ダイムラーとSAP — ソフトウェアベンダではなく協業・協創するビジネスパートナーとして


Daimler

Daimler社はBMWと並んで、新聞紙上では「独高級車メーカーの」という冠のつく自動車メーカーです。2017年の売上高は約21.4兆円(1,634億ユーロ)、営業利益約1.9兆円(147億ユーロ), 営業利益率 8.9%を誇り、文字通りエクセレントカンパニーです。ちなみにVW(フォルクスワーゲン)が30兆円弱 (営業利益 1.8兆円)、BMWは12.8兆円(営業利益 1.3兆円)、トヨタ自動車が29兆円(営業利益 2.4兆円)となっています。

Daimler社は、現在の社名は Daimler AGですが、その昔はダイムラー・ベンツであったり、ダイムラー・クライスラーの時代もありました。2007年のクライスラー社との合併解消後は、社名から「ベンツ」はなくなり、「ダイムラー」となりました。

「独高級車メーカーの」Daimler社ですが、実際は、Daimler Cars (smartなど)、Mercedes-Benz Cars、Daimler Trucks、Mercedes-Benz Vans、Daimler Busesといったブランドから構成されており、総合自動車メーカーです。320万台超の販売台数のうち乗用車は約75%を占め、トラック、バンと続きます。

 

常にSAPの自動車事例で挙げられるDaimler

筆者は自動車産業を担当しており、SAP社内で自動車の事例を探すとき、一番多く出てくるのがDaimler社事例です。逆に、事例を見つける、というより、筆者自身が「Daimler事例は?、Daimlerではそこの仕事どうやってるの?」と問いかけて探しています。そのくらい、事例は多いし、実際にプロジェクトを見聞き・体験した同僚も多い、特別な関係であると言ってもいいと思います。

筆者は、現在のようなDaimler社とSAPの関係がどのように築かれてきたのか、調べたことがあります。筆者の経験によれば、少なくとも90年代半ばまでのSAP標準機能は当時の自動車のサプライチェーン業務水準には達しておらず、「使えなかった」はずであるのに、2000年代に入ると、徐々に自動車らしい機能を備え、筆者が実際に導入をした2010年代では、サプライチェーン基本機能ではほぼ充足していたからです。有体に言えば、いったいどうやってSAP自動車サプライチェーン機能は育ってきたのか、あるいは「育てられてきたのか」、知りたくなるものです。

 

共に考える協創関係

筆者が欧州で部品メーカーの一員としてSAP ERPを導入していたころ、現地のコンサルタントやエンジニアたち、あるいは自社の(古株で、歴史を知る)IT部長たちに、「いったい、いつの間に、どうやってJIS/JIT (Just-In-Sequence / Just-In-Time)のコンセプトを織り込んだ機能を熟成させていたんだ?」と聞いていました。事情通たちは、この機能の基本コンセプトはX社ベース、こっちの機能はY社ベースの発展形と言えると思うよ、という話をしてくれました。その変化は劇的であり、どう見ても実プロジェクトで協業をしながら、お互いに「揉んで、揉んで作り上げたのだろう」と想像をしたものです。当時の筆者のように、自動車のタクトタイム生産、1個流し/1台流しを最初に学び、ERP古典時代のロット生産とのギャップに悩み、ERPでもぜひ実現してほしいと願っていた者にとって、自動車生産の要諦に関わるコンセプトの実装、その現場で、お互いにお互いを知る、をベースに、例えば本当のJust-In-Sequenceの機能とは何かを詳細に追求していった姿を想像するのはなかなか刺激的なものでありました。

このビデオが示すのは、Daimler社とSAPは、最新のデジタルサプライチェーンを作り上げるのにあたり、ソフトウェア製品の提供関係ではなく、その基本コンセプトから共同で作り上げてきている、ということです。SAPソリューションには、高度な業務アプリケーション実装を下支えするためのインフラストラクチャ、システム技術の提供だけにとどまらず、「物流とは何か」「調達とはどうあるべきか」「データのリアルタイムとはどういう意味か」等の根源的問いかけから始めることができる能力がある、あるというか、少なくとも自動車メーカーに認めてもらえるだけの能力は示すことができる、ということです。

ここに出てくるDBSは、Digital Business Serviceと言います。ソフトウェア製品提供者ではなく、サービス提供者です。そしてそのサービスの意味は、SAPソリューションをこう使うというレベルのものではなく、先進の自動車サプライチェーンはかくあるべし、さらに、次代はかく発展させていくべし、ということを、「ともに考えるサービス」です。自動車の車両物流も部品物流もきわめて複雑で高度なものです。単に「シンプル」にはできないものもたくさんあります、世界中に立地し、人を雇い・育て、部品を調達し、車両を納入するということは、そういうことです。従来のパッケージソフトウェア(ERP)の範疇を超えて次世代の高度なしくみを作り上げるということは、未来の業務を設計し、システムを設計し、実装するということです。そこをSAPはDaimler社とともに、ある分野については、コンセプトレベルから「創った」ということなのでしょう。そういう想像ができます。

実は筆者はシステム・エンジニアでもあったので、世界最高水準のものを「創る」ということにも憧れます。できることならこの手で一緒に作り上げてみたい。パッケージERPにはないけれども、世界で最初に創ってみたい、という気持ちです。この意味で、SAPはDaimler社と組む機会を得たことで、サプライチェーンの世界で先端を行く業務を創造できている、ということが言えると思います。

 

モノゴトの考え方の手法で協業する

Daimler社も他社と同様に、SAPの人やメソッドを活用、実際には協業して「思考方法を変える」ことに取り組み、さらに、実際の業務に適用して大きな改革効果を出しています。前章で筆者は、Daimler社とSAPがDaimler社の本業部分で協業していることを紹介しましたが、すでに関係は次のフェーズに入っていることを示すものがこれです。

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SAPがDesign Thinking手法の、かなりの先駆者であることは有名ですが、一方で自動車出身の筆者は、Design Thinkingの原型が自動車メーカーの思考手法、例えばCE(Chief Engineer, 開発主査)のペルソナ設定であるとか、部門間跨ぎの大部屋方式であるとかに求められるのを知っていました。本音を言えば、日本でなくても、ドイツの自動車メーカーであっても、その思考手法はかなり定着しているはず、というのが筆者の想定です。

では、なぜ、Daimler社はSAPと思考手法、デザイン思考手法でも協業を進める関係になれるのか。

ひとつには「先駆した経験者から学び取る」というDaimler社がSAPに共感を示す関係性ではないかと思います。上記したように、そもそも自動車のサプライチェーンの根幹から一緒に考え一緒に作り上げてきたという濃密な関係性は、お互いに知ってほしい、お互いにもっと深く知り合えるための実践で培われてきたのでしょう。それをベースに、先駆のものから学びあうという関係性なんだろうと思います。

もうひとつ、ここで数値を挙げることはできませんが、通常行われているDesign Thinkingと違い、時間の制約を少し緩くしているという事実があります。筆者も常々感じていたことですが、テーマによっては即断即決・アイデア勝負のものと、じっくり考えるものがあると思います。巷間言われるように、自動車メーカーは「品質」について尋常ならざる責任を持っています。ここは他の産業と大きく違います。そういう環境にいると、どうしても慎重になる、じっくり時間をかけて考えたくなる、これは日独変わらないと思います。

テーマによって、「重くて、だから少し時間をかけてじっくり考える」というアレンジをしているケースと、新サービスのように「人が中心にいて、何か役立つこととか、こうなればいいのに」に対してデザインを巡らすケースとがあります。パッパッと考える、やってみる、これがDesign Thinkingの特徴です。一方で、どう考えても、法律や安全や品質といったもので慎重にならざるを得ないテーマもある、そういうときは少し時間をかけていいのです。それを巧みに両社で考え、臨機応変に実践している、というのが見えてきています。

以上のように、両者の意思の入った協業が「モノゴトの考え方の手法でも協業する」の意味だと考えます。

終わりに

今回のブログは、ちょっと筆者の嫉妬にも似た羨望感に由来するものでもあります。どうして、そんなに仲がいいのか?単にシュトゥットガルト(Daimler)とヴァルドルフ(SAP)が100Kmしか離れていないから?そんなしょうもないことまで口走ってしまうのです。

※本稿は公開情報に基づき筆者が構成したもので、ダイムラー社(Daimler AG)のレビューを受けたものではありません。