するというシナリオです。少し具体的に踏み込むと、危険物の分類や法令対応には非常に多くの情報が必要であり、業種別や国/地域別の要件と相俟って、管理要件の複雑性も膨大です。そこで、30万件に上る危険物質の既存・既知の分類データ、数多くの属性情報などを機械学習のトレーニングデータとして使用します。結果として、新規の化学物質を管理する際、98~99%の信頼性をもって危険物の分類が自動的になされ、人手による作業のうちその75%をも無くすことができました。余談ですが、SAP Chief Innovation OfficerのJuergen Muellerは、SAPの製品戦略として2020年までに50%のマニュアル作業をIntelligent Enterpriseにより無くすことを目標として掲げています。化学業界のIntelligent化がどのように進むのかの、ひとつの具体的なソリューションが示されたわけです。なお、同様の文脈で、とくに金属や製紙・繊維業界で重要となるConfigurable Productsについても機械学習の適用事例が紹介されました。それらのソリューション適用例を通して、”SAP HANA Data Management Suite”の重要性と価値が訴求されます。「ビッグデータ」や「IoT」がもはやバズワードでなくなってきているとは思いますが、それら企業のIT資産の中に散在する大量データを文字通りどのように”Manage”するのか、Intelligent Enterprise実現のためになくてはならないソリューションであることが強調されました。

続いてモバイルアプリのデモを通してSAP C/4HANA、また、SAP S/4HANA Cloudの製品戦略についてアップデートがありました。とくにCustomerの領域については、今回のイベント全体を通して、B2B企業における再考の必然性・重要性が主張されていたと思います。

Joint Opening Customer Keynote: Next Generation Business Architecture – Embracing the Digital Age at BASF

[講演資料リンク]

BASFが考える次世代のビジネスアーキテクチャ

お客様による基調講演は、言わずと知れた化学業界の巨人、BASFのCIOであるWiebe Van der Horst氏によるセッションでした。”Next Generation Business Architecture”と題されたこのセッションで、BASFが辿り着いた彼らの次世代の「ビジネス」アーキテクチャが発表されたわけです(下図)。

SAP Prague BASF-Architecture

新しいアーキテクチャにより売上増大やコスト削減のビジネス目標へ貢献していくことを強調しており、研究開発(R&D)、サプライチェーン、プラント保全などの機能領域において、徹底した「デジタル化」を促進しようとしています。それらは、Industry4.0の文脈で、End-to-endの統合やデジタル・ツイン、デジタル・ビジネスモデルを大きく意識している内容でした。また、新しいアーキテクチャを考える動機付けとして、そのIndustry4.0をトリガーとして”Technology Ambition”が高まったこと(下図左)、現行のアーキテクチャは90年代初頭にせいぜいインターネットが出始めた頃のものであり陳腐化していることを挙げています。もちろん日本の多くのお客様にもあてはまることと思います。そして、How=どうやってやるか?については、「ベストから学べ(”Learn from the best”)」ということで、Alphabet(Google)やAmazonを例示しました。すなわち、それらの「ベスト」企業は、以下3つの要素(”3 corenerstones”)を兼ね備えていることが語られました(下図右)。

  1. 大量のデータ資産を格納する”modern backend“を持っていること(Hadoop, AWS)
  2. それらをAIなどを活用して”smart data“に変換していること
  3. さらにそれらを統合し(integration & organization)、”user experience“を提供していること

これら3つを「ベスト」企業からのエッセンスとして抽出し、自分たちのアーキテクチャ将来像を方向付けたわけです。

SAP Prague BASF-3Cornerstones

BASFにおけるERPシステムの今後

セッションの中では、これまでのBASFにおけるERPシステムの進化の歴史にも触れています。1990年代には法人毎にシステムがバラバラに導入されていましたが、地域別に統合するというステップを経て、いま現在は”One globally consolidated system”としてECC6.0をシングルインスタンスとして運用していることが共有されました。ただ、その進化の過程で、システムも巨大化し複雑性も高まってしまったことにも言及がありました。今後目指す方向性として、そのシングルインスタンス=ERP Coreは徹底的にシンプル化し、”差別化に資するアプリケーション(Differentiated applications)”と、より”汎用的なサービス(Commodity services)”の2つの要素を兼ね備える次世代ビジネスアーキテクチャを実現していくとしています。


Day1では、基調講演以外でも、BASFのセッションが以下のように複数開催されました。

  • The Increasing Importance of Customer Experience in the Chemicals Industry
  • Importance of Data Integration for Successful Transformation
  • Next Generation Business Architecture at BASF: The Internal Partner Engagement – Design Phase

上記セッションについては、当ブログの後編でダイジェストをまとめます。