製造業におけるサプライヤー価格交渉の再創造


今回のブログでは製造業の調達・購買部門にスポットライトを当て、サプライヤーとの契約交渉、コストダウン交渉など調達・購買部門の中でも付加価値の高い業務を最新テクノロジーを活用して再創造してみようと思います。

このテーマを取り上げた背景はいくつかあります。

1つめは技術革新の観点。私は製造業関連でビジネスを20年以上従事してきており、時代とともに課題も変わり、解決方法も技術の進化により変わることを見てきました。昨今の技術革新により、インテリジェントに業務を行える可能性がさらに広がってきていると最近特に思うようになってきました。

2つめは製造業の競争力の観点。製造業の競争力を向上するにはQCD(品質、コスト、納期やリードタイム)が重要ですが、その中でもコスト、つまり製造業で言えば製造原価を抑えることは昔も今も変わらない競争軸です。時代とともにものづくり戦略も徐々に変化が見られます。自社工場を持ち、生産も自前で行う垂直統合型のものづくりから、米国企業のようにEMSなどを活用したファブレス化、水平統合型のものづくりへシフトしてきている企業も以前に比べ増えてきていると感じます。このように生産を自社以外に委託していくケースが増えていくと、原価構成要素のうち材料費や外注加工費などのサプライヤーとの交渉でコストが決まる要素が増えるため、購買部門が果たす役割が一段と重要になってきます。原価低減を実行し企業収益に貢献する中心的な部門として調達・購買部門があるのではないかと、私は思っています。

そして3つめが労働力不足の観点。製造業における労働力不足は実感される方も多くなってきたのではないでしょうか?労働力不足にはいろいろなご意見もあると思いますが、私が注目しているのは絶対量としての労働力、つまり頭数という視点と、例えば調達・購買部門の調達・購買部門担当者のように担当する部品群に関する知識を持たれた方などある業務領域にスキルを持たれた方々といった技能者・専門家などの知識労働者の労働力という視点の2つです。後者の方々というのは知識、ノウハウもあり企業から重宝されるのですが、長年その業務をやられてきた方々も多く、今後退職を迎える時期が来て知識・技能継承が大きな課題になっているという観点です。

この3つの観点から製造業の調達・購買部門にスポットライトを当て、付加価値の高い業務を最新テクノロジーを活用して再創造してみようと考えました。

まず調達・購買部門の労働力が不足

日本においては様々な産業で労働力不足が言われていますが、製造業も深刻な産業のひとつです。こちらの記事に興味深い分析があります。

https://www5.cao.go.jp/keizai3/monthly_topics/2018/0302/topics_052.pdf

(出典:人手不足感の高まりについて)

この中でも、産業別の未充足求人数(図1)をみると、パート求人比率が多い産業と一般求人比率が多い産業が見て取れ、製造業は一般求人の比率が高いことがわかります。さらに、人手不足が企業経営に与える影響の内容(図2)を見てみると、需要の増加に対応できない、技術・ノウハウの伝承が困難、のふたつが企業経営に与える影響が高いと答えている人が多いことがわかります。

図1: 産業別の未充足求人数(2017年)

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図2:人手不足が企業経営に与える影響の内容(2016年)2_clip_image004

調達・購買部門ではどうでしょうか?実際、調達・購買部門においてはサプライヤーとの交渉を行い、支出を抑え、コストダウンに寄与する活動が付加価値の高い業務になります。優秀な調達・購買担当者は市場価格の感度も高く、様々なデータを用いて交渉に臨んでいます。しかし俗人化されているために標準化が進んでいないのも実態として多いのではないでしょうか。さらに言えば、俗人化された業務を前提としているがゆえに課題ととらえざるを得ないのではないでしょうか?

ゆえに付加価値の高いサプライヤーとの交渉にしわ寄せ

調達・購買部門の今後の取り組みに関する最近のサーベイ結果(図3)を見てみると、実に57%のCPO(Chief Procurement Officer)がサプライヤー交渉のためのインテリジェントで先進的な分析を挙げています。そして56%のCPOが業務プロセスの効率化、改善を挙げています。

図3:今後2年間で調達部門に求められる能力3_clip_image006

ではサプライヤーとの交渉が必要な業務シーンにはどのようなものがあるでしょうか。大きく分けて2つに分けられると思います。

ひとつめは新製品に関するソーシング業務。こちらは完成品の部品表に関連して製品、ユニット、部品を新規採用する業務シーンになります。設計・開発部門や生産技術部門などと連携しながら、対象となる品目に対して複数サプライヤーに見積依頼を出して価格も含めた選定基準に対して最適なサプライヤーを選定するプロセスになります。新製品リリースが多い企業は、このプロセスが調達・購買部門にとって極めて重要であり付加価値の高いプロセスにITを活用して効率化、最適化を図る取り組みも進んでいる領域になります。

もうひとつは部品や部品リストに焦点を当て、市場動向を加味して継続的に価格交渉を行う業務シーンです。汎用部品に関して複数社購買を行っている企業も多いと思いますが、年に1回もしくは複数回価格交渉を行い、コストダウンを行う業務になります。

調達・購買部門にはこのように新製品に伴う新規取引先との交渉、そして継続的にコストダウンを行う交渉と2つの付加価値の高い業務があります。しかし、調達・購買部門も潤沢に人員を抱えられるわけではないのが昨今の状況かと思われます。特に後者の継続的にコストダウンを行う汎用部品に関しては、取り扱う部品の数がそもそも多く、最終製品のラインナップ数も複数存在しており、さらには部品を提供するサプライヤーの数も多いため、交渉を進めるための情報を集めるのもひと苦労です。それこそ優秀な調達・購買担当者であれば、増産の見通し、為替変動、材料市況の変動などを感知して、関連する部品を即座に特定し、サプライヤーとの交渉に臨むかもしれませんが、経験の浅い調達・購買担当者は果たして継続的なコストダウン交渉に即座に臨めるかというと極めてむずかしいと思います。

この継続的なコストダウンを限られた調達・購買人員でも最新技術革新をもって解決できないか?

実はこのような課題文をSAPでは製造業のお客様と議論しています。原価低減を進めるためには、特にファブレス企業はサプライヤーとのコストダウン交渉がポイントになっており、スマートに、インテリジェントにデータドリブンで交渉を進めることを望んでいます。つまり、調達・購買担当者の経験や勘にたよらずにシステムから交渉に必要な情報を得て、交渉に臨めるようにするための方策であり、まさに図3にあるサーベイ結果と合致する内容です。

なぜ今まで調達・購買担当者が情報武装できなかったのか

実際に交渉を優位に進めていくために調達・購買部門が情報武装をしようとしても、そこには大きく5つのハードルがあります。

  1. 交渉に必要な情報が社内で散在している
    事業、拠点が複数になり、先々の需要の情報、今までの購入履歴情報、コストダウン履歴などの情報が散在され、集約するのに時間や手間がかかる
  2. 取扱品目、最終製品数、サプライヤーの数が多く、収集されたデータは膨大な量になる
    スプレッドシートによる膨大な量のデータ
  3. 市場動向、市場価格を把握する方法
    マーケットベンチマークデータなど外部データの収集に多くの労力がかかる
  4. 取扱品目が多いため、優先的に交渉を進めるべき品目の特定がむずかしい
    コストダウンインパクトの大きい最適な部品の特定には大きな労力がかかる
  5. 複数社購買している場合、購買比率を変更した場合のシミュレーション
    交渉経緯の記録と見直しが繰り返されるため労力がかかる

解:テクノロジーの進化によりハードルを乗り越える

原価低減のために部品レベルでのコストダウン交渉は有効な打ち手ですが、情報武装のハードルや、やりたくても人材不足によりできなかったと思われる企業も多いのではないでしょうか。しかし、昨今のテクノロジーの進化、例えばクラウドを含めたインテグレーションの技術、ビックデータ技術、マーケットベンチマーク、予測分析技術、マシンラーニングなどにより情報武装のハードルがなくなり、限られた調達・購買人員で交渉価値のある部品に対してタイムリーに情報武装し、市場価格も考慮しながら有利に交渉に臨むことが現実的にできるような時代になってきました。

SAP Sourcing Simulation and Optimization for Industries

複数のお客様からの要望をもとに、最新テクノロジーを活用してソリューションとして開発してきたのがSAP Sourcing Simulation and Optimization for Industriesです。

SAP Sourcing Simulation and Optimization for Industriesの全体像をハイレベルで示すと図4のようになります。

図4:SAP Sourcing Simulation and Optimization for Industries概要

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* お客様とのCo-Innovation活動の過程における優先順位に従い、SAP製品(SAP Ariba、SAP S/4HANA、SAP IBP等)や、市場ベンチマークデータプロバイダーとのインテグレーションを継続的に構築予定

また、こちらのビデオはイメージとしてわかりやすいのでご覧ください。

Video_Capture機能の紹介等は当ブログの趣旨ではないため割愛しますが、ポイントは①~④にあるデータ統合、ロールごとのワークベンチ、市場ベンチマークデータの提供や予測分析、シミュレーション機能に加え、SAP HANAをベースとしたSAP Cloud Platformのためビックデータを扱えるなど最新テクノロジーを活用しており、経験の豊富な調達・購買担当者でなくても必要な情報武装をして価格交渉を進める支援をする点にあります。2018年12月時点では企業名は非公開ですが、すでにこのソリューションを利用しはじめ、限られた調達・購買人員でコストダウン、複数社購買の最適購買比率の決定などの業務を遂行し始めたアメリカ企業がいます。ちなみに現在米中間の貿易関税をめぐる議論は活発で、貿易関税対象品目、税率ともに変更が頻繁に行われているため、原産国、関税率なども考慮した交渉も必要になり、ますます情報武装した価格交渉の重要性が増しているとのことです。このように調達・購買部門の付加価値の高い業務であるサプライヤーとの価格交渉は、最新テクノロジーを活用していくことで、限られた人的リソースであっても俗人化を避けられるのではないでしょうか。

最後に

今回は製造業の調達・購買部門にフォーカスして、労働力不足がささやかれる中、いかに最新テクノロジーを活用して経験豊富でない方でも付加価値の高い業務を効率的、効果的に行うか、SAPのお客様との取り組みも交えてお伝えさせていただきました。

これからの時代、自動化していける部分は自動化し、人はより付加価値の高い業務にシフトしていくものと思われます。調達・購買領域以外にも人海戦術の限界を迎える領域は多くあります。特に少子高齢化で労働人口も減っていく日本においてはテクノロジーを活用した高付加価値業務へのシフトは益々重要なテーマになると思っています。日本の製造業を中心に引き続き変革のご支援をしていきたいと考えています。

参考記事

https://www.sap.com/products/sourcing-simulation.html