クラウドERP導入プロジェクト事例 – 日立ハイテクノロジーズ – 追加開発が積み上がったERPのクラウド化


日本企業ならではのERPの実態

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クラウドは企業ITにとって欠かせないインフラとなった。最近では基幹システムのクラウド化を検討する企業も増えている。実際、ERPベンダーの売り上げもIaaS/SaaSビジネスが右肩上がりで上昇しているという。2020年度には、オンプレミスとクラウドの比率が逆転するという予測もある。

しかし、IaaSならまだしも、SaaSとしてERPを利用するとなると、そう簡単な話ではないという声も多い。背景にあるのが、日本企業ならではのカスタマイズ、アドオン開発だ。

標準的なプロセスに業務を合わせ、効率化を図れることがERP導入の1つのメリットではあるが、どちらかというと現場主導の傾向が強い日本企業の多くは、既存の業務を再現するために、ERPに対してカスタマイズや追加開発を行っている。しかも、長年の運用のなかで、その数もさらに積み上がっている。

このような状況で標準機能の利用が前提となるSaaSに移行するのは、確かに簡単な話ではない。経営の合理化のためにクラウド利用を推進したい経営層と、既存の業務プロセスを守りたい現場との間で情報システム部門は板挟みとなっていることだろう。

とはいえ、クラウド化にチャレンジしている企業ももちろんある。そうした企業は、どのようにこのハードルを乗り越えたのだろうか。参考にしたい事例の1つが、先端科学分野や医用システム分野でハイテク・ソリューション事業を展開する日立ハイテクノロジーズだ。

クラウドERP導入のノウハウをどうやって得るか

株式会社日立ハイテクノロジーズ デジタル推進本部 本部長 酒井 卓哉氏

株式会社日立ハイテクノロジーズ
デジタル推進本部 本部長
酒井 卓哉氏

「科学・医用システム」「電子デバイスシステム」「産業システム」「先端産業部材」の4つのセグメントで、グローバルに事業展開する日立ハイテクノロジーズ。医用分析装置や半導体製造装置など数多くのハイテク・ソリューションを提供している。

ハイテク・ソリューションは高度な専門性に加え、顧客ごとのニーズにきめ細かく応える必要がある。「激化する競争のなかで存在感を高めていくためには、営業、開発・生産、サポートなどの各部門、さらには各国に展開しているグローバル拠点間の連携をこれまで以上に密にして協力し合う必要があります」と同社の酒井 卓哉氏は述べる。

既存のERPはオンプレミスで運用しており、「製造」「販売」「サービス」、そして海外拠点が利用するための「グローバル」という4つのインスタンスを運用している。

先に述べたグループ間の連携強化、およびバリューチェーンの高度化・最適化を実現していく上でも業務プロセスの見直しは必須。同時に運用工数を削減し、常にシステムを最新に保ち、セキュリティリスク等に対応していくには、クラウドを利用してIT運用業務も標準化していかなければならないと考えています」と酒井氏は打ち明ける。

とはいえ、既存の業務の基盤となっている本社のERPをいきなりクラウドERPに移行するのはリスクが大きい。まずは移行ノウハウを蓄積することが先決と考えた。そこで注目したのが、2017年4月に発表した分析装置事業買収に伴うシステム整備だ。

買収した同事業はイギリスを本社とし、中国・ドイツの製造拠点、アメリカのセールス&サービス拠点、フィンランドのR&D拠点というグローバル5社で成り立つ。買収後は新システムの稼働が必要になるため、まずはこの5社の基幹システムをクラウドERPで統合してみて、それを試金石にしようというわけだ。

本社がSAP ERP ECCを導入していることもあり、クラウドERPは、SAPの「SAP S/4HANA Cloud」(以下、S/4HANA Cloud)を採用した。

検討段階では、まずSAP社と共に簡易適合分析「Discovery Workshop」を実施。「事前に動くシステムを操作し、機能や適合性に問題がないことを確認しました。そこで、オンプレミスのERPとほぼ同じ機能、操作性であるのを見て、安心しました」と同社の竹林 亜紀恵氏は語る。

「Fit to Standard」で標準に業務を合わせる

株式会社日立ハイテクノロジーズ デジタル推進本部 ビジネスIT部 部長 竹林 亜紀恵氏

株式会社日立ハイテクノロジーズ
デジタル推進本部 ビジネスIT部 部長
竹林 亜紀恵氏

S/4HANA Cloudの導入プロジェクトは、それまでのオンプレミスのERPとは全く異なった。従来のERP導入は、業務を洗い出し、機能要件を定めてシステムを開発し、現場にレビューしてもらうという、いわゆる「ウォーターフォール開発」だった。しかし、S/4HANA Cloudは、既に動くシステムがそこにある。したがって、現場と一緒にそれを見ながら、「この機能は必要」「これはいらない」「ここの設定はこうしよう」と「アジャイル開発」の要領で進めることができた。

「既存システムは経過措置として2018年12月までは継続利用できるが、その後は利用できなくなることが決まっており、短期間での構築が必須でしたが、それに対応できたのはクラウドだからこそです。業務担当者が動きを見て、使い方を理解したらデータを入れていくという手法で導入を進め、最初のミーティングとトレーニング以外はリモートでのコミュニケーションで対応。プロジェクトルームのないプロジェクトは初めての経験でした」と竹林氏は言う。

この課程で気がついたのが、日本国内と海外のスタッフの標準機能に対する意識の差だ。海外のスタッフは、標準機能に業務を合わせることをすんなりと受け入れてくれたのである。

「今回の大きなテーマは『Fit To Standard』。まずは実績を作って、本社のクラウドERP導入のファーストステップとすることが目的です。標準機能への抵抗感が少ない海外をチャレンジの場とできたことは、今後に大いに生きてくるでしょう」(酒井氏)

グローバル統合ERPをわずか半年でサービスイン

現在、同社は、まずイギリスとアメリカの2社でS/4HANA Cloudをサービスインさせている。「約半年という短期間で最初の2社にサービスインできたことに私たち自身驚いています。作らずに使うERPのメリットを実感しています。クラウドということで、システムの性能、処理パフォーマンスには少し不安もありましたが、今の所良好です」と竹林氏は話す。
チャレンジという位置づけであったS/4HANA Cloudの導入だが、同社は既に様々なメリットを実感しているという。

まず「バージョンアップの手間を考えずに済むのは大きい」と酒井氏。SAP側が定期的にバージョンアップを行うため、常に最新の機能や技術を利用できる。市場環境や顧客ニーズの変化にも迅速に対応が可能だ。

アドオンやカスタマイズがあると、機能や動作の継承性を検証しなければならない。「オンプレミスERPの場合、バージョンアップは数年に一度の大プロジェクト。かかる費用も非常に大きかったのですが、クラウドならもはやそれが不要になるのだということを体感しました」(竹林氏)。

前述したとおり、このプロジェクトは日立ハイテクノロジーズの今後を見据えた試金石でもある。「将来的には、グループ全体のERPの一元化を図りたい。言葉や文化の壁がある海外でできたことが、日本でできないはずがない」と酒井氏は前を向く。

この成功体験で培ったノウハウや方法論を生かし、同社はS/4HANA Cloudを活用したグローバル・バリューチェーンの最適化を目指す。もちろんハードルは低くはないが、それがグループシナジーの最大化につながると確信している。ハイテク市場における存在感をより高めるためにもチャレンジを継続する構えだ。

参考資料 1 >> 日本品質クラウドERP–SAP S/4HANA Cloudをお客様固有のシングルテナント型
参考資料 2 >> 日立ハイテクノロジーズ–クラウドERP導入事例