世界有数のグローバル総合金融サービス会社であるJPモルガン・チェースが挑み続けるバックオフィス業務改革、そしてデジタルシフトへの歩み


大手グローバル金融機関が抱える経営課題は日々増しています。金融危機以降に何度となく強化される金融規制への対応。そして、その度に収益力、収益性の維持・強化が求め続けられています。その為に過去より、ビジネスモデルの再構築、選択と集中は繰り返されてきました。収益力の維持に即効性がある対策として、グローバル金融機関では、時に事業再編に伴う大規模な人員削減・整理、店舗縮小、ノンコア事業などの資産売却といった施策に始まり、IT活用による事務量削減などがあげられます。

米国ニューヨークに本社を置き総資産、収益力、時価総額においても世界屈指の規模を誇るグローバル総合金融サービス会社であるJPモルガン・チェース・アンド・カンパニー(略、JPモルガン・チェース)の公表資料などからは、新たな規制・コンプライアンス対応の為に増員、追加コストが発生。また競争激化が著しい新たなフィンテック領域、ビッグデータ収集や解析、さらに分散型台帳技術のブロックチェーン開発などで採用される新たな従業員への教育・研修などへの経営資源の投入が避けられない中、幾度となく繰り返されるコスト構造を意識した上での組織改編を支えるバックオフィス業務関連の改善なども経営課題として認識すべき課題とし取り上げられ出したようです。ちなみに、JPモルガン・チェースの直近2018年のIT投資は108億ドル規模の支出とも発表されています。ちなみにネット決済専業のペイパル社の投資支出総額は、2017年に110億ドルに達したそうです。

JPモルガン・チェースが取り組んだバックオフィス業務改革の概要

2012, Manhattan, New York City, New York State, USA --- USA, New York, New York City, Traders at trading desk --- Image by © Tetra Images/Corbis

JPモルガン・チェースでも、先に述べた金融危機や金融規制に対応するべく、この数十年で急激な変化と成長の道を歩んできています。その中でバックオフィス業務を確実に遂行管理するため、2006年北米展開を皮切りに本格的なSAP ERPプラットフォームによる集中化が始まりました。現在、すべての買掛金処理と総勘定元帳をSAPのシステムで統合しながら、商品、サービスと言った発注・調達業務処理をSAP Ariba、従業員の出張、経費、請求書処理をSAP Concur、外部、臨時社員管理にはSAP Fieldglassと、SAPが提供するバックオフィス領域毎の専用クラウド・ソリューション(SaaS: Software as a Service)をグローバル規模で積極的に採用、活用することで、全社規模でのバックオフィス業務統合、標準化、効率化に日々取り組んでいます。

これらは、結果的に全社規模、部門毎、プロジェクト毎など様々な経費率の見える化を支援し、時に急変する組織変化などの際に様々なシミュレーション、予測分析(洞察力)などを可能とし、いかなる意思決定局面でも経費効率化オペレーション運営の大きな支援を担っていると思われます。そこで生み出される投資余力も活用し、積極的なIT投資を支える役割となっていることでしょう。

また、2018年4月末に公開されたSAP Ariba Liveイベントでの基調講演の記事中で、グローバル購買・支払担当マネージング・ディレクター、ジョナサン・リッジウェル(Jonathan Ridgwell)氏は、「契約交渉の際に調達業務支援が如何に役立つのかを考えている、調達業務の役割を拡大して当社に大きな利益をもたらすことができました」、また「我々は毎年5,000万ドルを節約している。 さらに早期の支払い割引は、コストではなく収益を生み出しているということを意味しています。請求書に応じた単純な支払いで商品調達をするというのは、ビジネスに負担をかけています。」とも述べています。つまり、蓄積された情報を有効活用し価格交渉を行うことで会社に新たな利益をもたらすというオペレーションを遂行しています。

商品、サービスの発注・調達業務支援にはSAP Aribaを活用

もともと、JPモルガン・チェースでは、SAP Aribaに関しては7年間、13カ国オンプレミス環境で運用していましたが、クラウドソリューションへ移行するタイミングで58カ国への拡大を計画しました。ちなみに世界58カ国における調達から支払いまでのプロセスで年間支払う請求書は、1,200万件、200億ドルに上ります。

利用しているSAP Aribaの機能は以下の通りです。

  • ソーシング機能:契約するサプライヤーの選別や社内で取り決めたルールに応じた監視(監査)の実施
  • 契約管理機能:全ての契約を保存し、契約に関する様々なレポートを作成
  • オークション機能:ベンダー向けにオークションを実施し、ある商品やサービスに最低価格を提示する業者を選定

また、SAP Aribaの利点は以下をあげています。

  • グローバルに展開されているサプライヤーネットワークでは、購買発注後のあらゆるプロセスが人の手を介さずに完結される
  • 契約コンプライアンス関連では、SAP Aribaが契約書の内容を発注書や商品価格と自動照合される
  • グラフィカルユーザインターフェース、モバイルの使い勝手の良さにも期待している
  • SAP Aribaは調達業務の複雑さを解消し、サプライヤ管理プロセスを簡素化される
  • 完全に統合されたネットワークベースのソリューションは、リアルタイム洞察力、分析なども提供される
  • 特にサービス調達におけるコンプライアンスにて、契約から調達管理まで透明性が担保される

従業員の出張、経費、電子請求書処理には、SAP Concurを活用

SAP Concurは2014年にグローバル規模で導入され、200億ドルの請求書処理をSAP Concurで実現しています。

SAP Concurの利点に関しては以下をあげています。

  • グローバルで導入することで数千存在していた費目が50へと削減され、処理効率も格段に向上
  • モバイルを積極的に活用することで従業員の経費処理の生産性向上も実現
  • 出張、経費管理だけでなく電子請求書の作成も全世界共通のシステムで実行され、未処理の請求書や経費など一元的に処理の状況をリアルタイムで把握可能
  • 直感的に使えるので個別トレーニングは殆ど必要なくなり、ITを活用したオンデマンドトレーニングの実現
  • JPモルガンのコーポレートカードと統合し利便性と可視性の向上

スクリーンショット 2018-12-04 17.56.36※SAPバックオフィス業務改革支援のソリューション全体像

外部要員管理にはSAP Fieldglassを活用

JPモルガン・チェースに関わらず、外部要員とサービスに関する支出を手作業と紙ベースのプロセスで管理されている会社は多く存在します。特にグローバルでビジネス展開する会社では地域や事業グループによってプロセスが異なるため、以下のような問題が生じています。

  • 外部要員の状況がグローバル全体で可視化されていない
  • プログラムの効率性が非常に低く、コストが増大
  • 社内ポリシーと法規制に関してコンプライアンス上重大なリスクがある

また、SAP FieldglassとSAP Aribaの連携利用まで行えると、パンチアウト(カタログ)統合の実現にてユーザーエクスペリエンスの向上を図り、請負契約・認証の申請プロセスを実装して、外部要員の入社(オンボーディング)プロセスを効率化することが可能となります。

ある米国大手金融サービス会社では、技術系、非技術系という2つの主要領域で外部要員および実際のサービス評価を実施し、経営幹部や採用担当マネージャーのプロジェクト支援を得るため段階的なアプローチを経て全社規模にまで拡大され、着実な成功を収めています。

この会社では、当初、コスタリカ、フィリピン、日本、インドなどで13,000件以上のリソース管理を対象とした作業範囲記述書(SOW)契約の取り組みも実施。これにより、業務の遂行において企業ポリシーや手順の遵守状況を検証するためのガバナンスモデルを確立され、可視性が向上した結果として外部要員管理の最適化と常にコスト削減のためのより詳細な分析が可能になったと言うことです。現在は、アジア地域へのソリューションの展開に取り組まれており、この構想が完了すれば、独自のビジネス要件や請求要件を抱える12カ国以上をさらに管理対象に加えられるそうです。結果として、外部要員の管理費コスト削減、コンプライアンスの強化、リスクの軽減など、重要な業績指標の大幅な改善、達成をされるようです。

まとめ: 国内金融機関での導入取り組み状況と今後の展望

最後に、国内大手金融機関のIT投資では、一般的に以下のような傾向になりがちと言われています。

  • 規制対応、維持・改修費等、いわゆる固定費扱いの支出割合が高い
  • システム経費の中に占める外部委託比率が高い
  • 比較的小規模になりがち(部門予算など)

結果として、大手グローバル金融機関のIT投資が、既存システムのメンテナンスなどを中心40%台、対顧客向けサービスの高度化、利便性向上のための投資が60%近く占めていると言われているのに対し、国内金融機関では、システム関連経費の目的別内訳が、システム維持・運用に70%強、そのため新規開発領域は20%前後台であろうと言われています。

一方、ここ数年で国内の金融機関においてもSAP ERP(財務会計領域)のみならず、JPモルガン・チェースの事例で紹介してきた個別クラウドソリューションのSAP Ariba, SAP Concur、SAP Fieldglassなどの採用実績は増えています。ただし、その採用自体は個別かつ限定利用のケースがほとんどと言えます。しかし、今後は是非とも、大手グローバル金融機関がそれなりの時間と労力を掛けて挑んでこられた事例を土台に、国内金融機関においても、日本が得意である個別最適を磨きあげた上で、それらを連携活用させて効果も最大化させ、日本の金融機関ならではのバックオフィス統合モデルへと発展して頂けるようSAPとしてもますますの支援ができればと考えています。結果的に今後激しく変化する外部、内部環境への対応を迅速かつ柔軟に成し遂げられる経営戦略に貢献できる戦略購買、戦略的人事システムなどとして国内の金融機関でも広く認知されることを期待しています。

※本稿は公開情報をもとに筆者が構成したものであり、JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー社のレビューを受けたものではありません。

出典:

How JP Morgan Chase Saves $50 Million Each Year with SAP Ariba

https://news.sap.com/2018/04/how-jp-morgan-chase-saves-50-million-each-year-with-sap-ariba/

大手金融機関がSAP Fieldglassを導入して複雑なビジネス課題を解決

http://jp.fieldglass.com/sites/default/files/CS_Solved_Complex_Business_Problem_jaJP_01r.pdf