新たな事業の創出と成長に向けたグローバル人材の育成戦略の最前線―SAP HR Connect Autumn 2018 パネルディスカッションレポート


2018年11月7日(水)に東京・汐留で開催されたSAP HR Connect Autumn 2018では、「人事こそ最強の経営戦略」と題したパネルディスカッションが展開されました。ディスカッションに参加した、オムロン株式会社 執行役員 グローバル人財総務本部長の冨田雅彦氏、またSAPジャパン株式会社 代表取締役社長の福田譲によるディスカッションの模様をお伝えします。
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「人事とは時代の新たな領域への挑戦」というパナソニックの理念

人事戦略を考える上でまず重要なのが、人材育成に関する基本的な理念をどのように定めるかという問題です。この点について、まずパナソニックの三島氏は「人事とは時代の新たな領域への挑戦」との考え方を示し、新たなビジネスの成長を実現するためには、次の3つの具体的な “挑戦” が求められると話しました。

  1. 成長をリードする経営者作り
  2. グローバル人事プラットフォームの整備
  3. A better workstyle = 一人ひとりの働きがい改革

特に「経営者作り」については、それぞれの人材の能力を正しく把握し、成長に向けた意欲を喚起しなくてはなりません。その上で能力や経験に応じて責任ある仕事を与え、指導する。さらに指導する側がその人材=部下を私物化することなく、彼らにふさわしい挑戦の場を与えることが大切だと、三島氏は説明します。

パナソニック株式会社コーポレート戦略本部 人材戦略部部長 三島茂樹氏

パナソニック株式会社コーポレート戦略本部
人材戦略部部長 三島茂樹氏

2つめの「グローバル人事プラットフォーム」は、新たな事業創造と成長を牽引するキーパーソンをグローバルな視点で発掘・育成していくための基盤です。文化、慣習の異なる国や地域から一定の条件を満たす人材を集める上で必要となるのは、1.報酬の透明性、2.共通の価値観、3.適材適所の人材配置の3つです。国籍の区別にとらわれず、平等な評価と1つのゴールを目指す問題意識を醸成していくことが、パナソニックの未来の成長につながるということです。
これに対してSAPジャパンの福田は、自社の課題として「チャンピオン事業が強すぎて、チャレンジャー事業が育たない」という悩みを挙げました。ERPをはじめとするエンタープライズ向け業務アプリケーションはSAPの大きな収益源であり、今なお成長を続けています。しかし、その存在感のあまり新規事業がなかなか育っていませんでした。この課題に対する人事戦略として、SAPではさまざまな業務改革を行い、デザインシンキングの導入などで新たな事業創出に向けた一歩を踏み出したところだと、福田は明かします。

パナソニックのグローバル人事プラットフォームは、世界から優れた人材を発掘・育成するための基盤

パナソニックのグローバル人事プラットフォームは、
世界から優れた人材を発掘・育成するための基盤

コアポジションを担う人財材を育成するオムロンの「VG2020」戦略

パネルディスカッションに参加した各社では、いずれも事業の成長戦略と密接に結びついた人事に関する中長期ビジョンを策定しています。ここではオムロンの例を見ていきましょう。

オムロン株式会社 執行役員グローバル人財総務本部長 冨田雅彦氏

オムロン株式会社 執行役員
グローバル人財総務本部長 冨田雅彦氏

オムロンの冨田氏は、同社の事業戦略の特徴として1991年から10年単位で実施されてきた長期ビジョンを挙げます。2011年から始まった「VG(バリュージェネレーション) 2020」は、文字通り新たな価値を創造する10年として位置付けられています。ここでは、以下の3つの人財戦略が示されています。

  1. コアポジションとコア人財戦略:グローバルでの重要ポジションへの最適な人財配置と、その能力を持った人財の育成
  2. グローバルプラットフォームの構築:ビジネスカンパニーごとに独自の人財戦略を実行する上で必要な共通の人事プラットフォームの整備
  3. 企業理念の浸透:現場・顧客の視点に立った専門能力、その連携を可能にする個人および集団の風土結成

同社にはグループ全体で約200の重要な執行ポジションが存在します。そうした役職を担える人財の育成こそが、グローバルビジネスでの成長を実現・継続する上で不可欠の課題だと、冨田氏は語ります。
人財戦略はこれまでも成長戦略の中に組み込まれてきましたが、「VG 2020」で初めて独立した施策として示されたことからは、オムロンのリーダー人財育成にかける意欲が伺えます。

3つの戦略から構成されるオムロン「VG 2020」の人財育成ビジョン

3つの戦略から構成されるオムロン「VG 2020」の
人財育成ビジョン

社外との交流体験や企業理念に即した新たな価値創造への試み

セッションの後半では、各社の具体的なトライアル事例が報告されました。まずパナソニックの三島氏は、「社外留職へのチャレンジ」を紹介。これは「外とつながり、成長の機会を創出する」というコンセプトのもとで、外部の企業や人とコンタクトする場を設け、風土や価値観、仕組みの異なる場所で自己成長を促すというものです。社内とはまったく違った環境に人材を置くことが、一人ひとりの多様な能力とリーダーシップを発見するきっかけになると、三島氏はその狙いを説明します。
一方でオムロンの冨田氏は、企業理念の実践事例をグローバルで共有し、価値創造にチャレンジし続ける風土を定着させる取り組みとして、2012年から始まったグローバル全社員が参加する「TOGA(The OMRON Global Awards)」を紹介しました。
TOGAはチーム単位で参加し、オムロンの企業理念に基づくテーマを宣言して、その実現に向けて取り組みを競い合う場です。2017年度は、社内だけでなく地域・職種を越えた社会的課題の解決や、お客様や社会への価値創造など
6,216テーマ、延べ5万人が参加。また評価に当たっては、各人が「社会に対してどのような価値を生み出していくのか」「価値の創造に向けていかに発想を変えるか」「そのためにどのような社内外のパートナーと連携していくのか」など、テーマを実現するためのプロセスが結果以上に重視されると、冨田氏は付け加えました。
SAPジャパンの福田も、グローバル人材の育成に向けた自社の取り組みについて言及し、現在は「ドイツ人材中心からグローバル人材へのシフト」の過渡期にあると話しました。SAPは長らく本社のあるドイツを中心に運営されてきました。しかし、近年は「カタリスト=変化の触媒になれる人材を中心に据える」との発想転換に基づき、意識的に人材の多様化を促進。SAPでは初のアメリカ人CEOであるビル・マクダーモットほか、さまざまな国籍の人材のボードメンバーへの登用が、こうした改革の表れであることはいうまでもありません。

グローバル人材の積極的な登用ほか、多様性に富んだ組織作りに挑むSAP

グローバル人材の積極的な登用ほか、多様性に富んだ組織作りに挑むSAP

解答のない時代を前進するトライ&エラーの勇気

セッション終盤のパネルディスカッションでは、「人材育成に関する意識を、いかに社内で統一・共有するのか?」というファシリテーターからの質問に対して、それぞれのパネラ―から意見が寄せられました。
パナソニックの三島氏は、大切なのは事業戦略に適した人材をいかにして発掘するかだと指摘します。そのためには、まず自社でどのように事業を創造し、収益を上げるかという基本ビジョンが欠かせません。パナソニックでは現在、かつての家電からB to Bにシフトする動きが急速に進んでいます。こうした変化の時代には、あらかじめ定まった人材像ではなく、必要な能力を持つ人材を柔軟に事業に配置していく発想が必要だと、三島氏は語ります。
またオムロンの冨田氏は、目的意識の共有においては、社会的な課題を自分たちの事業ドメインの中でどう解決するかという視点が必要だと指摘します。こうした視点は、年齢層や立場によってさまざまです。多様な人材が集まって、ベースとなる部分で“オムロンらしさ”を共有しながら、課題解決についてとことん議論していく。冨田氏はそのオムロンらしさの1つが、社会の課題に対して自分たちの技術や事業戦略をどう役立てるのかという視点だと強調しました。
こうした2人の意見を受けて、福田は「みんなで同じところを目指しながら、自分たちは何のために仕事をしているのか」という問いを日本企業が伝統的に大事にしてきた点を改めて指摘。解答のない時代に向けて歩みを進めていくためには、こうした議論を繰り返しながら挑戦を重ね、失敗にひるむことなくその経験を次に活かしていくことが必要だと語り、ディスカッションを締めくくりました。

>>ご参考:SAP SuccessFactors製品資料ダウンロード