デジタルトランスフォーメーション待ったなし! — 躍進する新興国、貫禄を見せる先進国、我々は?


「リバースイノベーション」という言葉をご存知でしょうか?米ダートマス大学タック・スクール・オブ・ビジネスの世界的戦略論の権威、ビジャイ・ゴビンダラジャン教授が2009年ごろに提唱したイノベーションの一形態です。イノベーションは先進国で生まれ、その劣化版を新興国に展開するという一般的イノベーション概念と比較して、リバースイノベーションは「リバース」が示すように、新興国で先に生まれて先進国に「逆」輸入されたイノベーションのことを指します。新興国には新興国固有の課題があり、新興国自体を生産拠点ではなく市場として見立てる必要があること、その学びと解決方法が先進国にもはね返ってくること、グローバライゼーションが加速化する中その重要性がさらに高くなるだろうことが多くの事例とともに経営理論として語られています。

デジタルの世界では、新興国ではレガシーシステムを持たず、最新テクノロジーをベースにすばやくデジタル戦略を展開可能で、リバースイノベーションの意味合いはさらに大きなものと考えられます。クラウドやスマートフォンが先進国同等もしくはそれ以上に普及している現在の新興国の様子を考えれば、デジタルによるイノベーションが新興国で面白いものになることは想像に難くないでしょう。先進国で起こっていることのみならず、新興国で起こっていることを自分事と捉えて考えることはデジタルトランスフォーメーションの文脈でも重要な経営マターです。以下で、それぞれについて詳細を見ていこうと思います。

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躍進する新興国

日本のお客様の中にはUSやドイツの企業や組織を「先進」と見なし興味を持たれる方が多いと感じています。しかしこれまで「新興国」、ややもすると日本よりも遅れていると思い込んでいた国々が、言語の壁が低い、あるいは地理的に近いといった理由で、いわゆる(日本以外の)先進国リソースの知見を有効に活用しながらアグレッシブに変革を推し進めビジネスを拡大しています。そこにはDisruptされる既得権益勢力がないことも大きいのですが、それは決して日本企業の変革が進まない言い訳にはなりません。

ここでは最近公開されたブラジル、オーストラリア、トルコ、中国、UAEの企業や組織のデジタル化の取り組みを紹介します。

ブラジルの家族経営の農機具メーカーが生き生きとしているのは「食料を生産してくれる農業従事者」を主役に位置づけ、彼らの生産性向上に貢献する、いわゆる社会的意義のある仕事をしている充実感からです。

顧客中心主義でビジネスを拡大 – ブラジルの農機具メーカー スタラ (Stara) の挑戦(古澤 昌宏)

行政によるマシンラーニングを活用した納税困難者になりそうな住民に予め目星を付けておく取り組みは、入金遅延防止の観点から行政のみならず民間企業の参考にもなりそうです。

納税者目線の健全な「税金滞納」防止ーーー豪クイーンズランド州のマシンラーニングを利用した取り組み(横山 浩実)

大規模設備を抱え、短期間で統合のシナジーを出す命題を課された送配電事業会社の取り組みは、変革待ったなしの日本企業にとっての好例です。

タスネットワークス:デジタルトランスフォーメーションによる託送料削減を実現(田積 まどか)

ドイツで創業した自動車テールライトメーカーがトルコ企業に買収されたのちにビジネス変革のために採用したのは、ドイツSAPの業界テンプレートでした。

オデロ:陳腐化したオランダ生まれのERP撤去と自動車業界デファクトなデジタルプラットフォームの短期導入(山﨑 秀一)

中国の靴製造メーカーが新しい顧客体験を創造するために、AIを活用してかつては憧れだった靴のオーダーメイドを開始。デジタル技術がファッション業界に新風を巻き起こします。

あなただけの1足を簡単に手に入れる~Fashion Industryに見るAIの活用~(熊谷 安希子)

起業後30年も経てば、いくら新興国企業でもレガシーシステムを抱えていて不思議ではありません。UAEの食品関連専門商社は自らの成長カーブを維持するためのIT戦略を立て、確実に実行し結果を出しています。

ビジネス成長を加速させる「トゥルーベル」のIT戦略(土屋 貴広)

貫禄を見せる先進国

多様化した要件、既存のビジネスプロセス、複雑でもはや仕様がわからなくなったレガシーシステム、複数の情報ソース・・・。これらを抱える先進国の企業が多くの日本企業と同じように苦悶しているだけかと言えば決してそうではないことが、どなたでもご存知のあの著名な企業の取り組みから伝わってきます。

まずはUS企業から。由緒ある巨大企業も躍進する新興企業も行政機関も立ち止まることを知りません。

巨大グローバルIT企業だからこそ解決しなければならない課題がありました。従業員ひとりひとりの経費精算業務負荷の軽減は、まさに働き方改革なのです。

IBM : デジタル技術を活用した従業員働き方改革の実現(吉岡 仁)

システムインテグレーターの社内システムは、時に「紺屋の白袴」になってしまうことも。実ビジネスの知見と実績を社内のシステム基盤に適用した弊社パートナー企業の驚きの成長ストーリーです。

イントリゴ — 自社のシステムインテグレーションノウハウで変革を実現(久松 正和)

デジタルの聖地では行政による調達業務もデジタル化されています。しかし決して聖地だからと言い訳して見過ごすことはできません。結果は全て我々住民に返ってくるのですから。

調達の効率化・透明性向上ーーーカリフォルニア州サンタクララ郡の取り組み(横山 浩実)

世界的金融サービス企業は、SAP ERPによるバックオフィス業務集中化を皮切りに、さらにSaaSソリューションを加えて削減したコストをIT投資の原資としデジタル化に向けた舵を切っています。

世界有数のグローバル総合金融サービス会社であるJPモルガン・チェースが挑み続けるバックオフィス業務改革、そしてデジタルシフトへの歩み(前園 曙宏)

「消費者の皆様が欲しい時にすべての製品を確実にご提供できるようにする 」 競争の激しい消費財業界で革新的でいるためには、強固なグローバルサプライチェーン基盤が不可欠です。

エッジウェルパーソナルケア社のデジタルトランスフォーメーションとサプライチェーン改革(大滝 明彦)

もちろんUS企業だけではありません。

由緒あるドイツ自動車メーカーとSAP、長い付き合いの積み重ねがあるからこそ培われた両社の強い絆を新たな手法にも生かして、自動車業界の未来が設計されています。

ダイムラーとSAP — ソフトウェアベンダではなく協業・協創するビジネスパートナーとして(森田 康之)

ビッグデータは単にデータを集めることに非ず。明確な要件に基づき情報ソースの異なる医療データを統合しがん治療の現場で活用した結果から、目標治癒率という未来が見えました。

高齢化社会へのヒント — ギュスターブ・ルシーが取り組む個別化医療(松井 昌代)

業界別最新動向

SAPでは各業界にソリューション責任者がいて、彼らが中心となってさまざまなイベントが行われたり、次世代ソリューションが開発されています。特定のお客様の取り組みだけでなく、業界全体の取り組みからの示唆もこれからの日本に向けた重要なインプットと考えています。

今年10月の素材産業向けグローバルイベントのお客様セッションで注目を集めたのは、やはり化学業界の巨人でした。

素材産業向けグローバルイベント開催報告 − 前編:BASFが考える次世代のビジネスアーキテクチャを中心に(竹川 直樹)

ともすれば担当者の勘と経験に頼っていた調達・購買領域にデジタル技術を活用。労働力不足問題解決がSAPの真の目的です。

製造業におけるサプライヤー価格交渉の再創造(柳浦 健一郎)

買収を重ねながら成長してきた大手旅行代理店の課題に応える取り組みが元になり、SAPは旅行業界向け機能強化を行いました。

お土産もフライトもホテルもショッピングカートへ — eコマースサイトのショッピングエクスペリエンスを旅行予約でも実現 - ドイツTUI(松尾 康男)

 

自分事としてのデジタルトランスフォーメーション

先進国のみならず、新興国で起こっていることでも示唆に富むデジタル戦略実行はたくさんあることがわかっていただけたかと思います。ただ、理解はしても「そうはいっても、まだまだ自分の会社・業界には関係ない。新興国とは環境が違う」と思われる方は多いでしょう。特に、内需を基盤とする企業の方はそう思われるかと思います。でも、こうした世の中の動きをつぶさに察知し、打ち手を展開してくるのは海外の既存・新規の競合他社かもしれません。まさに、リバースイノベーション戦略を実行し、新興国マーケットでイノベーションを興しそれを日本を含む先進国マーケットに展開しようとする海外企業は、今後もっと増えてくるでしょう。「どんな企業であっても、やらなければやられる」、そういう時代にすでに突入しています。デジタル技術はリバースイノベーション実現においてもKey Enablerとなるでしょうし、それによる企業変革全体はデジタルトランスフォーメーションとも呼ばれることになるのだと思います。「日本発世界へ」、Team Japanとしてお客様とともに我々SAPジャパンも発信力を強くして、日本企業のデジタルトランスフォーメーションをより力強くお手伝いしていきます。